検察・マスメディアの騙しのテクニック
ー医療事故ビジネスにおける弱者使い捨ての宣伝手法ー
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 仙台市泉区の旧北陵クリニックで起きた筋弛緩(しかん)剤点滴事件で、クリニックの実質経営者だった半田康延東北大名誉教授が20日、仙台市で記者会見し、 元准看護師守大助受刑者(39)=殺人罪などで無期懲役確定=の弁護団が再審請求の新証拠として提出する医師の意見書に反論した。弁護団の意見書は、今も重体の大島綾子さん(21)=事件時(11)=の容体急変について、脳卒中のような発作があり血中乳酸値が高かったとして、筋弛緩剤の点滴投与ではなく、ミトコンドリア脳筋症の悪化が原因だとしている。半田氏は「容体急変直後のコンピューター断層撮影(CT)検査で、脳卒中に似た症状は確認されず、ミトコンドリア脳筋症ではない。乳酸値もすべてのデータではなく、高い値だけを採用して結論を導き出すなど、医学論文ならば罰則を受ける内容だ」と語った。再審請求については「受刑者の権利であり、再審請求だけならば何も意見は述べなかったが、医学的根拠のない主張を展開し、綾子さんの家族を傷つけているので記者会見した」と話した。(「医学的根拠ない」意見書に反論 仙台・筋弛緩剤事件(河北新報 2010年07月21日)
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「罰を受ける」ではなく「罰則を受ける」という表現は東北地方特有の方言でしょうか、私には意味がよくわかりません。なお、私に英文の症例報告にしましたが、発表後5年経っても罰を受ける様子はとんとありません(^^)→Ikeda M. Fulminant form of mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis, and stroke-like episodes: A diagnostic challenge. J Med Cases 2011;2(2):87-90. 

医学も科学も臨床倫理も知らずに,金儲けと立身出世のために神経難病患者の命を弄んだ.そのために患者・家族・市民,そして医師や裁判官までも騙した.それが医療事故ビジネスの典型例としての北陵クリニック事件です.裁判官はとものかく,検察とマスメディアはどうやって医師までも騙してしまったのでしょうか?

騙しのテクニックは単純明快
紹介した河北新報の記事は,患者・家族や市民だけではなく,医師免許を持つプロフェッショナルとして実際に診療に携わって患者さんのことを一番よく知っているはずの半田康延氏(現 仙台クローバークリニック理事長)を騙してまでも,検察と一致協力して司法過誤を隠蔽し,医療事故ビジネスを必死で守ろうとする醜悪なマスメディアの姿を象徴しています.でも,なぜ 東北大学名誉教授ともあろうお方が,河北新報の記者や,宮城県警の警察官や,仙台地裁の検察官に,まんまと騙され,私を嘘つきよばわりするようになってしまったのでしょうか?

北陵クリニック事件ウログラフィン誤投与事故のような、多くの医師が注目する医療事故を食い物にしてビジネスとして成り立たせるためには,医師を騙す必要があります.なぜなら,医療事故ビジネスの本質は事故原因の隠蔽によって医師に事故を再生産させ,事故を食い物にすることあるからです.では,脈の取り方一つ知らない彼等に,旧帝国大学医学部名誉教授であらせれる立派なお医者様を騙すための特別な虚構を創作できるのでしょうか?もちろんできるわけがありませんし、実はそんな必要もないのです.

ウログラフィン誤投与事故裁判でマスメディアと検察の合同チームが使ったのは,非常に単純で陳腐なトリックでした.検察は,たった一つのヒューマンエラーとすり替えに,本質的な事故原因を全て隠蔽してしまったのです.彼らはそんな子供だましで,患者・家族,一般市民,そして裁判官さえも騙して有罪判決を勝ち取りました.そして,我々医師もこの子供だましを見抜けなかったではありませんか.確かに私はいくつかの重要な事故原因が隠蔽され、遺族にも知らされることなく闇から闇に葬られていることを指摘しましたが、事故関係者でもなく、資料を閲覧できる立場にもない私が、隠蔽された事故原因を全て明らかにできるわけもありません。私とて、他の医師と同様に、マスメディアと検察にいまだに騙され続けていることには変わりはないのです。

騙しのテクニック。その基本中の基本
騙しのテクニックの基本中の基本は、当然のことながら、相手に騙されていると気づかせないことです。プロの詐欺師はそのためにカモ、つまり騙すのに最適な相手を入念に選び出します。マスメディアも検察も,そしてしばしば弁護士も,その利益相反によっては(*),市民を騙すことに関してはプロです.そして医師とて一般市民です.彼等は一般市民としての医師に注目して医師を騙します.社会的に弱い立場にある市民であれば,マスメディアや検察のような権力者の暴力に敏感ですから,検察の無謬性,裁判真理教,科学捜査万能論といった,権威の上に立脚した子供だましを見破れるだけのリテラシーを身につけて自分を守ろうとします.

逆に医師,特に旧帝国大学医学部教授のような権威者であればあるほど,マスメディアや検察を批判的に吟味する能力が欠けていますから,彼等の幼稚なペテンにころっと騙されてしまいます.確定審となった第一審では、東北大学医学部麻酔科学教授の橋本保彦氏が、まんまと検察官に騙されて筋弛緩剤中毒説を展開しました。橋本氏亡き後、今度は半田氏が、仙台地検と河北新報にとって,正にネギを背負ったカモ,口先三寸ですぐに裸になってくれる,人のいい王様となったのです。

北陵クリニック事件の場合には、半田氏以外にもたくさんの医師や研究者を騙す必要がありましたから、検察・マスメディアは一致協力し、全力で全ての関係者を騙す作戦を展開しました。中でも最も威力を発揮したのが検査万能教(検査原理主義)です。この信仰の最大の特徴はどんな検査でも感度、特異度ともに100%であると信じて疑わない点にあります。この信仰は一般市民はもちろん、臨床検査を学んでいない医学生1-2年生の間にもかなりの高頻度で見受けられますが、医師免許を持った方々の中でも、ごくまれに信仰篤き検査万能教信者が見いだされます。検察・マスメディアはこのようなお医者様をカモにするのです。半田氏のコメントの中にも、氏が典型的な検査万能教信者である明確なエビデンスを見いだすことができます。

*ヤメ検弁護士が,「医師の刑事免責など言語道断」と御高説を垂れるなんぞ,その典型例です.

世界初の珍説を新聞紙上で開陳
まず、「容体急変直後のコンピューター断層撮影(CT)検査で、脳卒中に似た症状は確認されず、ミトコンドリア脳筋症ではない」という主張は、脈の取り方一つ知らない検察官と、その検察官が騙した(あるいは諸般の事情で検察官に騙されたふりをせざるを得なかった哀れな)裁判官の主張と全く同じです。この世にも不思議なCTは、ミトコンドリア病の(病変ではなく)症状を検出するのでしょうか?半田氏に初歩的な医学知識を持っているかもしれないと好意的に考えれば、症状は「病変」の間違いなのかもしれません。だとしても、「ミトコンドリア病における超急性期の脳病変に対するX線CTの検出感度は常に100%である」との主張は、脈の取り方一つ知らない検察官や裁判官のそれと何ら変わるところはありません。さらに、血中乳酸値は継続的に異常高値を示すのがミトコンドリア病の特徴であり、間欠的に血中乳酸値が異常高値を繰り返すのはミトコンドリア病ではないと主張しています。これは、血中乳酸値が「繰り返して高い」とする国の認定基準に反する見解であり、半田氏は検察官でさえも主張していなかった珍説も開陳しています。この主張は、ミトコンドリア病の診断を根底からひっくり返す、世界初の独創的な学説であるにもかかわらず、その後論文として発表されたとは寡聞にして存じません。

北陵クリニック事件での子供だまし
研修医として最低限の診療能力さえあれば、半田氏のように、マスメディアや警察・検察のペテンにまんまとひっかかることはありません。現に事件発生当時、北陵クリニックで院長を務めていた二階堂昇氏は、自らが診療し、心筋梗塞の死亡診断書まで書いた89歳女性例(*)について、「心筋梗塞で特徴的に見られる症状で、筋弛緩剤であればありえない自立呼吸の復活があった。私がそう言っても、警察は、点滴から筋弛緩剤が出たんだ、出たんだ、モノ(物証)があるんだと言って取り合ってくれなかった」と語り、裁判でも同様の証言をしていますが、検察は有罪立証に邪魔者でしかない二階堂氏の証言を一切無視し、裁判官もこれに習っています。この事実を話すと皆さん一様に驚くのですが、北陵クリニック事件に限らず、刑事裁判では日常茶飯事の出来事です。(関連記事
*北陵クリニック事件では、守大助氏は1人の殺人と4人の殺人未遂で全て有罪となっています。ミトコンドリア病のA子さんは4人の殺人未遂のうちの1人です。

しかし、誰もが二階堂氏のように常識に基づいて診療しているとは限りません。北陵クリニック事件の裁判では、総勢20人に及ぶお医者様が検察側証人として出廷・証言しましたが、ほとんどの方が、脈の取り方一つ知らない警察官や検察官の戯言を真に受けて、守大助氏の有罪立証にせっせと貢献しました。

警察・検察は特に藪医者に目を付け、そして使い捨てる
では、なぜ、二階堂氏以外の医師は、「点滴から筋弛緩剤が出たんだ、出たんだ、モノ(物証)があるんだ」という警察官の言葉に象徴されるような子供だましにひっかかってしまったのでしょうか?残念ながら、筋弛緩剤中毒説を否定できなかった検察側証人のお医者様達の診療能力は、お世辞にも高いと言えないのです。何しろ研修医としての最低限心得ておくべき診断の基本さえできていないのですから。ジギタリス中毒が疑われる患者で、ジギタリスの血中濃度が判明するまで、治療を待つ医者がどこの世界にいるものですか。

呼吸筋麻痺が疑われる患者が救急外来にやってきた時、皆さんはどうやって診断を進めますか?直ちに挿管、静脈路を確保し、診察所見から迅速に鑑別診断を行なうでしょう。その時に、重症筋無力症、ボツリヌス中毒、サクシニルコリン中毒、ベクロニウム中毒、そのいずれかの鑑別が困難だったとしても、ベクロニウムの血中濃度が測定できなければ診断も治療もできないとは絶対に言わないはずです。

警察官や検察官は医学の素人です。素人だからこそ、自分たち素人と気脈を通じる臨床能力の低い医師に目を付けて、その医師を騙すのです。そういう能力に関しては、彼らは超一流なのですと、そこまで言われれば、気づく医師もたくさんいるはずです。一方で一般市民の中には、ここまで読んでもまだ何が何だかわからない方も大勢いらっしゃると思います。そういう方はどうぞ、こちらをご覧ください→診断学の基本を教える。それも一般市民にそして講義ではなく文章だけで。

警察や検察は、そうやって目をつけて騙したお医者さんに、冒頭の記事にあるように私を藪医者・嘘つき呼ばわりさせます。でも、その用事が済んだ後は、たとえ相手が東北大学名誉教授といえども、検察はきれいさっぱり使い捨てます。大事な再審請求審にのこのこ出てこられてとんでもないことを喋られては、私を嘘つき呼ばわりする作戦が破綻します。なぜなら、冒頭の東北大学名誉教授の談話は、河北新報の記者に向けて、誰からも邪魔やツッコミが入らないところだから使い物になったのであって、私と直接対決させたらひとたまりもない。さすがにそのぐらい検察もわかっているからです。

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