医者への贈り物

質問
主人の退院の時、私は主人に主治医の先生に菓子をお礼にと持たせたのですが、主治医の先生は「これを頂くと、この病院に来ている患者さん全員に頂かなければばらない。」とおしゃって受けとってくれませんでした。その時は、なぜ、お菓子ぐらい受けとってくれなかったのだろうと思ったのですが、サルに餌をやらないでくださいを読んで、なんとなくですが、主治医の先生がなぜ受けとってくれなかったのか解かった様な気がします。
主人に主治医の先生は、最後に、「今度、散髪してくれたらいい。」と言っていたそうです。(主人は理容店を営んでいます。)主人に菓子を持たせた私はすこし、失礼な事をしてしまたのかもしれません。

回答
仕事に対する報酬はきちんともらっているので,別に対価を要求する立場にはない,というのが原則論なのですが,地に働けば何とやら.世間の一般儀礼でしたら,断る方も心苦しいのですが,医者の仕事に対するお礼の場合には特殊要因がありますのでご辞退したいのです.

患者の間の情報交換というのは恐ろしいもので,あの医者が贈り物を受け取るといった噂が立った場合には,では私もしなけりゃという人がどんどん出てきます.そして,しばしば贈り物をした人の気持ちとは無関係に(時には贈り物のことを自慢げに話す人もいるでしょうが),世間の常としてその噂に尾ひれが付いて,贈り物をしたから特別な治療をしてもらったとか,混雑した外来で優先的に診察してもらったとか,事実無根の風評が立つものです.つまり,医者が真摯にやっている診療が下司な色眼鏡で見られることになる.これが一番恐い.まともな診療ができなくなるのです.そういった事態を未然に防ぐためには一切の贈り物を断るのが一番確実なのです.このあたりの事情をご理解下さい.

もしどうしても何かをしたいという時は,一つのアイディアとして,医者個人ではなく,その医者が所属する病棟とか外来に何かを寄贈する手があります.もし,入院中あるいは外来受診でこんなものがあったらいいのになあなんて品があればいいですね.高価なものではなくて,できれば手作りの品とかなら,なおいいです.そういうものが思いつかない場合には,花なんか,一番無難ですし,確実に誰にでも喜ばれます.そして,お世話になったお礼として,ナースステーション(あるいは外来)にお花を飾らせてもらいました.先生も御覧になって下さい.と一言主治医におっしゃっていただければ,きっと喜んでくれるでしょう.

でも,一番嬉しいのは,外来で元気な顔を見せてくれることです.もし今は通っていないのなら,あなたの誕生日に元気ですと一言だけでいいですから,葉書一枚書いてくれませんか.それが医者にとっての何よりの勲章なのです.

(参考:サルに餌をやらないでください

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