できるお医者はやり過ごす

○○君、お久しぶりです。診断はとっても簡単です「わからない」。

だから君が難渋しているのは診断でなくて、患者です。「わからなくても、わかると言え。わからないと言ったら、お前の医師免許を台無しにしてやる」= 自分に嘘をつけ!って、「患者に嘘をついてはいけない」と徹底的に教育されている医師に対して、嘘をつけと脅迫するのですから。そりゃ 難渋しますわな。

「わからない」の意味は宇宙の広がりより大きいものです。宇宙の広がりより大きいものを、医療・医者に対して、そして周囲に対して陰性感情が一杯に なっている相手にどう伝えるか?mission impossibleですね。

「今、ここで、全ての病態生理と最終診断を明らかにせよ」という「理不尽」な要求に対して、「そんなん、わかるわけないやん」と言えば喧嘩にな ります。わかることはそれだけです。

「大切なことほど後になってわかる」「大切なことは目に見えない」と次の外来で全て正直に言ったらどうなるか?

やはり喧嘩になるかもしれません。「あんたんとこの、あのにいちゃん、どうなってんねん」 と、あとで上司に怒鳴り込まれるかもしれません。あるいはうまい具合に○○君に愛想を尽 かして立ち去ってくれるかもしれません。

どのあたりが「落としどころ」なのかは、私には「わかりません」。それは○○君と患者さんとの間にしかありません。その落としどころも今すぐ、ここでわか るとは限りません。

こういう時に、経験的に大切だと私が考えているのは、時間(それも1週間か、10年かはわかりません)と空間=患者さんとの距離 です。

今は時間も、患者さんとの距離も、全く使えていない状況です。つまり今がボトムです。これ以上は状況は悪くなりようがありません。

できる 社員はやり過ごす

組織論として読む人が多いのですが、個人レベル に落とし込んだ方が当事者意識を喚起できてはるかに有用性が高い。

○○君も私も神ではありません。今までたくさんのお医者さんがさんざん 苦労してわからなかったものが、我々にわかるわけがない。しかし、相手は「お前は神でなくてはならない」と迫って くる。理不尽です。患者とは理不尽の塊です。理不尽の塊だから正面から当たれば喧嘩になるし吹き飛ばされる。だからやり過ごすのが上策です。

福島正則でさえ、島津の退き口は やり過ごしました。ま して況や我々凡人をや

喧嘩にならないように、相手の顔を潰さずに、のらりくらりと時間を稼ぐ。時間を使うとはそういう意味です。そ うすれば相手は○○君のところから立ち去って、○○君のことを忘れてくれるかもしれない。距離を使うとはそういう意 味です


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池田 正行先生

さて、今回、診断に難渋している症例についてご 意見を伺いたいと思いメールを差し上げました。
不躾な相談をお許し下さい。
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2○歳女性
主訴:全身疼痛・しびれ、歩行困難
病歴
201○年9月末より右下肢より始まる疼痛(電撃痛)を自 覚し、歩行するのが困難になってきてきた。電撃痛(5秒程度で収まる)はその後、右上肢、左下肢、左上肢と広がってい き、10月2日には、四肢に持続的なしびれを自覚するようになってきた。同9月中旬から腰部を中心とした疼痛 も自覚していた。10月2日近医整形外科にて、腰椎MRI撮影され、腰椎椎間板ヘルニアの初期と診断。硬膜外麻酔を施行 された、その4時間後、激烈な腰痛と下肢脱力を自覚し、救急搬送される。救急搬送先の整形外科では、MRIで 腰椎椎間板ヘルニアの所見がないとし、頸髄症の疑いがあるとして、鎮痛薬、ビタミン剤の投与をされ帰宅。10 月8日に症状改善なく腰痛と手足のしびれのため、家で寝込んでいることを家族が心配し、当院神経内科を受診。身体所見と しては、四肢の脱力(MMT3程度)および、四肢の深部感覚障害を認めた。膀胱直腸障害は認めなかった。同日入院とし、 入院後、頸髄症、髄膜炎(結核性含め)、脊髄梗塞、MS、NMO、CRPS、亜急性連合性脊髄症、脊髄癆、傍腫瘍性神経 症候群を疑って、血液検査(培養含む)、髄液検査、神経伝達速度検査、頭部造影MRI、脊髄造影MRIを始めとする検査 を施行したところ、特に異常を認めなかった。悪性腫瘍除外目的で撮影した、胸腹部造影CT検査にて、肩甲骨周 辺における異常血管分布を認め、血管外科を紹介したところ、海綿状血管腫など血管奇形による神経障害は考えにくいとのこ と。
入院後は、安静と××の投与にて、四肢のしびれ や深部感覚障害は改善したが、全身の疼痛は残った。ただ、歩行など日常動作はできるようになったために、今回の事は、後 脊髄動脈症候群の一種(脊髄造影MRI検査では異常を認めていない…)という説明で11月下旬に退院になった。

その他の追記内容
既往歴:1○歳に髄膜炎を疑われ、腰椎穿刺施行。そ の後腰の違和感が残っている。
アレルギー歴:特に意識していない
婦人科歴:1妊0産 17歳時(DVを受けており、妊娠、 中絶した)
     最近2年間はリスクのある性交渉歴なし
嗜好歴:たばこ20本/日、酒なし
職業歴:重たい荷物を運ぶ事が多い

という内容の患者様です。12月上旬の 外来受診では、症状が横ばいということで、「診断はなんですか?」と問われる状況です。こういった症例の診療を先生がお持 ちのようでありましたら、ぜひご教授頂きたいと思っております。また、お時間のある時にお返事頂けたらと存じます。よろし くお願いします。
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