NEJMのゾンビ論文
-長年の功労薬に報いる方法-

Ezetimibe Added to Statin Therapy after Acute Coronary Syndromes. N Engl J Med 2015;372:2387-97.
Proof That Lower Is Better — LDL Cholesteroland IMPROVE-IT

TECOSに引き続き、またもやMSD/NEJMのイカサマコンビのゾンビ論文である。5年前に死亡宣告を受けたNEJMとしては、もうこんなゾンビ論文を載せるしかないのだろう。エゼチミブ単剤が後発品に食われて売り物にならなくなったもんだから、今度は合剤を売りつけようって魂胆が見え見えの宣伝ビラだぜ。

IMPROVE-IT (IMProved Reduction of Outcomes: Vytorin Efficacy International Trial)のVytorinは、シンバスタチンとエゼチミブの配合剤で、MSD(米国メルクMerck)の製品である。そのことを知っていれば、これ が、MSD (Merck)丸抱えの試験であることはすぐわかるのだが、日本ではこの合剤は販売されていないので、そこでまず騙されてしまうお医者さんも多いだろう。シンバスタ チンはMSDの昔日のベストヒットであり、エゼチミブは2009年にMSDに吸収合併されたシェリング・プラウが開発した製品である。

Vytorin が何のことだか知らないと、おそらく、要約のconclusionのところに、Funded by Merckという言葉も見逃すだろう。ここで見逃したら最後だ。本文に最後、Referencesの前に利益相反についての記載は一切ないからだ。要約の conclusionのところに、Funded by Merckを見逃すような医者は、決してAppendixなど読まないだろう。これを見て初めて,このNEJMの論文が,何もかもMSD丸抱えであることがわかるにもかかわらず。

MSD丸抱えであることがわからなければ、そこで思考停止して、同じ号に載っている、MSDの宣伝ビラも同然の提灯持ち総説(上記)のご高説も有り難く承ることになる。もしわかれば、下記の問題点もすぐ理解できるはずだ。

● そもそもなぜ基礎治療がロスバスタチンのような十分なパワーを持ったスタチンではなく,ひ弱なスタンダードスタチンであるシンバスタチンなのか?エゼチミブはスタチンによる十分な治療を行ってもなおもLDLコレステロールが下がらない場合にのみ使うは ずだ。本試験のようなプロトコールでは、スタチンによる治療をシンバスタチンのようなスタンダードスタチンに限ってエゼチミブの上乗せ効果を,診療実態より大きく見せようと、恣意的な操作を加えたと非難さ れても反論できない。
●シンバスタチンはスタンダードスタチンだからパワーが弱い.このため、用量は最初から40mgという、日本での最高用量の2倍もの高用量を使うプ ロトコールになっており、40mgでも有効性が十分でない場合には80mgまで増量することになっていた。ところがこれが下記のような問題を引き起こすこ とになった。
●途中で行われたプロトコールの変更が試験結果に重大な影響を及ぼしている可能性がある。シンバスタチンの80mg投与が筋 障害のリスクを増加させるとして,2011年6月以降,80mg投与が必要な被験者は組み 入れられなくなり、さらにそれまで80mg投与されていた患者でその期間が1年未満の場合には40mgに減量している。こんなすったもんだでプロトコール 修正を5回もやっているが、その修正が試験結果にどのような影響を与えたかは全く記載がない。

結局、スタチンがどれも特許切れとなり、後 発品だけの世界になったために、スタチンの販促グッズだった仮説、つまり「スタチンの有効性の基礎には、コレステロールを下げる以外の作用が関与してい る」に見切りをつけ、より高く売れる配合剤、そして次世代ブロックバスターとしてのPCSK9抗体を高く売りつけるための布石が、このIMPROVE- ITだった、そう見られても何も文句は言えないし、実際に日本の提灯持ちがそう言っちゃってるんだから、笑えちゃうんだよな、これが。

要 は全て金の世界である。かつて製薬企業に莫大な利益をもたしたスタチン.そして多くの心血管イベントを防いできたスタチン.人間ならば,長年の功労者に報 いる方法もあるだろうが、薬の場合には稼げなくなった商品はすぐにお払い箱だ.ACEIのあとに、「ARBの有効性には血圧を下げる以外の作用が関与してい る」と、さんざんもてはやされた販促仮説が、ARBの後発品が出る段になったら、すぐに誰も 見向きもしなくなったのと、全く同じように。

スタチンの有効性は今も昔も変わらないはずである.収益第一を考える企業が新しくて高い薬の方をちやほやするのは,まだしも,その提灯持ちをする医者は一体どういう了見で仕事をしているのだろうか.

キーワード: スタチン、シンバスタチン、エゼチミブ、NEJM,、利益相反、トップジャーナル真理教、大規模試験真理教、有意症 significantosis

以下追記
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さよならゼチア2
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Merck コレステロール薬の心血管リスク低下効能がFDAに承認されず Biotoday 2016年2月15日
Merck & Coは、冠動脈心疾患患者の心血管イベントリスクを下げるのにZetia(ezetimibe)やVytorin(エゼチミブ/シンバスタチン)を使うこ とが米国FDAに承認されず、回答(complete response letter)を得たと発表しました。回答の内容をレビューして次にどうするかを決めると同社は言っています。
Merck Receives Complete Response Letter from the U.S. FDA for ZETIA? (ezetimibe) and VYTORIN? (ezetimibe and simvastatin)
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Impax Vytorin後発品がFDAに暫定承認された Biotoday 2016/2/8
2016年2月2日、Impax Laboratoriesは、エゼチミブとシンバスタチンの合剤(Vytorin)の後発品が米国FDAに暫定承認されたと発表しました。来年4月25日 に特許や小児データに基づく独占販売が無効になって最終的な承認が得られるように米国FDAと協力していくと同社は言っています。
Impax Receives Tentative FDA Approval for Generic Version of Vytorin? (ezetimibe and simvastatin) Tablets
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Vytorinの心血管転帰抑制効果の表示をFDA諮問委員会が支持せず Biotoday 2015/12/16
Reutersによると、コレステロール低下薬Vytorinで冠動脈心疾患患者の心臓発作や脳卒中リスクが下がるとの表示許可が米国FDA諮問委員会に支持されませんでした。
急性冠症候群(ACS)患者18,000人超が参加した大規模試験IMPROVE-ITでVytorinは心臓発作などの重大心血管イベント発現率を下げることが示されていますが、データ損失などがあり、その効果は臨床的に有意と確信できないと諮問委員会は判断しています。
Merck fails to win FDA panel backing for Vytorin heart claim
Merck Statement on FDA Advisory Committee Meeting on IMPROVE-IT Study with VYTORIN? (ezetimibe and simvastatin)
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