The truth about sports drinksは、2012年に開催されたロンドンオリンピックのスポンサーにスポーツドリンク企業が名を連ねる時節に合わせて発表された、なかなか面白い読み物です。
●1970年代にGatoradeの宣伝から始まったスポーツドリンク市場は、米国で年間1300億円、英国で300億円の巨大市場に育っている
●米国では軍がスポーツドリンクの最大のお得意様
●学校・子どももキャンペーンの絶好の標的となった
●”dehydration kills”、”喉の渇きが出てからでは遅い!早めの水分補給!”といったスローガンが浸透していく過程で産学(+米国では軍)の結びつきが大きな役割を果たした
●スポーツ関連学会・ジャーナルと企業の密接な結びつき・利益相反問題
●スポーツドリンクの有効性を謳った臨床試験の瑕疵の数々
●スポーツドリンクの有効性を否定するnegative studyがアクセプトされないpublication
bias
●スポーツドリンクによる肥満のリスク
要するに、医療用医薬品開発の歴史の中で洗い出されてきたあらゆる問題が、スポーツドリンクの世界では野放しになっているというわけです。
上記の論説の中でも触れられていますが、スポーツドリンク摂取に伴う低ナトリウム血症(スポーツドリンクのみが唯一の原因ではありませんが)は、脳浮腫や運動誘発性肺水腫といった重篤な疾患を合併することもあり、スポーツドリンク礼賛論に対する強烈な警告となっています。
また、運動誘発性肺水腫の類縁疾患として、運動誘発性肺(胞)出血がありますが、スポーツドクターの間ではよく知られている病態なのでしょうか?競走馬ではありふれた病態のようですが。下記のような散発報告例を見ると、無症候性のものまで含めると、マラソンやトライアスロンのような非常に激しい運動選手でも、ありふれた病態なのかもしれません。
トライアスロン出場者自身の記述。おそらく運動性肺出血と思われる
マラソン後、偶然に見つかった無症候性肺出血(定期的に臨床研究の健康被験者として(?)気管支鏡を行っていた)例
Exercise-Induced
Pulmonary Hemorrhage After Running a Marathon
さらに、運動選手の低ナトリウム血症と同じ文脈で、「熱中症」と診断された患者での低ナトリウム血症も気になるところですが、ざっと調べたところでは、系統的な臨床研究が見当たりません。まだまだ熱中症=脱水であって、低ナトリウム血症とは逆の病態であるとの誤解は海外でも根強いようですから、熱中症患者における低ナトリウム血症を系統的に検討すれば、トップジャーナルに載せられると思うのですが・・・
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エネルギー飲料Monster Energy摂取後死亡例をFDAが調査中 Biotoday 2012-10-25
高カフェインエネルギー飲料Monster Energyを飲んで死亡した5人の報告をアメリカFDA(米国食品医薬品局)が調査しています。死亡の他に心筋梗塞、腹痛、嘔吐、振戦、心拍異常が報告されています。
現時点ではMonster Energyと死亡の因果関係は確立されていないとFDA広報担当者は言っています。
24オンス(710ml)缶のMonster Energyはカップ2杯分のコーヒーに相当するカフェイン240mgを含みます。
Monster Energy Drink Cited in Deaths
http://www.nytimes.com/2012/10/23/business/fda-receives-death-reports-citing-monster-energy-a-high-caffeine-drink.html
U.S. probes deaths for links to Monster energy drink
http://www.reuters.com/article/2012/10/23/us-monster-lawsuit-idUSBRE89L16G20121023
FDA Investigating 5 Deaths Linked to Monster Energy Drink
http://firstwatch.jwatch.org/cgi/content/full/2012/1024/2
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