一体誰のためのメディアなのか?
ータバコ会社を応援する「ブラック企業」ー

四面楚歌:敵を作り続けてきたpublic enemy No.1
仕事、日常生活、余暇・娯楽のための情報なら、ネットを通して欲しいときにいくらでも手に入る時代に、もし市民がマスメディアに期待すること があるとすれば、いざという時に自分の尊厳を守ってくれるかどうかである。医療者も市民である。医療者にとって「いざという時」は、医療事故の当事者となった時である.その時にマスメディアが助けてくれるか?馬鹿馬鹿しい.

では一体誰がマスメディアの味方だろうか?IT企業の社長だろうか?コンビニの店長だろうか?タクシー運転手だろうか?大学の教授だろうか?漆塗りの職人だろうか?自分が困ったときに全く頼りにならないどころか、逆に自分を傷つける。そんなブラック企業を誰が応援するものか。多くのジャーナリスト達は何かというと自分たちはいつも攻撃されるだけだと被害的になっているが、それは自分たちが市民に対してやってきたことが自分たちに還ってきているに過ぎない。市民を傷つけ,バカにするコンテンツしか作ってこなかった,そんなイカサマを作って「あなたのためです」と嘘をついて市民に売りつけてきた.そうやって,市民を愚民化けしてしこたま儲けてきた,そして潜在的な敵対勢力を増やし続けてきたマスメディアが,ようやく自分がバカにされてきたことに気づいたサイレントクレーマー達からの静かな,しかし着実な反撃に遭遇している.それが新聞発行部数の減少であり,視聴率低下の本体である.

戦前から国家権力の番犬役だったマスメディア
マスメディアの本来の役割は公権力の監視である。しかし日本のマスメディアは1918年の寺内正毅内閣による言論弾圧以降、軍部→GHQ→警察・検察と、その時々の最強の公権力に媚びへつらう売文業者集団と成り下がった(関連記事)。特に1945年8月15日を境にしたマスメディアの柔軟性は見事なものだった。大東亜戦争に多大な貢献をしたにもかかわらず、一部の新聞社幹部が一時的に公職追放になっただけで極東国際軍事裁判で裁かれたジャーナリストは一人もいなかった。GHQのWGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)によるプレス・コードを今でも従順に守り続けている姿は哀れでさえある(関連記事)。今はそのGHQから権力を委譲された警察・検察の番犬となって行政や立法にワンワン吠えて市民から銭を巻き上げるしか能が無い売文業者集団が日本のマスメディアの実体である。

今そこにあるメディアリテラシーの教材
メディアは商業的利益を追求する立派な企業である.これはメディアリテラシー教育における大切な基本概念の一つである(世界のメディア教育政策メディア・リテラシー教育と批判的思考).ところが,日本ではメディアリテラシー教育そのものが行われていないので,メディアが企業であると明確に認識している人はまだ少数派に属する.裏を返せば,医療事故ビジネスに見るが如く金儲けしか頭にないメディアの行動が野放しになっているから,メディアの商業主義のエビデンス,事例検討のための教材が豊富に存在することになる.たとえば下記の二つの文章を読み比べると、タバコ会社に対する利益相反が,医師とマスメディアの間で正反対であることがわかる。

医薬品が、処方箋なしで店頭で買えるようになれば、医師はいまよりも製薬産業から独立した立場になれるだろう。産業は、消費者に直接求愛するようになるだろう。それはつまり、少なくとも一部の医師が、製薬企業の製品によって被害を受けた原告のために法廷で証言する気になることを意味するだろう。
もし、タバコ製品が処方箋によってのみ入手可能で、特許制度によって保護されていたら、紙巻タバコやニコチンの害を確定するのに、医学界の人々があれほど貢献できただろうか.医師も研究者も、タバコに反対することで生計をたてている。もし、彼らがタバコを入手できるようにすることで生計を立てている立場だったら、どうなっていただろう?そのような状況下では、真実が明らかになることは永遠に望めなかったのではないだろうか.(デイヴィッド・ヒーリー 抗うつ薬の功罪 みすず書房)

<与党>たばこ増税検討 軽減税率の財源
 自民、公明両党は23日、生活必需品の消費税率を低く抑える軽減税率を導入する財源として、たばこ税を増税する案の検討に入った。軽減税率の対象品目を公明党が主張する「酒類を除く飲食料品」として消費税率を2%軽減した場合、1.3兆円の財源が必要となるが、財源のメドが立たないためだ。ただ、2017年4月の消費増税と同時にたばこ増税に踏み切れば「喫煙者に二重の負担を強いる」(自民党幹部)との反発の声もあり、実現するかどうかは不透明だ。【横田愛、大久保渉】(後略)(毎日新聞 2015年10月24日)

JTに対する新聞の利益相反
「利益相反」という言葉は、それを聞いた医師の心の中に、しばしばやっかいな障壁を出現させてしまうものだが、上記のヒーリーの解説は例外である。医師とタバコ企業との関係を比較対照としてみると、医師が製薬企業との間に抱える利益相反問題が非常にわかりやすくなる。その上で記事を読むと、毎日新聞が大切なスポンサーである日本たばこ(JT)に、「弊社は御社を応援しています」というメッセージを伝えていることを教えてくれる。

毎日新聞だけではない.新聞各社はJTに対して伝統的に利益相反を抱えてきた。「今日も元気だタバコがうまい」という、今では想像を絶する衝撃的なキャッチコピーを掲げた広告が紙面を飾ったのは1957年.たばこ事業そのものの露骨な新聞広告は以前より困難となったが、上記の記事のように、すぐにそれとはわからぬような形でJTに媚びを売る新聞各社の姿勢は今もなお健在である。「マナーキャンペーン」という名の世界でも類を見ないタバコの「ステルスマーケティング」に対する多大な貢献は,市民よりもスポンサーを大切にする新聞各社の姿勢を象徴している。

2013年ノバルティス社を徹底的に叩くキャンペーンで日本全国の新聞社は多大な収益を上げた。毎日新聞はそのキャンペーンを主導し、数多くの大学教授、研究者を、市民を裏切った極悪人として徹底的に糾弾し、「正義の味方」として祭り上げられた記者は、日本医学ジャーナリスト協会賞を受賞した。一方,東京地検特捜部は2014年8月1日、ノバルティスファーマ社自体を被告訴人としていた薬害オンブズパースンの告訴について、嫌疑不十分として不起訴処分にしたが,そのニュースも疾うの昔に毎日新聞のサイトから消去されている。

しかし、たとえ記事を消去しても、毎日新聞の報道姿勢が、バルサルタンとタバコのどちらが市民の健康を害しているかという科学的判断に基づくのではなく、ノバルティス社とJTのどちらが大切なスポンサーかという経済的判断に基づくという事実は消去できない。

ブラック企業の後ろめたさ
海外の新聞はどこも自社記事のアーカイブズを大切にしているというのに,記事をすぐさま消去する日本の新聞各社の姿勢は,自社製品を犯罪者の足跡としか考えていないブラック企業のうしろめたさを示している.この一番初歩的な証拠隠蔽工作は,全国紙も頻用するところだが,一番の弱小のはずの産経新聞だけは,「全面証拠開示や全面可視化を進めるべきだ」との前田恒彦氏の法廷での主張や,再審請求審の可視化など,検察にとって非常に都合の悪い記事もいつまでも残す姿勢を続けている.同社の他の記事の論調はともかく,この点については,私は産経新聞を評価している.同社が何かというと目の敵にしている朝日新聞の記事消去・隠蔽姿勢を他山の石として意識しているのだろう.

では上記の記事を掲載した毎日新聞社の意図は何だろうか? 警察・検察との癒着を利用して大儲けできた医療事故ビジネス薬害ビジネスが破綻した今、日本たばこや同社を支援する政治家と仲良しであることを隠蔽しようともしないのは,『今や我が社は喫煙者という「少数派市民の味方」である』.そんな「柔軟な姿勢」をアピールしたいのだろうか。その「柔軟な姿勢」がいつまで続くのだろうか?上記の記事はいつまでアーカイブズに残されるのだろうか?

自分は常に正しい.自分は常に悪を暴く正義の味方である.そう自認する新聞社は,彼らが軽蔑するテレビ局と同様に,自分たちの報道コンテンツをすぐさま消去してしまう.そうすれば国民の皆様は全てきれいさっぱり忘れてくれる.報道過誤の証拠は全て隠滅できる.そう思っているとしたら,何ともまあ,お目出度い企業もあったものだ.

企業の運命はその製品に現れる。いい品を売る会社は商売繁盛粗悪品を平気で客に売りつけるような会社は潰れていく。この商売の根本原理から、毎日新聞も逃れることはできない。ならば、より良質のコンテンツを製作・販売するのが、最も確実なサバイバル戦略というものであろう。ところが、毎日新聞は全く逆に、市民に敵対する記事を売りつけた。貧すれば鈍すという。こういう記事を読んで、市民がどう反応するか全くわからなくなってしまうほど、毎日新聞の経営は追い詰められてしまったということなのだろう。

軽減税率の利権漁り
上記の記事中の「軽減税率」が隠されたメッセージのヒントである。つまり、「大切なスポンサーであるJTが増税の危機に見舞われている時に、自分は軽減税率の利権に邁進しているのは申し訳ないと思っていますよ、だからその気持ちを表すためにたばこ増税反対のキャンペーンを目立たないように展開していますよ」というのが、上記の記事の行間に隠されたメッセージなのである。

毎日新聞ほどの恥ずかしい姿は見せずとも、軽減税率という利権獲得のために躍起になっている新聞協会の姿は、醜悪を通り越して滑稽でさえある。「『知識には課税せず』『新聞には最低の税率を適用すべし』という認識は、欧米諸国でほぼ共通しています」などとして新聞に軽減税率適用を求める声明を出しているのだ。欧米諸国どころか、世界で唯一の個別宅配制度守られた護送船団で、医療事故ビジネスのからくりも見抜けない純朴な市民から購読料をむさぼっている連中が、この上さらに軽減税率の利権漁りとは聞いて呆れる。そう批判するのは、橋下徹氏(関連記事)や堀江貴文氏(関連記事)など、普段から新聞に批判的な有名人だけではない。前記の橋下徹氏の記者会見では、新聞社の記者達は、軽減税率利権など初めから諦めているテレビ局の記者からも嘲笑を浴びている。

そもそも新聞記事が果たして「知識」なのか?というツッコミを全く想定していない上記声明が噴飯物なのだが、その他にも、本当に軽減税率の利権を手に入れないと潰れるほど経営が苦しいのか?、これまで経営改善のために、どんな努力をしてきたのか?、医療事故ビジネスに見られるような警察・検察との癒着をどう正していくのか?、上記の毎日新聞の記事のような粗悪な商品を売りつける企業の姿勢自体が本質的な問題ではないのか?そういった市民の素朴な疑問=完全に想定内のツッコミ に、企業として誠実に答えずに、ひたすら利権漁りに血道を上げる新聞社。

私のような「親心」を持った、ごく一部の例外を除いて、メディアリテラシーを身につけた市民のほとんどは、そんな新聞社をもう見放している。映画「インサイダー」でアル・パチーノが扮するローウェル・バーグマンようなジャーナリストを日本の新聞記者に期待するほど、市民はもう、お目出度くはない。だからどうぞ、新聞社の皆様、思う存分、軽減税率の利権漁りに邁進してください。

二条河原へ戻る

一般市民としての医師と法に戻る