オーバーシュート後のシナリオは?
―世界の先達に学ぶ

診療に直接携わるか否かにかかわらず,世界中の人々が我々にくれた贈り物(貴重なデータ)を生かして,彼らの努力と苦闘に報いましょう。
オーバーシュート後はどのようになるのかを先例に学ぶと,いくつか見えてくることがあります。ネット上で公開されているつまり誰でも検証,追試可能なデータを元に検討してみました。(2020/3/26現在)

右の表は,COVID-19感染症の疫学を考える上で極めて重要な指標である65歳以上の高齢者が,GLOBAL NOTEに掲載されている世界の高齢化率(高齢者人口比率) 国別ランキングです(クリックすると元のページに飛びます)。また各国のデータを踏まえた図は,worldOmeter COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMICに掲載されたものです。ここにはいろいろなグラフが示されていますが,ここでは,A. 新規発症退院 B. 最終転帰に占める死亡退院 という4種類,2組の変数の時間経過に注目しました。(クリックすると大きな図が開きます)

それでは,既にオーバーシュートを経験し,現在は流行が終息に向かっていると思われる韓国から。

Aのグラフには難しい説明は要らないでしょう。2月下旬から1週間ほどで新規発症の山の裾野ができたかと思ったら,2月末に爆発的に増加し,3月も第二週に入りようやく減少傾向が明らかとなりました。新規退院の増加が明らかとなるのは3月半ばに入ってからですから,平均入院期間は3週間ほどになりましょうか。

Bは最終転帰に占める死亡退院の比率の経時的変化を示したグラフです。Aで新規発症が増え始めたとほぼ同時に死亡の比率がどんどん上昇,相対的に退院の比率が低下していきました。それが50/50となったのが3月3日のひな祭りの日でs。この分岐点以後は逆に退院比率の上昇,死亡比率の低下が進みました。

韓国のデータを読む時には,韓国と日本の違いを踏まえる必要があります。それは1)COVID-19感染による死亡リスクの高い高齢者の比率が,韓国は14%(世界50位)なのに対し,日本は韓国の2倍28%(世界1位)だということです。2)韓国では,感染者に占める女性の割合が62%と高いのです(日本では逆に55%が男性 2020年3月9日現在)。3)韓国では女性の喫煙率がたったの6%(日本は11%)と低いことも,全体の死亡リスクを下げる方向に働いていると思われます。

では次に日本(28%)の次に高齢化(23%、世界第二位)が進み,女性の喫煙率も20%と高い(男性は28%)イタリアを見てみましょう。

韓国との差が一目瞭然です。上のグラフでは,新規発症は増え続ける一方,新規退院の増加は極めて緩やかです。そして韓国の場合,新規発症が作る山の「幅」が2月19日から3月10日までの20日間なのに対し,イタリアの山は非常に裾野が広く,立ち上がりだして3週間経ってもまだ頂上がはっきり見えません。

下の死亡退院の比率の経時的変化を示したグラフも韓国のそれとはまったく異なっており,同じ病気の推移とは思えません。グラフの初期は,重症患者が大量に運び込まれて次々と死亡退院となる患者ばかりで生きて病院を出られる患者数が極めて少なかったことを示しています。

死亡
退院通常の退院がようやく同数になったのが,2月26日ですが,死亡退院の比率が逆転した2月27日以降も,退院は全く伸びずに頭打ちとなる一方,死亡は増え続けたため,3月7日以降は再び死亡退院の比率が50/50に近づく、つまり退院数と死亡数が同じという,通常の入院診療ではあり得ない異常事態の解消の兆しが見えません。ここがイタリアと韓国との大きな違いで、医療崩壊が一旦起こってしまったら、それを一朝一夕に回復させることは不可能であることを、このグラフは示しています。

イタリアの死亡例の属性についてはざっとネットを検索した限りでは報道記事のみでおおまかなことしかわかりませんでした。Why South Korea has so few coronavirus deaths while Italy has so many.(CNN March , 2020)

韓国とイタリアの間にあるこのような極端な差異が,果たして何によるのか,高齢化,喫煙率,その男女差,といった上述の因子がどの程度関与しているのかも含め,現時点では明確なことは言えません。なぜならば,上記以外に感染を左右するであろう,数多くの生物学的・社会的因子について,不明なことがあまりにも多いからです。

worldOmeter COVID-19 CORONAVIRUS PANDEMIC には世界各国のデータが集積され、誰もが上記のような検討ができるようになっています。ご興味のある方は是非御覧になってください。

コロナのデマに飽きた人へ