フィブロネクチン点眼(血漿点眼)について

 眼球乾燥症候群や角膜上皮障害の改善にはヒアレイン点眼液(ヒアルロン酸ナトリウム)などが用いられ、角膜の創傷の治癒効果を促進します。上記疾患の治療法にはヒアレイン点眼液以外に、患者の自己血漿から抽出した糖タンパク質のフィブロネクチンを点眼する治療方法があります。このフィブロネクチン点眼液について解説します。

【フィブロネクチンとは】
 細胞の形質膜に存在し、遊離されたものが血液中に約 300 mg / ml ほど含まれ、比較的高濃度に存在する糖タンパク質です。分子量 22 万のサブユニットからなり、血漿中のものは互いに数本の S - S 結合により二量体として、また形質膜のものは二量体ないし多量体として存在します。ドメイン構造と呼ばれる独特な構造をもち、フィブリン、コラーゲン、ヒアルロン酸、ヘパリンなどの生物学的高分子や、細胞表面のフィブロネクチン受容体(インテグリン)と特異的に結合します。フィブロネクチンは、細胞の接着の促進に関与し、細胞の接着性が重要な役割を演じる発生、細胞の分化、器官形成、創傷治癒、免疫担当細胞の認識、止血血栓形成など極めて多彩で、生体の各器官を形成したり機能を維持するのに重要な生物現象のほとんどに関与しています。

【フィブロネクチンの角膜上皮創傷治癒の機序】
 正常な角膜ではフィブロネクチンは基底膜にはほとんど検出されませんが、角膜上皮が欠損すると、障害部の露出した角膜実質にはフィブロネクチンが出現し、一時的な細胞外マトリックスを形成します。このマトリックス上を障害部周辺の角膜上皮細胞が進展移動し上皮欠損を再被覆します。角膜上皮創傷治癒の完成と共に角膜実質に観察されたフィブロネクチンは消失していきます。一方、フィブロネクチンの受容体(インテグリン)は、正常角膜では上皮基底細胞にのみ発現していますが、再生中の角膜上皮細胞に、より多くの受容体を発現しており、フィブロネクチンと反応しやすくなっています。このように、フィブロネクチンの出現消退と受容体の発現が対応することで角膜上皮創傷治癒をもたらします。
 フィブロネクチン - フィブロネクチン受容体系が角膜上皮の創傷治癒において重要な役割を演じていますが、この系の何らかの障害が、角膜上皮の創傷治癒の遅延や遷延化に関係していると考えられています。従って、フィブロネクチンを点眼することで、角膜上皮の創傷治癒が促進されることになります。

【フィブロネクチン点眼液の適応】
 治癒の機序から、フィブロネクチン点眼薬は、角膜上皮細胞の接着性が障害されていると考えられる遷延化した上皮欠損に有効ですので、角膜ヘルペス、白内障手術、角膜移植術、脳腫瘍などに対する脳外科での外科的侵襲および糖尿病等に伴う遷延化した角膜欠損の治療に有効です。しかし、分化の障害と考えられるびまん性表層角膜炎や、角膜内皮細胞の障害による水胞性角膜症に伴う上皮障害には無効です。

【フィブロネクチン点眼液の調製】
 患者から採血した 10 ml のクエン酸加血漿から、ゼラチン・セファロースカラム(親和性カラムクロマトグラフィー)にフィブロネクチンを吸着させた後、尿素により溶出し、さらにセファデックス G-25 によってフィブロネクチンを分離し、抗生剤を加え、点眼液とします。
 約 1 週間分の点眼液(3 ml)を 2 時間以内で調製できるため、入院患者のみならず、外来患者に対しても用いることができます。

【用法・用量】
 1 日 6 回点眼します。4 - 5 日目頃より欠損部の面積が縮小し始め、1 - 2 週で完全に上皮欠損が再被覆されます。再発を防止するために、修復後 2 週間点眼を継続する必要があります。

【参考】
・参天製薬、日本ケミカルリサーチにおいて、プールしたヒト血液を化学処理し、ウイルスを不活化させたヒト血漿由来フィブロネクチン製剤の臨床試験がフェーズ III まで進んでいます。