国立病院療養所の重症心身障害者病棟の問題点

昭和41年から,政策医療(国の方針で,民間がやりたがらない赤字覚悟の医療をやること)として開始.児童福祉法上の委託病棟として位置づけられている.重心への入院が措置入院であり,対象者の年齢に関わらず児童相談所の管轄であることは,そもそもこの原点に由来する.国立病院療養所の重心病棟は,昭和50年までに80施設,8080床が整備され(現在は2施設が民間に委譲され,78施設7800床),重心児(者)の福祉・医療に大きな役割を果たしてきた.一方,公法人立の重心者施設は1997年の時点ですでに78施設,8009床と,国立病院療養所と同数になっており,現在は国立病院療養所を上回っている.
参考になる数字:重心児(者)は全国に3万6500人(推定).このうち入所児(者)は1万7000人,在宅者は1万9000人と,在宅者が6割強を占める(*1)

問題点:最大の問題は,多くの国立病院療養所で,病院幹部が,重心病棟の重要性や問題点を全く理解していないこと.病院幹部の中に小児科神経科医がいることは極まれだから,病院幹部は,重心棟の本質,つまり重心病棟が児童福祉法の委託病床であり,したがって,福祉の場,生活の場であることを理解してない.重心児(者)は,あくまで病院,患者としてしか扱われていない.

したがって,医療面でそれほど手がかからない場合には,本来福祉のために重心棟に割くべき人員配置や費用での搾取が行われている.たとえば,本来重心棟に配属されるべき保母・指導員の枠が,神経疾患のリハビリテーションのスタッフの枠に使われるといった具合である.入所者1名に対して職員1名など,夢物語である.また,措置費は一旦国庫に入ってしまう形になっているので,すべての措置費が重心児(者)のために使われているかどうか全くわからなくなってしまう.実質的には大幅に流用されているだろう.
このように,多くの国療の重心棟では,,本来の人員配置,資金配分が行われていないので,機能不全に陥っている.当院では,短期入所の実績は年に数件で,通園事業や生活支援事業の実績は全くない.利用者は,距離が遠くても,長岡療育園に流れていってしまう.だから,厚生労働省としても,国立病院療養所の重心は,政策医療の柱としての重心児(者)福祉から撤退し,その多くを民間に委譲し,残ったところは超重症児の病棟に特化させようという腹づもりらしい.

参考資料
1.平成13年度国立病院療養所共同基盤研究 独立行政法人化に向けて国立重症心身障害施設での重症心身障害児(者)の医療にあり方に関する研究.

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