日本版INDの鍵はIRB/REC

川上浩司先生が、日本でもIND制度を導入すべきだと、かねがね主張なさっている。

私も、日本版INDが実現すれば、日本の臨床研究の質の向上、ひいては臨床水準の向上につながると思っている。

しかし、承認審査を必要としないresearch
INDであっても、プロトコールの審査と監査は必要だ。しかも、提出されるプロトコールも、実際に遂行される試験の質も、治験より格段に悪い。つまりプロトコール審査と監査における審査側の負荷は、治験の場合よりも、はるかに重い。

一方承認申請を前提としないresearch INDのプロトコール審査と監査をPMDAが行うわけにはいかない。PMDAはあくまで薬事法に基づく申請を審査する機関だからだ。また、新たに、research INDのために別途、中央に審査当局を作って人員を配置することなど、公務員削減の圧力の中、夢物語だし、仮に、奇跡的に中央に審査当局の箱物ができても、そこでプロトコール審査や監査ができる人材がいない。

となると、既存の組織の活用、たとえば、地域の審査・監査機関として、IRB/研究倫理委員会RECの機能強化という方向になるのだろう。そこで、プロトコールの科学的な妥当性の吟味はともかく、被験者の権利は必ず守るというbottom
lineを明確にする。research INDならば、プロトコールや結果の科学性の吟味は、投稿先のジャーナルの編集委員会(=承認審査に相当する)と出版後の論文の評価(=市販後の評価に相当する)に委ねればいいことになる。

そうすれば、中央の組織はPMDAのような重装備の規制当局でなくてもいい。AAHRPPのように、倫理面でlocal
IRB/RECのaccreditationと品質管理をする委員会を、食品安全委員会のようなボードとして、内閣府に置けばいい。そうすれば、「役所を増やした」と攻撃されないで済む。役所を目の敵にしている政党が政権を取っても、(いやそんな政党だからこそ?)、この案なら受け入れてくれる。

そう考えると、最近のアジア諸国の動きも理解しやすくなる。アジア西太平洋地域の倫理審査委員会フォーラム(FERCAP)
http://www.tm.nagasaki-u.ac.jp/hiraken/information/2006_fercap.html
では、最近、アジア諸国、特に、韓国、台湾、それに加えて、最近中国も、自国のIRB/RECが、AAHRPPのaccreditation(認証)取得に非常に積極的だ。

製薬企業による治験でもIRBのaccreditationを要求するようになっている。これは、国際共同治験を呼び込むという経済的な理由が第一なのだが、INDとIRB/RECの関係を考えると、どうもそればかりではないように思える。

日本のような重装備の規制当局を持たないアジア諸国が、自国の臨床研究・トランスレーショナルリサーチを国際的な水準までに引き上げることによって、自国のバイオ関連産業を振興させようとすれば、IRB/RECの質を向上させるのが一番手っ取り早いことになるのだ。

倫理審査委員会の質が、我が国の臨床研究の水準ばかりでなく、バイオ産業振興の行く末を制する。

本欄の愛読者なら、決して戯言とは思わないはずだ。

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