平成7年の国民栄養調査によると、わが国の成人喫煙率は男性 52.7 %、女性 10.6 %に達しています。喫煙は肺癌などの喫煙関連癌の発症頻度を高めるだけでなく、狭心症、心筋梗塞などの虚血性心疾患、消化性潰瘍、脳血管障害等の危険因子になります。さらに、喫煙により様々な医薬品との間に相互作用が起こることも報告されています(下表)。
タバコ煙にはニコチンをはじめとして 4,000 種以上の化学物質が含まれています。このうち「多環式芳香族炭化水素」と呼ばれる一群の化学物質は、肝臓の薬物代謝酵素であるチトクローム P450 1A(CYP1A)を誘導するため、この酵素を経由する薬物の代謝・排泄速度を増大させます。これまでに喫煙により代謝が亢進することが報告されている薬物としては、テオフィリン、フェナセチン、フレカイニド、三環系抗うつ剤(イミプラミン等)などがあります。臨床的にも、喫煙者がペンタゾシンによる鎮痛効果を得るためには、非喫煙者の1.4倍の投与量が必要である、ジアゼパム、クロルジアゼポキシドなどのベンゾジアゼピン系抗不安剤の作用が、喫煙により減弱するなどが報告されています。
一方、インスリン依存性糖尿病(タイプ1型)患者がヘビースモーカーの場合、非喫煙者よりも15〜30%程度インスリンの必要量が多くなることが報告されています。詳しい原因は不明ですが、喫煙に伴う血管収縮により皮下からのインスリンの吸収が遅れることが原因の一つと推測されています。
さらに、喫煙は経口避妊薬の心血管系への副作用のリスクを高めることが疫学的調査で明らかになっています。特に、35才以上で1日15本以上喫煙する女性でリスクが高くなります。
その他、喫煙者ではヘパリンの半減期が短縮する、ビタミンC、B6、B12 の補給を多くする必要があるなどの報告がありますが、これらの原因について詳しい機構は明らかにされていません。
| 薬 物 | 機 序 | 相 互 作 用 | 対処 |
|---|---|---|---|
| テオフィリン | 喫煙によるCYP1A の誘導 | 喫煙者では、薬物血中濃度が低くなる | できれば、血中モニタリングを実施する |
| プロプラノロール 三環系抗うつ剤 フレカイニド |
臨床効果に応じて増量する必要がある | ||
| アセトアミノフェン アンチピリン カフェイン フェナセチン リドカイン |
特に注意する必要はない | ||
| ペンタゾシン | 喫煙者では、鎮痛効果が低下 | 臨床効果に応じて増量する必要がある | |
| ベンゾジアゼピン系 抗不安剤 |
喫煙者では、鎮静効果が減弱 | ||
| インスリン | 1)喫煙によるインスリンの吸収低下 2)喫煙によるインスリンの血糖降下作用に拮抗する体内メディエーターの遊離 |
喫煙者では、血糖コントロールに非喫煙者より高用量のインスリンが必要 | 喫煙習慣の変化によって、インスリンの効果が変化する可能性を患者に知らせておく必要がある |
| 経口避妊薬 | 不明 | 喫煙者では、心血管系の副作用発現が増加 | 禁煙すべき。できなければ他の避妊法に切り替える |
| ヘパリン | 喫煙者では、非喫煙者より高用量のヘパリンが必要 | 特に注意する必要はない | |
| ビタミンC、B6、B12 | 喫煙者では、ビタミンC、B6、B12 の血清レベルが低下 |