スコットランド議会のための国民投票

9月11日にスコットランド議会を設立するかどうかの(スコットランド人による)国民投票が行われる.1707年にスコットランドがイングランドに吸収合併されてから300年,再びスコットランド議会が設立されるのだろうか?

スコットランド人はスコットランドのことを決める権利がある.イングランド人に口出しする権利はない.全てのスコットランド人は,程度の差はあれ,300年の間,そう考え続けてきた.にもかかわらず,スコットランド独自の議会がなかったのは,それこそスコットランド特有のお家の事情がある.すなわち富裕な隣人(敵と呼ぶ人もいる),イングランドとの関係をどう保つかである.

隣の金持ちは自分たちよりもはるかに強大な力を持っている.完全に敵に回して真正面から戦ったのではとても勝ち目はない.けんかしないでうまくやっていけば,働き口をもらったり,食い物を売ってもらったりもできる.多少の不愉快なことは我慢してでも,意地を張ってけんかするのはやめて,実利を得よう,そう考えてやってきた300年だった.

そうは言っても,面白くないことはたくさんある.例えば,イングランドのがりがり亡者たちが巻き上げちまった北海油田.あれはスコットランド沖にあるんだから,本来,俺達のもののはずだ.あの油田から出る石油を売った金があれば,イングランドにペコペコする必要なんかないはずだ.それから,サッチャーのくそったれめ,スコットランドばかりに原子力発電所を作りやがったし,あのいまいましいpoll taxもまずスコットランドではじめやがった.でも貧乏人の悲しさで,サッカーやラグビーでイングランドのやつらに一泡吹かせて憂さ晴らしするぐらいしかなかったんだ.(でも5カ国対抗では90年以来優勝していないんだよ.寂しいなあ)

これまでもスコットランドは教育,刑法など,いくつかの社会的システムで.イングランドとは異なる独自の法律,政策を持っていた.しかし,そのシステムもロンドンの議会で決まったもので,スコットランド人だけが投票して決めた議会で作り出したシステムではなかった.

そこがここへ来て急に国民投票の話が決まったのは,5月の選挙で労働党が政権を取ったからだ.元来労働党はスコットランドで非常に強く,政策もスコットランド寄りで,今回の国民投票も選挙公約にあったのだ.もし,賛成多数となれば,2000年までにスコットランド議会が設立され,国防,外交,社会保障,雇用といった,国全体として統一が必要なシステム以外の法律,政策がスコットランド議会に委ねられることになる.

実は1979年3月1日,やはりスコットランド議会設立の是非を問う国民投票が実施され,123万人が賛成票を投じた.これは反対を8万人近く上回ったのだが,賛成票は有権者総数の32.9パーセントで,所定の40% に届かず,議会設立が見送られた経緯がある.富裕な隣人とどの程度距離を保つべきか,それはスコットランドにとって永遠の課題である.吸収合併後300年,今回の投票でスコットランド人がどういう判断を示すのか,彼の地を愛する者として不安の混じった興味を持って,その結果を待っている. 

国民投票について更に詳しく知りたい方は次のサイトを参照されたい.

BBC Politics 97

The Scottish Devolution Website

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