癩病患者の悲劇再び

MRSA(メチシリン耐性ブドウ球菌)というと何か特別なバイ菌と考え,そのバイ菌を持っている人も特別に汚い人と無邪気に考える人が医療関係者にも多い.そのため,特別養護老人ホームとか,老人保健施設とか,障害児(者)の施設で,外部の病院から戻ってくるのを拒否されたり,戻ってからも隔離され,行動を束縛され,十分なケアを受けられないといったケースが多い.

MRSAは所詮,常在菌であるブドウ球菌の1種である.恐ろしいのは,抗生物質を乱用する医療施設の中だけだ.老人ホームや障害者施設では何ら害を及ぼさない.稲松(1)は,特別養護老人ホームでは,MRSAのみを目標とした特別の対策を行わなくても,施設内での交叉感染はまれであり,感染症発症の実害も認められなかったとしている.我々の施設でも,過去5年で5例のMRSA保菌者(すべて外部の病院入院中に抗菌薬投与を受けていた)を受け入れたが,特別の対策は行っておらず,MRSA感染症は1例もない.

癩病患者の悲劇を繰り返してはならない.医療関係者であるとないとにかかわらず,MRSA保菌者への偏見と不当な差別をなくすよう,努力していかなくてはならない.

1.稲松孝思.高齢者施設と感染対策.日本感染症学会編集,厚生省医薬安全局安全対策課編集協力改訂院内感染対策テキスト.へるす出版.pp179-186.

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