第76回日本感染症学会・総会
The 76th Annual Congress of the Japanese Associations for Infectious Diseases
第76回日本感染症学会総会学術講演会を開催するにあたって
第76回日本感染症学会総会
会長 木村 哲
此の度,第76回日本感染症学会総会をお世話する機会に恵まれ,大変光栄に存じております.
これまでの伝統ある本学会の名を汚すことのないよう準備を進めてきた積もりでありますが,
思慮が及ばず行き届かない点も多々あろうかと存じます.至らぬ点につきましても精一杯の
努力に免じご容赦下さい.
本総会では3つのことを念頭に企画を考えました.第一は基礎と臨床のかけ橋となること,
第二は耐性菌対策と抗菌薬の適正使用の普及,第三はグローバルな視点に立った感染症状況の
把握と対策であります.
この10年余り遺伝子工学のめざましい進歩によって感染や免疫機構の分子メカニズムが次々
と解明され,基礎医学は大きく進展しました.各種サイトカインやリンホカインの発見があり,
そのレセプターの構造解析が進み,細胞内情報伝達系の詳細がかなり解明されてきました.
しかし,まだそれらの成果が必ずしも臨床に生かせれているとは限らないように感じられます.
基礎分野の知見を臨床に応用するための一助になることを期待し,シンポジウム1「感染と
炎症のメカニズム」(司会:河野茂先生,竹内勤先生,シンポジスト:小安重夫先生,河岡
義裕先生,門田淳一先生,宮平靖先生)やシンポジウム2「起炎菌検出法の進歩と応用」
(司会:菅野治重先生,一山智先生,シンポジスト:三田村敬子先生,吉田敦先生,一山智
先生,宮崎善継先生,舘田一博先生,川上小夜子先生),教育講演1「生体防御から見た感染症
化学療法」(司会:那須勝先生,演者:笹田昌孝先生),教育講演2「サイトカインを用いた
新しい治療法の展開」(司会:小野寺昭一先生,演者:斎藤厚先生),教育講演6「サイトカイ
ンとSIRS」(司会:稲松孝思先生,演者:相川直樹先生)を企画しました.ランチョンセミナー
でも基礎と臨床のかけ橋となる題材をとりあげています.シンポジウム3「各科より見たクラミ
ジア感染症」(司会:川名尚先生,岸本寿男先生,シンポジスト:松本明先生,宮下修行先生,
尾内一信先生,山崎勉先生,野口靖之先生,高橋聡先生)でも基礎と臨床の結びつきを意識して
企画して頂きました.
第二のテーマである耐性菌対策には教育講演3「感染症化学療法薬の適正使用とガイドライン」
(司会:柴孝也先生,演者:砂川慶介先生)と教育講演7「耐性菌感染症の現況と対応」(司会:
太田美智男先生,演者:山口惠三先生)を用意しました.更にはランチョンセミナー10題の半数
以上がガイドラインや耐性菌をテーマとしたものであります.耐性菌がこれ以上蔓延し,抗菌薬
の無かった時代と同じ状況に逆戻りしてしまうことを避けるため,抗菌薬の使い方とその院内
伝播の防止に更なる注意が払われる必要があります.院内感染対策についてはランチョンセミナー
にも2題準備しましたので昼休みの時間を楽しみながら情報を吸収して頂けるものと思います.
交通機関の高速化と輸送量の増大により,感染症についてもボーダレスの時代となっています.
いつ一類や二類感染症が飛び込んで来るか判りません.常にグローバルな観点で世界の感染症
情報を把握し,それらの侵入やアウトブレークに備えておかなければなりません.招請講演では
アメリカの感染症学界の第一人者であるJohns Hopkins大学のJohn G. Bartlett教授にグローバル
な観点から最近の感染症学の進歩について講演して頂くことになっています.氏は昨年アメリカ
で発生したバイオテロと思われる炭疽の発生時にも,その診断と治療に活躍されており,その話
についても述べて頂ける予定です.また,氏はアメリカの呼吸器感染症治療のガイドラインの
改訂版作成(2000年)の中心人物であり,折角の来日であることからこの点についてもラン
チョンセミナーで講演して頂くこととしました.海外の感染症との関わりについては,この他に
教育講演4「東南アジアにおける感染症の動向」(司会:小林芳夫先生,演者:岡部信彦先生),
教育講演5「抗HIV療法の進歩と限界」(司会:岡慎一先生,演者:満屋裕明先生)を選定しま
した.特に後者はアフリカとアジアの途上国で深刻化していますが,日本でもHIV感染症がいま
だに増え続けていることから,我が国にとっても重要なテーマでありましょう.
特別講演では針刺し事故状況の報告様式EPINetを開発したことで有名なVirginia大学の
Janine C. Jagger教授に針刺し事故状況の日米比較をして頂きます.日本のデータは私達が全国
のエイズ拠点病院を対象にEPINet方式で調査をして集めた 1 万例を超える針刺し事故の事例
であります.日本の事故防止対策への取り組みが遅れていることが気になっていたので,グロー
バルスタンダードとしてのEPINetで日本の状況を調査し,本家のJagger教授にコメントを求めた
形であります.
針刺し事故を含めた病院感染対策に対する医療従事者の関心が近年非常に高まって来ている
ことは大変喜ばしいことであります.これには1999年 4 月にInfection Control Doctor
(ICD)認定制度がスタートし,現在までに2,000人を超えるICDが誕生したことが影響している
と思われます.ICD制度の概念作りやICD制度の規則の作成,認定作業,更新手続きの策定など
一連の過程に関与し推進してきた者として,優れたICDが数多く育って呉れることが大きな楽し
みでもあり,また私に課せられた責務であると感じております.これまでに認定されたICDの
大部分が感染症学会の会員であります.感染症学会を通じ,今後,ICDの質が更に向上し,日本
の病院感染対策が確たるものとなるよう努力すべきと考え,本総会でもICD育成のためにICD
講習会を組み入れました.これはJanine C. Jagger教授の特別講演に引き続き行われるもので,
Aは病院感染対策の経済効率,Bは日本の手術創感染の現状分析,Cは針刺し事故防止に向けて
をテーマとしています.AとCまたはBとCに出席して頂くことによりICD認定資格または更新の
ためのポイントとなります.
以上が招請講演や特別講演,シンポジウムなど特別企画と三つの主要テーマの関連であり
ますが,今回は300題を超える一般演題の応募がありました.誠に有難うございました.これ
まで以上に活発な議論ができるものと期待しています.会場の都合もあり,シンポジウムや
ワークショップ,教育講演の多くを並行して行わざるを得ず,聞きたいものが聞けない不便を
お掛けしてしまう結果となってしまいましたことをお詫び申し上げます.2日間にこれらの全て
を収めるために,朝も8時30分からの開会でありますが,多くの会員の皆様のご出席をお待ち
申し上げております.どうぞ宜しくお願い申し上げます.