任侠道ゆえに

スコットランドがなぜ好きなのだろうか,と,自問自答することがあるが,なかなか気に入った答えが見つからなかった.”スコットランド人気質”が主因だということはほぼ間違いないのだが,では,その気質とは何かと問われると,おそらく,自分の本質に近すぎるから,見えないのだろうと,推測してはいたのだが,うーんと唸ってしまうのが常だった.

しかし,先日,向島にある母校が軟式野球の東京都大会で初優勝し,全国大会に出場したのを記念して,浅草の場外馬券売場横の飲み屋で,店先にある大鍋で煮染めたおでんを肴に,ビールをひっかけた後,いつもならロック座に向かおうとする足が,酩酊故にか,何故かその先の映画館に向かい,古い東映映画を見ながら,いくつかのキーワードを思いついた.それは,義理,人情,任侠道といった言葉である.

例えば,ロブ・ロイ.”国を捨て,縄張りを捨て,かわいい子分のてめえ達とも,別れ別れになるこの門出だあ”こりゃ,完全に国定忠治の世界である.(スコットランドでは,月が見えるほど晴れている夜は,ごく希なのだが,長く透徹した冬,日本の夜空のそれよりも空高く掲げられたオリオン座とともに月明かりが鮮やかな夜に,ロブ・ロイがRubby Burnsを口ずさんだとしても,決して不自然ではない)

ロバート・カーライル演じるマクベス巡査も,ミステリーというよりも,義理と人情を何よりも大切にする寒村の人々の物語の主人公である.

任侠道は多数派の世界では育たない.少数派,もっとはっきり言えば,アウトローが結束力を維持するための知恵である.Union前のハイランドは水滸伝の世界だし,各Clanはそれぞれ清水の次郎長一家みたいのものと考えればよい.だから任侠道はスコットランドでは育つが,イングランドでは決して育たなかった.

私がグラスゴーで受けた数々の恩情も,遠路はるばる日本からやってきた人が困っているからという理由ではなくて,同じ鍋のチップスを食ったという仲間意識の上に立った人情ゆえだったし,私がいかがわしいはったり情報を満載したホームページを運営していられるのも,二年間,つまり,七百何宿,二千何飯の恩義があるからだ.

スコットランドのホームページへ