脳室内出血の診断

98/9/16受付
質問(内科開業をなさっている方から,かかりつけの患者さんが脳室内出血で脳外科に入院中とのことで問い合わせ)
当院の症例(30代女性)で一次性脳室内出血の方がいらっっしゃるのですが、一次性脳室内出血の診断、治療、予後などを教えて頂けませんか。意識清明、麻痺等の神経学的異常はない。現在脳外科入院中で止血剤の点滴のみ。第6病日です。

コメント1(池田)
一次性脳室内出血とのことですが,これは”原因不明の脳室内出血”ということでしょうか?脳外科に入院なさっているとのことですから,血管造影がすでに行われて動静脈奇形と動脈瘤は除外されていると仮定してコメントいたします.

除外すべき基礎疾患,病態として,すぐに頭に浮かぶものは

経口避妊薬の服用
脳静脈血栓症
出血傾向の一般的なスクリーニング
lupus anticoagulantのチェック
血管炎を中心とする膠原病(高安病,SLE,PN)(脳出血で発症することはまれですが)
血管内を中心として広がるB cell系のリンパ腫(以前,neoplastic angioendotheliosisと呼ばれていたもの.まれな疾患ですが,LDHの著明な上昇があれば疑わしくなります.)

当然,治療は上記原因によって異なります.ご不明の点があればお問い合わせ下さい.また検索の結果を適宜お知らせいただければ幸いです.取り急ぎ回答まで.

返信1
>一次性脳室内出血とのことですが,これは”原因不明の脳室内出血”ということでしょうか?
そうです。

>脳外科に入院なさっているとのことですから,血管造影がすでに行われて動静脈奇形
>と動脈瘤は除外されていると仮定してコメントいたします.
まだ、angioは行われていません。(緊急性が無いとゆうことか?)おっしゃるとうりfurther examinationが必要とゆうことでしょう。

コメント2(池田)
脳室内出血で脳外科に6日も入院していながら血管造影がまだというのは解せませんね.何か特別な理由があるのでしょうか?

脳血管造影の際には動脈ばかりでなく,静脈洞もきちんと見てもらうようにしてください.脳静脈洞血栓症は是非とも除外しておかなくてはなりません.脳静脈洞血栓症では静脈の鬱血から破綻をおこして脳出血を起こすのです.前回のメールで書き落としましたが,脳静脈洞血栓症のリスクファクターとして経口避妊薬の他に,アンチトロンビンIIIやプロテインCといった線溶に関わる因子の欠損症がありますので,こちらの検索もしておいた方がいいでしょう.

返信2
本日第七病日(入院4日目)でfamilyより相談を受けました。”本日angioを勧められました。その際angioに伴う合併症についても説明を受け、どうしたら良いでしょうか。”出血は吸収されつつあるとの事。まだ頭痛はあるとの事で、”重要な事は1.後遺症を残さない事。2.再発を防ぐ事。2の観点から、いずれはangioをしたほうが良いと思うが、緊急性が無いのなら、ptの症状が落ち着くまで「暫く考えさせて下さい。」といってはどうか。”と答えましたが、池田先生のお立場で現時点でのangio施行のメリット及びデメリットをご教授願えませんか。宜しくお願いします。

コメント3(池田)
大体事情が推測できました.第七病日(入院4日目)ということは,それほど激烈な頭痛ではなくて,頭痛がしてからしばらくたって原因検索のためにCTをとったところたまたま脳室内出血が見つかった.脳外科ではCT所見から考えて動脈瘤と動静脈奇形の可能性は少ないと考えている.その上症状が軽いので本人や家族が血管造影に乗り気ではない.だから脳外科でもすぐさま血管造影に踏み切るのを控えている,そんなところでしょうか.

second(or third) opinionということでしたら,脳出血を説明しうる血小板減少や凝固線溶系の明かな異常でもない限り,私は躊躇なく血管造影を勧めます.なぜなら,たとえCT所見から可能性は少ないとしても,動脈瘤,動静脈奇形,脳静脈洞血栓症は是非とも除外しておかなくてはなりません.これらの疾患は血管造影をしてはじめて除外できます.

動脈瘤,動静脈奇形は手術という有効な治療手段がありますし,放置して再発すれば現在よりはるかに重症化して神経学的後遺症を残す可能性もあります.年齢が若いから,なおさら手術可能な疾患を除外しておく必要があります.

脳静脈洞血栓症の場合も,もしあったとしたら,基礎疾患の解明と治療をきちんとしなくてはならないので,これも是非とも除外しておかなくてはならないのです.上矢状洞血栓症などは,多発性の脳梗塞,脳出血に進展することもしばしばですから,看過できません.

これらの疾患を除外してはじめて内科の検索に進めるのです.もし,血管造影をやらないで脳外科から患者さんを回されても,神経内科医としてはおっかなくて患者さんを診療できません.脳外科に差し戻しますよ.

すなわち,今回の血管造影の目的は,重篤な疾患の除外です.もし見つかったら大変.何にもなくて当たり前です.このあたりの,”除外目的”で是非ともやらなくてはならない事情を,医者,患者双方で納得する必要がありますね.全身状態が良好で,緊急の造影でもなく,若い女性で動脈硬化もないわけですから,血管造影の合併症のリスクも平均よりはるかに低くなるはずです.

明らかに動脈瘤由来のくも膜下出血などの場合と違って,positiveな結果の可能性が低い(おそらく1割以下)ので,医者の方も強く勧めにくいのでしょうが,患者さんが私の女房だったら,何で早く血管造影をやってもろもろの病気を除外してくれないのかと,私だったら脳外の医者にせっつくでしょうね.

返信3
結局アンギオの決断がつかぬ間に造影剤のDIV+MRIにてAVM(直径2cm)が発見され、アンギオ施行後治療法についての説明を受けガンマナイフ=radiationを選択し、Pt及び家族は納得されて第一回目の治療を受ける予定となっています。

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