ミトコンドリア病患者へのコハク酸ナトリウムの投与

 ミトコンドリア脳筋症の3大病系の一つである「卒中様症状を伴うミトコンドリア病(MELAS; mitochondrial myopathy, encephalopathy, lactic acidosis and stroke-like episode)」に対して処方されるコハク酸ナトリウムについて解説します。
 ミトコンドリアは細胞質内にあり、クエン酸回路やβ酸化系などの脱水素反応系を中心とする可溶性酵素を高濃度に含み、食物の酸化によって生じるエネルギー産生の主要部位とされています。このミトコンドリアは核DNAとは異なる母系の細胞質遺伝を示すミトコンドリアDNAを持っています。ヒストン等の核タンパクで保護されたクロマチン構造はなくいわば“裸”の状態で存在し、またDNAの修復機構も核DNA修復機構に比較して不完全と言われていることから、核DNAに比べ約10倍の頻度で変異を起こしやすいと言われています。
 このミトコンドリアDNA上のロイシン転移RNA(tRNA-Leu(UUR))をコードする3243番目の塩基のアデニンがMELASの80%以上の患者でグアニンへ点変異していることが確認されています。この点変異が臨床症状として発現してくる臓器レベルや個体レベルの異常にどのように反映されるかはまだ不明のままですが、結果的にミトコンドリアの電子伝達系酵素活性が低下することはin vivoでもin vitroでも証明されています。
 このように電子伝達系酵素活性の低下により生じるエネルギー産生障害がMELASを含むミトコンドリア病の本態です。従って、エネルギー依存度の高い組織・臓器が障害を受けやすく、中枢神経、骨格筋、心筋、腎臓などで多彩な臓器障害を呈し、卒中様発作、頭痛・嘔吐発作、筋力低下や痙攣などの臨床症状を示します。MELASでは小動脈の血管平滑筋細胞のミトコンドリア形態異常が特徴です。この形態異常が特に中枢神経の血管の機能異常を引き起こし、脳卒中を発症させるのではないかと推察されています。
 エネルギー産生系を下に示します。電子伝達系には複合体I〜IV(酵素)があり、これらの複合体はユビキノンとシトクロムCと呼ばれる膜内に拡散している可動分子によって電子が伝達されます。MELASでは複合体I欠損(32.5%)、次いでIV欠損(17.5%)、I+IV欠損(10%)が多いですが、明らかな酵素欠損を証明できない例も多いです(40%)。コハク酸は複合体IIを介して電子伝達系へ電子を供給することから、複合体I欠損症における電子供給のバイパスをなすと考えられています。従って、複合体I欠損症を伴うMELASに対して処方され、有効性も報告されています。
 MELASは痙攣発作の時に抗てんかん剤を用いるなどの症状に応じた対症療法が中心となりますが、その他の治療法として、ユビキノン(ノイキノン)の大量経口投与などが一般的に試みられています。リボフラビン(ハイボン)経口投与による複合体Iの活性上昇により、運動能力の改善、脳症発症の予防が報告されています。血中乳酸値がほぼ全例において高いことから、ジクロロ酢酸の投与も行われています。
 投与量は1〜6g/日が常用量です。副作用は特にありませんが、化学調味料のような味覚が難点のようです。