ストックホルムへの道

風邪の季節です.外から帰ったらうがい,手洗いをしよう.このスローガンは未来永劫にわたって維持されるだろう.しかしうがい,手洗いが風邪の予防になるなんて証拠はこれっぽっちもない.私の言っていることが信用できませんか?ならば,うがい,手洗いが風邪の予防に有効であることを証明した研究を私に教えて下さいな.ただし,ここで言うのは慢性閉塞性肺疾患などの細菌性気道感染のリスクの高い患者がポピドンヨードの入った液で口をすすぐなんて特別な場合ではない.ありふれた”うがい”だ(下記注参照

あの,上を向いてがらがらぺってやる,”うがい”は日本以外の国でもよくやるのかね,じゃんけんの文化人類学のノリで調べてみたいもんだが.

1918年のスペイン風邪の流行時に,アメリカ軍の新兵が食塩水でのうがいをしている写真が,菅谷憲夫先生の”インフルエンザ”(丸善ライブラリー”の18ページに載っている.その姿は,日本人がやっているうがいと同じだ.

また,同じページに,やはり日本人が風邪にかかった時に頻用する”マスク”を,スペイン風邪流行時にはアメリカ人も使っていた証拠写真が載っている.

私がグラスゴーにいた90-92年の間には,うがいもマスクも目撃しなかった.
 

うがいによる咽頭痛緩和に関しては,すでに,20年前にRandomized Controlled Trial がある.

Whiteside MW.A controlled study of benzydamine oral rinse ("Difflam") in general practice.Curr Med Res Opin. 1982;8(3):188-90.

Fifty-two patients suffering from presumed viral pharyngeal infection or tonsillitis were treated with either benzydamine or placebo oral rinse as a gargle at 3-hourly intervals in a randomized double-blind study. Patients on the active preparation experienced faster resolution of pain and dysphagia and at 7 days 88% were symptom-free compared with 38% on placebo.

しかし,うがいによる感冒予防効果のRCTはない.もう2年以上も前になるが,内科専門医会のMLで,内科専門医が被験者になってRCTをやろう、と提案したのだが,未だ実現していない.大魚をみすみす逃すのか??

もし,あんな簡単で経済的な方法で風邪という人類最大の疫病を防げるんだったら,これはジェンナーの種痘を上回るニュースだよ.”うがい”の有効性を証明すればNew England Journal of Medicineに絶対論文が載る.

NEJMに論文が載るなんてしみったれた話にとどまらない.プリオン病なんて100万人に一人の治りもしない病気の病原体を見つけただけでノーベル賞がもらえるんだぜ,風邪の予防はどんな病気の予防よりも多くの人に幸福をもたらし,経済効果もばく大だから,ストックホルム行きの切符を予約したも同然だ.

注:2003年,ついにストックホルムへの切符を手に入れた研究者は京都大学保健管理センター  川村 孝先生.川村先生は,「うがいの感冒予防効果」と
「NSAIDの感冒治癒過程に及ぼす影響」に関する2つのRCTを実施しました。そのうち うがいについては全国18施設から387名の参加を得て無事終了し、「水うがいで感冒 罹患率(ハザード比)が4割近く減少する」「ポビドンヨードうがいにはほとんど予 防効果が認められない」という結果を得ました.
 
 

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