本文は、株式会社ニューメディア様のご了解のもと、雑誌掲載記事(NEW MEDIA 1997年12月号 p.46−49)より転載しています。
〔遠隔医療特別対談〕 ホームへ戻る
平成9年度モデル事業スタート
遠隔医療実用化へむけてのカウントダウン始まる
全国で遠隔医療の期待が高まってきた。高齢社会へと突き進むなかで、医療格差の是正と在宅サービスの発展を支援するものとして、ネットワークを介した医療・福祉サービスに、自治体などから強い関心が寄せられてきた。
平成9年度厚生省はテレビ電話による遠隔医療のモデル事業を開始する。そのモデル地域も決まった。
そこで、7月に就任された松本義幸・厚生省医療技術情報推進室長と厚生省「遠隔医療研究班」班長の開原成允・国立大蔵病院長のお二人に、遠隔医療の具体的な展開にむけて残された課題などを話し合っていただいた。カウントダウンが聞こえてきた現在、コスト面の課題や推進体制づくりなど、ズバリ核心に切り込む、各地方公共団体の担当者にとって価値ある内容となった。
(文:吉井勇=本誌編集部/写真:高槻徹)
遠隔医療研究班1年目の成果と2年目の課題
松本
厚生省を4年ほど離れていたのですが、その間の情報化の進展速度のめざましさに正直なところ驚いています。とくにインターネットについては、世界中、画像情報までやりとりできるということで、社会の枠組みだけでなく、医療のあり方さえ変えてしまった感があります。
遠隔医療については、CTが普及し始めたころから、いずれ、ひとつのの画像を同時に離れた医療機関で見て、診断できるようになるだろうという予感があり、そのためには、法的整備なり、費用負担をどうするかということを検討しておかなければならないなと、個人的には感じておりました。今、やっと周りの環境が整って、議論が白熱してきたという感じです。開原先生にも、昨年に引き続き、遠隔医療研究班班長としてご健闘いただけることになりました。
私の室長就任の抱負は、一人でも多くの関係者の方々に、この遠隔医療の進捗状況を知っていただきたいということです。それぞれが自分勝手な方向へ進んでしまうと、せっかくのいいシステムがつながらなくなると困りますので。厚生省内部での情報交換はいうまでもありませんが、これからは、通産省や郵政省、自治省など関係省庁との連携も大切になってくると考えています。
開原 前任の上田博三室長が、遠隔医療の新しい分野を開拓してくださって、最近ようやく、それなりの方向というものができてきたと思っています。しかし、方向ができただけでは物事は進みません。今度はそれを、じっくりと内部を固めていく段階にきたわけです。松本室長のご就任、期待しております。
ご存知の通り、わが国の遠隔医療には25年もの歴史があります。にもかかわらず、本当に定着したものはほとんどない。それは何かおかしい。そこをきちっと考え分析していくことが必要ではないか。これを今年の遠隔医療研究班の大きな命題にしたいと考えています。
松本 遠隔医療研究班の成果を、報告書としてまとめていただきました。現在、一般の方も読めるようインターネット上でも公開しています。海外からのアクセスで、英文で読みたいという声も多く、翻訳していただいているそうですね。
開原 ええ、間もなくできあがり、公開される予定です。今年5月、神戸で第3回遠隔医療国際会議が開催されたこともあり、海外でも関心が高まっていることを実感しています。
研究班の報告書ですが、その中で提起した問題のひとつに、遠隔医療と医師法との関連がありました。対面診療でない遠隔医療も、医師法でいう診療行為と考えていいかどうか。報告書には、条件をつければいいんじゃないかということを書いたわけですが、あれはあくまでも研究の段階で、厚生省として見解を出していただければ、たいへんありがたいと思っております。現在進行中とうかがっておりますが、もしお差し支えなければ、そのへんの状況などをお聞かせください。
松本 確かに、医師法20条には、自ら診療しないで治療をしてはいけないとあり、それによって、遠隔医療は法に触れるのではないかということになるわけですが、以前から形は異なりますが、医療機関と患者との間で遠隔医療に似たものが、いくつか行われていたと記憶しています。今回改めて法的な面での問題をご指摘いただいて、これは医師法を変えるのではなく、20条をどう解釈するかというところで対応していこうという流れで、今、関係団体と話し合いの最中です。慎重に検討し、早晩、落ちつくべきところに落ちついて結果が出る予定です。もちろん、方向としては、安心して遠隔医療をやっていただけることになると思います。
開原 医師同士のコンサルテーションということなら、今でも遠隔医療は法律的に全く問題はないとされています。しかし、だからといってその部分が、どんどん進んでいるのかというと、必ずしもそうではないのが現状です。ネックは医療関係者のコンセンサスができていないこと。やはり医療関係者がコンセンサスを持っていなければ話になりません。
そういった意味で、放射線と病理の分野では、この1年間でかなりのコンセンサスができたと思っています。たとえば、病理の場合、研究班がスタートした1年前は「テレビを通して病理診断をやるのは危ないからやるべきでない」という関係者もおられました。しかし、澤井先生(岩手医大教授)のご努力で、研究班の終了した時点では「だからといって、できるという人に禁止するべきではないだろう」という意見に変わり、そこは自分の信念に従って、最大の努力をすればいいんじゃないかということになったのです。
放射線の場合では、どのくらいの精度の画像を送ることができれば診断できるかというのが、百年議論みたいな感じでありました。いろんな意見があったんですけれど、一応、ここまでおさえておけば大丈夫というコンセンサスができたようだと私は思っています。機械の精度の善し悪しは、どの医療の分野にもあります。使う人が可能だと思うことで責任を持つというフィロソフィーを、遠隔医療にも持ち込んでいいのではないのでしょうか。
松本 実は、もうひとつ、私が気になっているのは、コストの部分。遠隔医療がなかなか広がらない理由のひとつには、やはり経済的問題が大きいように思うんです。いろんな実験がなされているはずなんですが、実際どのくらい経費がかかるか、かつ、どこまでなら負担していいと医療機関はお考えなのか、こちらには見えてこないんですよ。よく、遠隔医療に保険を認めてほしいという要望を耳にします。そのためには、遠隔医療によって、どう治療成績が上がって、医療費にどういう影響があったかということを比較して見せていただければと思うんです。入院期間が短縮されたなど、はっきりと比較データが示されない限り、保険適用は難しいと思います。
開原 遠隔医療の経済的評価が、まだ、きちんとできていないという指摘は、目をつぶって通り過ぎることのできない点です。今年の研究班は、そこに重点をおいて活動していきたいと思います。そう簡単にいくかどうかわかりませんが、少なくともその努力はしなければならない重要な課題です。
松本 今後の焦点は、遠隔医療に保険が適用されるかどうかというところが中心になってくるかと思いますので、研究を続けていかれる時には、こうした経済的視点も十分に考慮していただくこともお願いします。
開原 保険といえば、CRT診断についても、一部理解されていないところがあるようです。フィルムが残らなくても保険請求ができるのかどうか、コンピュータ処理加算をつけていいのかどうか等々、そこのあたりを、もう少しクリアにしていけたらと思います。現実問題として、むだなフィルムをなくしていくということにもつながりますから、もう少しキチッとしたかたちで公表し、疑問を解決していただくことも必要ですね。
厚生省がすすめる遠隔医療モデル事業
松本 厚生省の事業として、今年度から遠隔医療推進モデル事業が始まります。診療所等の医療施設と、在宅で療養をしている家庭との間に、テレビ電話などの映像や音声を双方向で伝送できる機器を設置して行うもので、市町村が主体となる補助事業を募集しました。全国20近い地域から応募がありまして、そのなかから、とくに前向きに取り組んでいるところ5か所を選び、近く正式にスタートさせます。予算の方は1億円ちょっと。全額補助ですので市町村の持ち出しはありませんが、単年度事業ですから、国の補助がなくなってもちゃんと継続できる見通しがあることが条件です。初年度は、別海町(北海道)、釜石市(岩手県)、最上町(山形県)、大垣市(岐阜県)、三豊総合病院組合(香川県)の5か所です。医療機関から離れた過疎地から都市型まで、モデルとなるケースはさまざまです。
開原 遠隔医療については、通産、郵政、農林、自治省などの方でも取り組まれていますが、厚生省が、遠隔医療支援を自らの事業として行われるというのは、画期的なことで、大いに期待しております。
私自身、以前、通産省のプロジェクトに多少関与したことがあるんですが、通産省や郵政省のプロジェクトというのは、短期間で終わるものがほとんどです。要するに技術開発型で、アイデアがよく、非常に面白いものができるのですが、残念ながらあとが続かないことが多い。だからといって、それがいけないということではなくて、それはそれなりに意義があるんですが、しかし、そういうプロジェクトだけでは不十分です。結局、それを誰かがフォローし、経済的にも維持でき、社会的にも受け入れられるシステムとして定着させていかなくてはなりません。役所のメカニズムの上から考えて、通産省や郵政省にはできないことでも、厚生省ならそれができます。各省庁が役割をうまく分担してやっていただくと、必ず日本の医療は良くなってくると私は思っています。
松本 各省庁との協力体制づくりですが、我々も強く意識しており、実務レベルでの打合せを予定しています。
開原 今回の補助事業は厚生省のひとつの姿勢を示すということにもなりますので、ぜひともいい形で進めていただきたいと思います。
松本室長もおっしゃった受け手側の推進体制の問題というのは大事なことです。遠隔医療というのは、かなり本気になっていろんなところを調整しないと実現できません。つまり、遠隔医療の難しさというのは、医療機関と患者の側と、それからテクノロジーを持っているところの三者の足並みが揃っていなければならないこと。そして、この3者をコーディネーションするのは、さらにたいへんな苦労を伴います。
三者を結ぶシステムを作り、運用していく。誰がシステムを作り、それを運用するのかということになった時、地方自治体がよくやるのが委員会方式。そこに、医療機関とメーカーの方と自治体の方が入って事業推進にあたるわけですが、私がいつも申し上げることですが、それだけでは絶対にダメです。要するに委員会というのは協議はできるけれども、実行はできません。委員会のときは一生懸命協議しますが、終わると自分の仕事に戻りますから、委員会だけでは何もできない。やはり、こういうことを本気になってやろうとすると、それを組織としてきちんと受け止めることです。大きな組織である必要はありません。専任の担当を設ければ事業はうまくいくはずです。ただし、それはメーカーの人ではだめで、自治体のなかの人であることが非常に重要です。人選を間違えば後々までにも
影響してきます。モデル対象になった自治体や第三セクターなどでは、そういうことを見定め、事業が定着するよう努力していただきたい。
遠隔医療事業成功のポイント
松本 基本的には開原先生がおっしゃったように、全員とはいいませんが、自治体のなかに、熱心に粘り強くすすめる人がいることが遠隔医療事業推進の一番の鍵になるのでしょうね。それは、必ずしも役職が上である必要はありません。もちろん、上であればあるほど望ましいですけれども。また、委員会のメンバーにしても、自治体側の担当者にしても、心配なのは、せっかく積極的にやってくれる人がいても、その人がいるときはいいんですが、たとえば、その人が自治体の職員であった場合、人事異動なんかで別のセクションに変わってしまうことが少なからずあるんです。だから、町の診療所とか、そういう異動のないところにいる人なら、適任かもしれません。とにかく、事業成功のポイントは、ひとえに人材を得るということ。それに尽きますね。
とくに、モデル事業の段階から、ある程度軌道にのせるには、スタッフを固定し、後続の人達にノウハウをしっかり伝えていくことが必要でしょう。こうやれば一定レベル以上のことはやれるということが、まわりにも広がっていくことが大切ですから。
開原 私も、松本室長のご意見に賛成です。お願いは、もう一歩進めていただきたいことです。遠隔医療をひとつの組織として位置づける必要があると思います。たとえば“遠隔医療係”とか、“遠隔医療担当”とか、そういうものを職制上、設けていただきたい。今、室長がおっしゃった通り、とくに事務系の方は人事異動で職場が変わることが少なくありません。それを防ぐのは何かというと、職制上、遠隔医療係というものを作っておくことです。名前というのは非常に不思議なもので、「お前は遠隔医療係だよ」と言われると、その人は本当にやらなくちゃ、という気分になってくるんです(笑)。これは、医療機関にとっても同じことだと思うんです。私が、よく申し上げるのは、僻地を抱えているような医療機関は“遠隔医療部”をお作りになったらどうかと。遠隔医療部のなかに専任の医者を設けておくと、その人が中心となって、いろんな方と協力してやっていこうとする。しかし、組織として遠隔医療部というのを持たない限り、ボランティア的なセンス、研究者的なセンスが抜けないため、定着しないと断言していいでしょう。
先日、カナダの知人から聞いたのですが、カナダの東にあるニューファウンドランド州が遠隔医療部というのを持っているそうです。そこには専門家もいれば、医者もいて、いろいろな事業を推進しているそうです。私は、そこまでやらなければいけないんだなという気がしたんです。日本には残念ながら、まだ遠隔医療という名前のついた組織はありません。
松本 先進的なところでは、組織として取り組んでいるところもあると思います。しかし、それを自治体のなかに係として置いているかどうかは別問題です。まだ実績もないし、実態がないと組織としてセクションを作るのはなかなか難しいと思います。まあ、そういう実態がないのにセクションだけ強引に作っても、しょせん人は動かないだろうという考え方もあります。仕事と役職、どちらが先かということはわかりませんが、事業を進めていくための組織がないので、なかなかうまくいかないということは想像できますね。
開原 大学に頼むという手があるといわれるかもしれません。私も大学にいた人間ですから、大学の良さと悪さ、両方知っているつもりなんですが、それもやはり無理があります。彼らは知識がありますから、それをうまく生かしていくということは可能です。ただ、逆にマイナス面もあるわけで、それは学会で発表できる面白いものなら熱心に研究するけれど、研究要素がなくなると興味を示さないということになりかねません。大学も、ボランティアや研究者も、一時期は確かにいいのですが、継続性に問題があります。そうしたことをよく知ったうえで、それぞれの位置づけを考えていった方が効果的です。
今後の展開とスケジュール
松本 平成10年度も遠隔医療推進モデル事業については、同額くらいの予算を要求しており、同じくらいの規模で展開できるかと思っています。
実施にあたっては、山間僻地、離島を抱えるような医療機関が希薄な地域の場合と、反対に都市部での在宅の場合では、それぞれ性質が違うわけで、どれくらいの自己負担なら遠隔医療を受けてもよいか。そういう点も含めて、今後はデータをとっていこうと考えています。
ただ、モデル事業の対象となるのは、どうしても似たようなケースになってくる可能性もあり、もっともっと広げていくためには問題をすべて出し尽くさなければと考えています。何といっても大きなネックとなるのは費用ということになりますが、医療サービスの薄い僻地のようなところの場合と、近くに専門医がいながらも著名な先生に遠隔医療で診てほしいというような場合、どこまで保険で払うのか、という話も当然出てくるはずです。いずれにしても、今年度、来年度においては、患者さんにどの程度の医療サービスを活用したいか、きめ細かく調査したいと思います。
開原 まず、昨年に引き続き、遠隔医療研究班の活動を継続していきます。その中間報告的なものは、インターネット上に公表するつもりですので、関心のある方はぜひご覧いただいて、ご意見をいただければたいへんありがたいと思います。それから、昨年、第1回遠隔医療研究会を開きましたが、今年度もやる予定で2月か3月頃に予定しています。
松本 厚生省のモデル事業は継続することを前提としていますので、最低3年は厳しい予算のなかでやり続けていきたいと思っています。何度も繰り返しますが、昨年、研究班の方から、いろいろ問題点を出していただいたんですけれど、今年はそれに加えて、ぜひ経済的な評価をお願いしたいと思っています。事業が完全に軌道にのるまでには、お金以外にも足りないものがいろいろ出てくると思います。先ほど開原先生がおっしゃったインターネットを利用して、お互いに情報を交換しあえればと思っております。どうぞよろしくお願いします。
開原
松本義幸(まつもと・よしゆき)
厚生省健康政策局研究開発振興課医療技術情報推進室長
1978年熊本大学医学部卒業後、厚生省入省。厚生省、労働省、大分県、環境庁を経て、1993年7月岩手県環境保健部長、1995年7月科学技術庁原子力安全局放射線安全企画官。1997年7月から現職。
開原成允(かいはら・しげこと)
厚生省「遠隔医療研究班」班長、国立大蔵病院長
1939生まれ。東京大学医学部卒。米国Johns Hopkins Hospitalで研究に従事。帰国後から、東大病院の電算機プロジェクトを主宰。前東京大学医学部教授。86年から3年間、国際医療情報学連盟(IMIA)会長。医療における情報技術応用の研究をライフワークとする。
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