雉も鳴かずば

画像診断の発達が開けたパンドラの箱から飛び出してきた様々な厄介者の代表例が『incidentaloma』である.(後出しじゃんけんによる『見逃 し』訴訟については長くなるので別途説明するつもり←いつのことになるのやら).それがもたらす『incident』とはどんなものか?当事者や関係者の 人生を台無しにするような大災害を起こすのか,それとも当事者が亡くなるまで何のincident/accidentも起きないのか?その疑問に対する答 えを得ようとして大騒ぎが始まる.そんなドタバタ劇が今日も全国で繰り返されている.そこへ「遺伝子検査」である.

『その「変異」は本当に「異常」なのか?』という問いかけはもちろん大切だ.しかし,その問いに真摯に答えるための労力は余りにも膨大だ.ところが,少なくとも現時点では,この分野に限って言えば,AIは余計な仕事を増やすばかりで,人間の仕事を減らすまでには至っていない.

安価な=安易な「遺伝子検査」普及の勢いを誰も止めることはできない.たとえその検査と結果が医療機関で提供されるものに限ったとしてもだ.では健常人で遺伝子変異はどのくらいの頻度で見られるのだろうか.下記は,The Burden of Candidate Pathogenic Variants for Kidney and Genitourinary Disorders Emerging From Exome Sequencing.Published: Ann Intern Med. 2018.DOI: 10.7326/M18-1241 からの引用である.

Patients:A convenience sample of exome sequence data from 7974 self-declared healthy adults.
Results: Of all participants, 23.3% carried a candidate pathogenic variant, the majority of which were attributable to previously reported variants that have implausibly high allele frequencies.

腎・泌尿器疾患に限ってもこの有様である.この論文にはそれ以後,本当に異常な変異を絞り込んでいく過程が説明されているが,もちろんその絞り込み作業は全て人間の仕事である(だからこそ論文になるわけだが).AIはどこまで行っても所詮はAIである.データを入れてやらなければ,何もできない,例えばここでは,「異常とは何か」を教えてやらなければ,ゴミ箱以下の不燃ゴミ(20世紀風の表現では鉄クズ)に過ぎない.

参考:要するに検診なんて

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