三分の計虚し

以下開業している大学の同級生とのやりとりである.

2002年4月の診療報酬引き下げの影響で、「患者は増えているのに収入は減った」という状況が続いています。

自らリスクを背負って医療現場で奮闘している君には縁起でもない話ですが,帝国データバンクによれば,実際に診療所の倒産が増加しています.2002年の医療機関の倒産は過去最悪の迫る勢いです.放漫経営の病院が倒産するというのは過去の形で,老舗の診療所が本業不振で倒産するというタイプが増えているとのことです.

「医療保険制度改革に医者が反対するのは自分たちの収入が減るからだ」というのが多いですよね。自己負担が増えて医者にかかれなくなる人が多くなってもかまわないと言うのでしょうか?声をあげない国民自体もおかしいのではないか。

国民の多くは,”医は仁術”だと思いこんでるから,いい医療サービスには金がかかる.命は金で買うもんだということが全然わかっていないんですね.

だから,”昔から優遇税制であくどく儲けていた病院や診療所が今になって潰れても痛くもかゆくもない.良心的にやっている所が選別されるので,むしろ好ましい”と,ノーテンキなままでいられるのです.病院・診療所の倒産は,ゼネコンの倒産よりも同情が少ないし,そもそもメディアのネタにさえもなりません.

大衆に対するプロパガンダの基本中の基本は,大衆の大好きなTV番組にあります.それが水戸黄門であり,プロレスです.大衆には,パンと見世物を与えよと言いますが,この見せ物は,悪者がやっつけられるお話でなくてはいけません.わかりやすい悪役を作って,大衆自身を水戸黄門あるいは力道山と思わせ,正義は我にありと,いい気持ちにさせることが絶対に必要なのです.

医療費問題に関しては,厚労省が無い知恵を絞らずとも,”医は仁術”という”国民”特有の妄想ゆえに,医療機関が自動的に悪代官になってしまう.普段は悪役専門の厚労省が,こと医療費削減に関しては,うまくすれば助さん格さん,下手したってせいぜいシャツを破られる沖識名レフェリー気取りで,大衆からは全く攻撃されない秘密がここにあります.

ここで注意しなくてはならないのは,立場が変われば,我々一人一人が,一般大衆になりうるということです.たとえば,医療費削減に関しては,実は大多数の国民は,何もわからずにおろおろしている無垢な人々です.無能な日本医師会執行部と極悪人である厚労省を叩く一般の医師は,厚労省から見ればやはり一種の一般大衆なのです.

一般大衆になってはいけないというのではありません.そんな青二才の観念論より,喧嘩に勝つことの方が大切です.基本戦略は,第一に,”国民”を味方につけること,第二に,医師会の中で仲間割れしないこと(厚労省の思う壺),第三に,厚労省に本来の悪役に戻ってもらうことですが,これまでのところは,まるきり逆の状況になっています.

つまり,医師会が勝手に内部分裂(無能な執行部と,それに対して憤懣やるかたない会員)していて,国民の多くが持っている妄想,つまり医師会は金儲けのことを優先する開業医の集まりという陳腐なステレオタイプの先入観念を訂正できない,いつまでたっても変わらないこの国民の妄想に漁夫の利を得て,運良く悪役を免除されている厚労省といった配役が固定してしまっているのです.

日本医師会が三顧の礼を以ってしかるべき人物に広報業務を全面的に任せれば,厚労省に,本来の悪役専門に戻っていただくことはそれほど難しいことではないのですが,上越医師会のレベルでさえ,医師会報にBSEの解説記事を書かせたいのだが,あいつは医師会員ではないからだめだという程度の見識では,とてもじゃないけど,お先真っ暗.

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