ピルビン酸脱水素酵素欠損症患者へのジクロロ酢酸ナトリウムの投与

 ピルビン酸脱水素酵素欠損症患者へのジクロロ酢酸ナトリウムの投与について解説します。
 ピルビン酸脱水素酵素(PDH)複合体は、解糖系からTCA回路を結ぶ重要な酵素です(図1)。この酵素活性が不十分であるとピルビン酸が蓄積し、高乳酸ひいては乳酸アシドーシスを来たす恐れがあります。この酵素はE1a、E1b、E2、E3、E3結合蛋白質から構成される巨大な酵素複合体で、このうちE1をピルビン酸脱水素酵素(PDH)と呼びます。PDH複合体欠損症にはE1欠損症、E2欠損症、E3欠損症、E1ホスファターゼ欠損症の報告がありますが、そのほとんどがE1欠損症であり、東北大学病院での処方対象疾患もE1欠損症に該当します。PDH E1a欠損症はX-linkedですが、新生突然変異が原因になることが多いです。


 臨床症状は、(1)新生児・乳児致死型 (2精神運動遅延型 (3)運動失調発作型にわけられます。(1)は生後6ヶ月以内に死亡する重症型で、残存PDH複合体活性は平均14.6%と低値を示します。(2)は2:1の割合で女児に多く、MRIやCTで基底核に低密度像を認めたり、大脳半球の嚢胞や萎縮、回脳形成不全、脳室拡大など多様な症状を示します。(3)はほとんど男児に見られ、残存酵素活性は平均29.8%と軽症型であり、知能や神経学的所見も正常で、運動失調があるのみです。
 PDHの酵素活性は、PDHキナーゼによる不活性化、PDHホスファターゼによる活性化により調節されています(図2)。ジクロロ酢酸はPDHを不活性化させるPDHキナーゼを選択的に阻害し、PDH欠損症の残存活性を最大限に働かせることを目的に投与されています。従って、ジクロロ酢酸ナトリウム投与により、高乳酸、高ピルビン酸による代謝性アシドーシスの改善及び運動能力の上昇が期待できます。
 この疾患には、ビタミンB1反応性と不応性がありますが、ほとんどの患者は後者に含まれます。前者に該当する患者に対しては、ビタミンB1療法が奏功しますが、後者にはジクロロ酢酸ナトリウムが最も効果をあらわします。
 副作用は、肝障害や低血糖等が報告されています。