気分はインパール

現場を知らない中央が,机上でめちゃめちゃな作戦を立てて,実行を強いることにより,現場にもたらすものが3つある,絶望感と厭戦気分と逃亡兵の増加である.

国立病院・療養所には,年に何回か,本省(当院のような地方の一部局は,本社である厚労省のことをこう呼ぶ)から指導,監査というものが来る.こいつのやることが傑作である.

例えば,当直医師の検食は,常食でなく,特別の治療食,たとえば,おかずをこなごなにした刻み食とか,すべてペースト状態の食事を食べなくてはならないという規定があるそうな.本省からやってきた指導官が,現場の帳簿をチェックし,この規定を厳密に守るように,きつくお達しを発するのである.つまり,日中の労働でへとへとになり,夜も救急患者に対応しなくてはならない当直医の食事が,見るも無残なペーストばかりという悲劇を強いるのである.

つまり,指導ないしは監査とは,現場のことを何も知らない中央の小役人による嫌がらせなのだ.かくしてまじめに仕事をする人間ほど嫌気がさして辞めていき,残ったのは行き所がないカスばかりという構図が実現する.

もちろんこれはおとぎ話ではない,現に私が当院に赴任してきた時,18人いた医者が1年間で9人やめた.しかし,補充は5人だけだった.つまり現在14人.2割強の人員削減である.立派なリストラである.おかげで,臨床研究部生化学室長の私は,重度心身障害者病棟医長兼痴呆病棟医長兼職員健康管理医兼病理解剖当番兼リスクマネジメント部会長兼マッキントッシュトラブルシュータという幾多の重責を担っている.しかし,この実情は院外秘となっている.

国家公務員の削減がこれほど効率的に実行されているのに,それが的確に報道されていないのだ.厚労省も,こういう動かぬ証拠を示せば,日ごろ煮え湯を飲まされているメディアに対して反撃するのは至極簡単なことなのだが.

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