無法地帯

> 「薬事未承認の検査法が保険収載され」!って初めて聞きました。これは会社はやる
> 気なくしますね。どうやってこれが通っているのでしょう。あの堅物の保険局医療課
> はどうなっちゃってるの?

未承認で保険収載されている体外診断薬(法)の例は、実はたくさんあります。

たとえば神経内科領域では、以下の検査について、検査のバリデーションを行った研究がしかるべきジャーナルに載ったという話は全く聞きませんが、いずれの検査にも、実施料:4000点
判断料: 血液学的検査判断料125点 レセプト名:遺伝学的検査が認められています。

ジストロフィンDNA(デュシェンヌ型筋ジストロフィーの診断)  福山型筋ジストロフィーDNA 挿入

癌関連遺伝子(実施料:2000点 判断料:尿・糞便等検査判断料34点 レセプト名: 悪性腫瘍遺伝子検査)
EGFR遺伝子 変異解析  KRAS 遺伝子
にしても、キットではなく、未染色の病理標本を提出して人間が判断するわけですから、GCPに準じたレベルでの臨床研究でのバリデーションなんか、やってるわけがないですよね。

承認無しの保険収載は、以下の理由で、当然なんですよね。

1.本来、承認と保険収載は別物だから、以下の2、3、4のプロセスに行政上の瑕疵はない。
2.とくに体外診断薬は、治験・GCPという規制自体がない無法地帯に放置されており、臨床試験(性能試験)・承認申請はあくまで「オプション」
3.だから、臨床試験も承認申請もせずに、保険収載を医療課に「申請」してしまう。
4.「申請」を受けた医療課は、「現場の声」(学会要望→*下記)海外データや国内自主臨床研究の「データ」をもとに、保険収載してしまう。

上記無法地帯の根底にあるのは、規制当局にもエンドユーザーにも、「体外診断薬では慎重なリスク・ベネフィットバランス判断が必要ない」との誤った思い込みでしょう。

偽陰性・偽陽性(感度・特異度)、陽性・陰性的中率、バリデーション、精度管理といったキーワードが関係者の頭の中から抜け落ちて、完全にエンドユーザー任せになっています。規制当局がパターナリズムを抑制していると表現すれば聞こえはいいですが、だからといって、エンドユーザー側のリテラシーが育っているわけではないという好例になりましょうか。

「学会からの要望と診療報酬改定の道筋」(内保連 第104回例会議事録より)
http://www.naihoren.jp/gijiroku/gijiroku104/gijiroku104.html

この議事録には極めて実務的に、「(技術料や体外診断薬などの医薬品以外の保険収載要望の窓口は)代表から医療課長への直接要望、医薬品の適応範囲拡大などは、保険局ではなく医薬食品局で審査」と記されています。医師達にとっては、医療課長への直接要望が主流であって、自分たちが責任を持って処方するのに、なぜ、PMDAでの審査などという、役人の嫌がらせに遭わなくてはならないのかという思いなのでしょう。いざ「薬害」が起これば「厚労省の責任」と言って逃げることも忘れて。

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