5.遠隔医療で考慮すべき事項
5-1.適用される状況
5-2.適適用される対象及び考慮すべき問題点
5-3.適用における技術的問題
6.遠隔医療が通常の医療として可能な領域と条件の考察
6-1.検討にあたっての前提
6-2.検討にあたっての原則
7.遠隔医療によって診療を行うための条件
7-1.医療機関間(医師間)相互間のコンサルテーション
7-2.医療機関と家庭間の遠隔医療
7-3.医療機関と医師のいない医療関連機関との間の遠隔医療
7-4.コメディカルと家庭
7-5.遠隔医療に関連するテレビコンファレンスシステムについて
8.問題点解決のための提言
8-1.政府機関に対して
8-2.医療界に対して
8-3.産業界に対して
8-4.産在宅医療支援組織について
8-5.学会に対して
第一に、医療機関の間で遠隔医療によって医療上のコンサルテーションを行うことは、法令的には何ら問題はなかったが、医学界のコンセンサスがまだ十分形成されていなかったために、普及はしていなかった。本報告書における検討の結果、下記の点で医学界の意見の一致をみた。
X線写真などの遠隔診断については、CRT診断の普及を前提にした上で、伝送する画像の画質については、ほぼ下記のコンセンサスが得られた。即ち、フィルムをデジタイズにするには、サンプリングピッチ200μm、濃度分解能10ビットが必要であり、表示するには、解像度1000×1000、濃度方向への解像度8ビットが最低必要である。
但し、伝送の過程で、カメラの性能、ディジタイザーの性能、伝送時のデータ圧縮、CRTの性能、画像処理機能などの問題がX線写真の種類と複雑に絡んでいるため、上記は最低の条件であり、これ以上の条件を一義的に表現するには困難である。このため、遠隔医療に携わる医師は、遠隔医療の目的により要求される画質に差が生ずることを認識し、自ら可能であると信ずる所に従ってこれを行うことが必要である。
病理画像の遠隔診断については、技術的にはX線検査よりも複雑な側面を持つ。その理由は、伝送する画像を作成するまでの過程伝送する部分の選択などが重要であるからである。また、高性能の機器が必要か否かという問題もある。
これらの問題に対しては、遠隔病理診断が、技師も含めた当事者の信頼関係のなかでおこなわれるべきものであるから、機器の性能を一義的に表現することはあまり意味がなく、送信側、受診側の関係者が、各々の責任を明確にした上で、自ら可能と思う機器を選択するべきである。また、遠隔病理診断の対象としては、現在の認定病理医の数からすると、当面は臨床における緊急性と手術中などで遠隔病理診断によって治療方針が決定的な影響を受ける迅速診断に限って行われるべきである。その際、診断に関する医療上の責務として、迅速診断後必ずパラフィン切片で確認し、しかも迅速診断を含め診断記録を臨床側、病理診断側の両者で保存しておくことが必要である。
患者像の伝送を含む医療機関の間のコンサルテーションについては、医師法上の問題はなく、内科診療のコンサルテーションについては、カラーディスプレイを用いて、NTSCによる動画像を、即時性にしかも音声による討議が可能であれば、十分有用性がある。但し、これらの条件下にどのような所までコンサルテーションに応じるかは、それに携わる医師が決めるべき問題であり、一般論として規定すべきではない。内科以外でも、皮膚科診療、眼科医療、精神科医療などにおいても遠隔地からのコンサルテーションが有用性を持つ可能性がある。
第二に、医療機関と家庭間の遠隔医療は、在宅医療支援の一環として今後重要になると思われる。但し、この分野はまだ法令的に明確になっていない点があり、厚生省は通達などによって医師法上可能な範囲を明確にすべきである。
その条件が満たされれば、内科診療において「慢性疾患で長期間続けて同じ医師が診療している安定期にある患者」に対しては、精神的な支援も含めて遠隔医療は貢献する。そのためのシステムとしては、カラーディスプレイ、NTSCによる動画、即時性、音声による討議の可能であることが最低条件である。この他にも、皮膚科診療、リハビリテーション指導、介護指導、妊産婦の自宅管理など応用分野は今後広がるものと思われる。
遠隔医療が日本において25年の歴史を持つにもかかわらず、未だに普及をみないのは、遠隔医療を実施するための環境が整備されていなかったためである。今後、政府、学界、産業界などはそれぞれの立場でこの環境整備に努力する必要がある。環境が整えば、遠隔医療は日本の将来の医療に大きく貢献する可能性を有している。
「映像を含む患者情報の伝送に基づいて遠隔地から診断、指示などの医療行為及び医療に関連した行為を行うこと」をいう。
と定義することにしたい。
この定義について若干のコメントを付す。第一に「映像を含む」とした点である。遠隔医療にあたる英語は「telemedicine」であるが、諸外国では、この用語は特に映像を意識しない場合が多い。例えば、専門医に患者の相談を電子メールで行った場合でも、 これはtelemedicine の一種と考えられている。しかし、この報告書では、この医療形態の重要性が映像伝送を用いることにあると考え、この定義とした。
第二に、「遠隔地から」という言葉のみで、特に発信元や発信先が医療機関であるか否かを問題にしていない点である。英語の telemedicine の場合は、発信元も発信先も医療機関であることを想定している場合が多い。いわゆる在宅医療の支援の場合は、tele-care という言葉で区別する場合もある。しかし、ここでいう遠隔医療には家庭などにいる患者を対象とする場合も含めた。
第三に、「医療行為及び医療に関連した行為」という表現にして「医療行為」のみとしなかった点である。映像伝送の応用は、今後、福祉の分野にまで広がっていくものと考えられる。特に高齢社会を迎えるにあたっては、在宅介護は大きな課題となる。したがって、遠隔医療もはばを広げて福祉との接点をも扱うことを想定しておかなければならない。この行為を行う主体も医師に限らず、歯科医師である場合もある。また、看護婦、検査技師、薬剤師などがそれぞれ許される範囲で遠隔地から指示を与える場合も考えられる。これらもここでは遠隔医療に含める。
第四に、ここには時間の観念が入っていない点である。すなわち、伝送と医療行為とが即時的に行われる必要性はこの定義には入っていない。通常想定する「遠隔医療」は即時的に行われるものであるが、ここであえて即時性を入れなかった。その理由は今後X線写真の遠隔診断などにおいては非即時的処理(バッチ処理)が行われる可能性が大きいと推定されるからである。例えば、夜間に大量の写真を伝送し、伝送先の装置に蓄積し、専門医が時間のある時にこれを読んで結果を返すという形態が普及する可能性がある。これは、通常のX線写真の読影においてもまとめて読影することが一般的に行われていることからも排除すべき形態ではない。本報告書では、できるだけ広く問題を捕らえておく必要があると考えたため、このような形態も含み得る定義とした。
また、映像伝送の利用は学会中継、テレビ会議、症例検討会などにも利用され成果を治めている。更に、入院中の小児患者がテレビ会議システムを介して、学校の授業を受けたり、長期入院中の患者が家族との間でテレビ電話を用いるなど、患者のアメニティの向上にもテレビ会議システムは貢献する。
これらは、通常の医療行為とは言い難いために、本報告書では対象として論じない。しかし、技術的にみると、遠隔医療はテレビ会議システムの発展形でもあり、多くの学ぶべき問題があるため技術的な検討には加えている。
(注)病理医数
我が国における認定病理医(診断病理医として日本病理学会から認定された病理医)の数は、現在、約1600名である。1986年の厚生省の報告で米国と比較した場合、人口10万人につき米国では病理医 5.5人に対し、日本では1.0人であり、医師総数に対する病理医の比率が米国では2.6%であるのに対し日本では0.7%である。
このように米国と比較すると確かに我が国における病理医の数は少ない。しかし、単純に比率だけでヨーロッパと比較した場合、人口10万人に対しての病理医数が、英国では2.0、西ドイツでは1.3人、フランスでは1.4人とそれほど大きな違いはない。
問題は、我が国では診断病理医の地域による偏在が目立つことである。例えば、1992年の厚生省の調査では、東京地区が病院100に対して病理医40人であるのに対し、東北地方では病理医14人の割合となり、比較対象としている面積からみると東北地方でははるかに少ない。また、その東北地方の中心であり仙台市を含んでいる宮城県でさえ21人の認定病理医すべてが、仙台市とそのベッドタウンである塩釜市、名取市に勤務しており、これ以外の地域では大きな病院といえども病理医が常駐していないのが現実である。
なお、このことは、映像伝送を伴わない分野でも同様のことが言える。本報告書は、遠隔医療を扱うものであるから、その他の分野についてはここでは言及しないが、今後の医療においては、複数の医療機関や専門医が協力して診療にあたるいわゆるグループ診療が増加すると考えられ、これは日本の医療全体を考えた時には、効率化の上でも医療の質の向上の上でも望ましい。
第三は、患者サービスの向上である。そもそも病人が病の身体をおして医療機関へ通うことは患者に大きな負担をかけることになる。患者にしてみれば、日常の静養の場に医師が訪れてくれることが理想であろう。しかしながら、検査技術の進歩などにより医療機器や設備が普及したことなどから現在の施設中心の形態が定着した。また医療の効率性の観点からも、今日ではそれは不可能であろう。ところが、遠隔医療は、患者が24時間医師によって見守られていると同じ状況を作り出すことができるため、少なくとも心理的には患者の理想に近い状態である。在宅医療支援が普及すれば、我が国の医療のあり方そのものに大きな影響を与えるであろう。
第四は、やや特殊な場合であるが、医師の診療を得ることが通常は困難な場に対して専門医による診療の機会を提供する。その典型は救急車のような移動体と病院間の遠隔医療である。これは、将来は海上や飛行機、更には宇宙船というような場への拡張も考えられる。
第五は、上記とは異なった観点であるが、遠隔医療は国際医療協力において極めて有効な手段ともなり得る。遠隔地からの通信は、例えそれが外国からであっても、技術的にはそれほど異なることではない。この特徴を活かせば、外国の医療に直接日本からアドバイスを与えることも可能であるし、また日本のにおける外国からの医療プロジェクトに対して本国から支援することも可能である。このような遠隔医療の応用は外国にはかなり例があるが、我が国ではまだほとんどない。従って、本報告書においては、これ以上言及することはしないが、遠隔医療のにおける今後の重要な応用分野であろう。
伝送の対象となる情報の第一は患者自身の映像である。ただし、患者をカメラで撮影し、伝送するに際しても、診療科によって診療形態は異なるので遠隔医療に適した診療形態をもつ診療科の患者と適さない診療科の患者とがある。例えば、現状の技術では外科治療を要する患者に対して遠隔医療のみで行うことは困難である。この意味では直接的処置を伴わない診療科の方が遠隔医療に適していると考えられる。内科、皮膚科、リハビリテーション指導、精神科、妊産婦管理などはその候補となり得るであろう。ただし、現状ではいずれの場合も伝送の送り手と受け手の間での信頼関係があることは必須の条件であり、映像伝送中の双方の動きやその意図がお互いに完全に理解しあってなければ遠隔医療は成立しない。
患者映像伝送の変形としては、例えば屋内に設置した数台のカメラに写る人影の動きから、独り暮らしの患者の安全を確認しようというような試みもある。これも一種の遠隔医療と考えられるが、このような特殊な例は個々に論じるべき問題であるので、ここではこれ以上触れない。
また、患者のおかれた医療環境も重要な考慮すべき点である。いかに遠隔医療が有効であるといっても、対面診療が十分行い得るにもかかわらず、遠隔医療ですますというのであれば、それは医療の質の低下に他ならない。他方で、どうしても医師が近くにいないような場合には、例え対面診療と比べて不完全なデータであっても遠隔医療で得た情報が非常に貴重な場合もある。したがって、患者の状況が来院することが困難な患者、頻繁に往診することができないような状況、緊急時で医師が間に合わないような場合などは、遠隔医療の候補となり得るであろう。
患者映像の伝送にあたっては、患者のプライバシーについての配慮が必要である。痴呆老人といえどもプライバシーの権利はあり、これを不必要な人が映像伝送で観察すること厳に戒めなければならない。このためには、スイッチを入れる権限を誰に与えるのか、カメラを移動させる権限を誰に与えるのかなどについて、関係者の間で協議し、相互に納得した上で映像伝送を行う必要がある。
B 検査情報
第二に伝送の対象となる情報は、患者から得た検査データの伝送である。検査データは患者から取得すれば独立して存在するので、患者がいなくても伝送は可能である。しかし、一部の機能検査では、患者から得た情報を即時的に伝送する方がよい場合もある。例えば、内視鏡、超音波断層、ドップラー、消化管X線撮影などは、その情報を即時的に伝送してすみやかに相手方の意見を求めることが効果的である。また、CTやMRI検査の場合などにおいても、造影検査の必要性、撮像範囲やMRIでのパルスシーケンスの選択といった放射線専門医でないと適切なアドバイスができない専門的な知識が即時的に画像検査の質に反映されることを考えるならば、CTやMRI画像の即時的な伝達は遠隔医療の大きな利点となる。
X線写真の読影などの場合、例えば夜間に非即時的(バッチ的)に多くの写真を伝送して受信側画像情報蓄積装置に蓄積しておき、翌日専門医がまとめて読影して結果を返す形態もある。このような伝送形態を遠隔医療というべきか否かについては、議論のあるところであるが、通常の読影でも即時的に行わなければならないという理由はなく、このような形態もここでは遠隔医療の一部として含めるべきと考えた。
また、検査情報の伝送の場合は、医師間でのコンサルテーションが通常の形態であるから、4ー1で述べた4つの形態の中の(1)の医療機関と医療機関(医師と専門医)の間での伝送の場合のみである。
伝送の対象となる情報としては、下記等が考えられる。
(1) 検査データのみの伝送
(a) X線写真
胸部、腹部、消化管、頭部、骨、血管撮影 など
(b) CT写真
頭部、胸部、腹部、骨盤部など
(c) MRI
頭部、胸部、腹部、骨盤部、骨・軟骨組織など
(d) 眼科的映像:眼底写真、細隙灯顕微鏡写真、眼底検査所見など
(e) 病理組織像
細胞診、組織診、血球像など
(f) 心電図
(g) 脳波、筋電図など
(h) 血液検査などの臨床検査で結果がテキスト形式(数値など文字形式)のもの
(2) 患者からの即時的な伝送
(a) 超音波検査
(b) 心音
(c) 内視鏡検査
(d) X線透視検査
なお、検査データはそれぞれが独自の情報的な特徴を持つので、それぞれに対応した考察が必要であり、これをまとめて同じように論じることはできない。
A 映像の種類
次のような要素を考慮する必要がある。
静止画か動画か
黒白画像か、カラー画像か、濃度の階調、色の表現方法
解像度
映像(画像)の大きさ
既にディジタル化された情報か、アナログ情報か
B 伝送の環境
非即時的(バッチ)伝送か、即時的(リアルタイム)伝送か
音声による討議が可能か
付属資料の送付が可能か
C 入力装置
カメラの性能
ズーミングが可能か
カメラの移動の可能性及び制御者
D 伝送に関連する要素
伝送路の種別 公衆回線電話線、専用線、CATV、マイクロ波、通信衛星
伝送路の帯域
伝送データがアナログかディジタルか
圧縮の有無及び方式
E 出力装置
出力装置の種類
NTSC方式CRT
特殊なグラフィックディスプレイ
ハイビジョン方式CRT
コンピュータ用CRT
コンピュータ用液晶ディスプレイ
出力装置の性能
ハードコピーの有無
前提1 適用可能領域の存在
伝送によって得られる情報は完全ではなく自ずから限界がある。例えば、触診情報などは伝送によっては得られない。しかし、完全な情報でなければ診療に役立たないわけではなく、不完全な情報であっても診療が可能な場合もある。従って、遠隔医療によっても医療行為が可能となる領域の存在を認めることが前提となる。
前提2 適用可能領域の条件の設定
上記の領域が存在する場合、その領域を定める条件を明らかにすることが必要である。この条件を定める基準は、「患者の診療に貢献すること」と「医療過誤などの原因とならないこと」の二つの基準の妥協点のようなものであろう。
前提3 医師の技術による条件の変動
上記の領域は医師個人の技術の差によっても変化する。経験のある医師であれば、ある程度不完全な情報であっても診断可能であることが知られている。
前提4 周辺の環境による条件の変動
周辺に医師不在での緊急時の場合、例え不完全な情報であってもそれに基づいての助言が有用である場合がある。このような場合を通常の条件に合わないからといって禁止するべきではない。
前提5 技術による条件の変動
遠隔医療は通信技術を使って行われるので、技術の良否によってもその条件は変動する。通信技術が未熟であるから不可能なものと、どのような通信技術を用いても医療上の理由から本質的に不可能なものとを分けて論じる必要がある。
原則1(遠隔医療行為の責任)
ここで定める条件は、遠隔医療が可能と考えられる範囲を示すものであって、一種のガイドラインと考えるべきものである。しかし、この範囲内でならば医師はいかなる医療行為をいかに行っても免責されるというものではない。その結果については当該医療実施者が責任を負っていることは、通常の対面医療の場合と同様である。
原則2(医師による医療行為の適用範囲選択)
上記の範囲内でどこまで医療行為を行うかは、実施する医師が選択する問題である。遠隔医療においても、自信をもって行い得る医療行為は、医師によって個人差があり、また用いる機器によっても差があるから、医師自らがその範囲を定めて実施することが必要である。これは、通常の医療においても、医師自らの技量やその場にある医療機器によって、個々の医師が行う診療内容を自ら定めているのと何ら異なることはない。
原則3(保険医療対応への制限)
ここで示すガイドラインは、かかる場合に医療行為を行うことが可能であることを示しているものであるが、このすべてが保険診療で認められるべきであるというものではない。研究班としては、遠隔医療も保険医療の対象になり得ると考えているが、通常の医療行為の中で保険診医療の対象となるものが限定されると同様に、遠隔医療の中でも保険適用できる医療行為が限定されるのはやむを得ない。
A 伝送対象が検査データの場合
X線写真、病理組織像、内視鏡像など検査データが映像として得られる場合は、その読影を遠隔地の専門医に頼みたいという場合があり、遠隔医療が貢献できる領域がある。ディジタルデータが伝送先に可逆的に伝送される場合。例えばCTのように得られるデータがディジタルの場合、血液検査など臨床検査などで数値などの文字形式のデータの場合では、伝送の途中で情報を失われるうことなくそのままでの伝送が可能である。この場合には、伝送前後のデータは完全に一致するので、出力装置の性能が同程度であれば、伝送前と同じ条件で診断することが可能である。
経済的には、伝送元が診断料の一部を伝送先に支払うことによってある程度は解決できる。
1)X線画像
伝送された画像で診断することは原則として医師法上での問題はないが、どのような画像をどのような機器を使って伝送した場合に読影可能と考えるかは医学界のコンセンサスの問題である。今後、伝送された画像を読影診断することに保険が適用されるためにも医学界のコンセンサスが前提となる。
このコンセンサスには二つの要素がある。第一は、CRTのみによって診断が可能かという問題と、第二は画質がどの程度以上でなければならないかという問題である。
第一のCRT診断については、保険制度や各種法令によりその定める保存年数は異なるものの、現時点では保険診療ではフィルムにより画像を診断した上で保存することが要求されているため、これがCRT診断の普及を妨げる一因にもなっている。しかし、この問題が解決されれば、残るところは医師の習性の問題に帰着すると考えられるため、教育を含めたCRT診断への方向付けがますます重要となる。
画質については、医療界のコンセンサスはまだ完全ではないが、フィルムをデジタイズにするには、サンプリングピッチ200μm、濃度分解能10ビットが必要であり、表示するには解像度1000×1000、濃度方向への解像度8ビットが最低必要であるという点についてはほぼ一致している。ただし、伝送の過程で、カメラの性能、ディジタイザーの性能、伝送時のデータ圧縮、CRTの性能、画像処理機能などの問題がX線写真の種類と複雑に絡んでいるため、条件を一義的に表現するには困難である。
ただし、免許を与えられている医師は、遠隔医療の目的により要求される画質に差があることを認識したうえで、医学界のコンセンサスに従うことはなく、自ら可能であると信ずる所に従って診断を行うことには基本的に制約はない。ただし、遠隔診断において誤診などが生じた時には、その医師が責任を負う可能性があることは、通常のX線診断と同様である。
2)CT画像及びMRI画像
前のX線像について述べたことがほぼそのままあてはまるが、画質の最低条件はX線画像よりは低くてよいというのがほぼコンセンサスである。これは原画像が512×512程度で表現されていることから当然である。
保険診療等の費用面については、上に述べた通りである。
3)病理画像
原則として医師法上の問題がないことはX線写真と同様である。
従って、医療界のコンセンサスの問題であることも、同様であるが、技術的にはX線検査よりも複雑な側面を持つ。
その第一は伝送する画像を作成するまでの過程、すなわち、標本の切り出し、染色などが診断上重要な点である。この過程については、医師の監督下でおこなわれることを原則とし、責任は送信側の医師が負うことになる。この過程は現在、おこなわれている迅速診断においても手術中に担当する外科医が組織採取して病理検査室に送って標本を作製していることが多いことを考えれば遠隔医療を利用する場合でもそれほど難しいことではない。
また第二に実際の標本が大きいためどの部分を選択して画像伝送するかが重要である。この点についても送信側の医師が責任をもてるような状態でおこなうべきである。診断の過程のなかで、伝送画像の選択を委任するなど病理検査の技師の協力を得ることはかまわないが、これもすべて、伝送元の医師の責任のもとにおこなわれるべきである。
第三に診断にはテレビ電話、カラーの高解像度の画像、さらに機器の遠隔操作など現代のマルチメデイアを駆使した高性能の機器が必要か否かという問題がある。患者の臨床経過の送信や、採取した標本の肉眼像などにテレビ会議のようなテレビ電話システムを使うこと、さらに、顕微鏡を遠隔操作して遠隔地の病理診断医が標本のどの部分を見るかをコントロールすること、HDTV(いわゆるハイビジョン)規格の画像伝送システムを用いることなどが理想的であり、事実、このようなシステムも存在するが、現在の段階では非常に高価なものとなる。一方、異なるシステムを用いた場合の正誤率の比較検討は未だなされておらず、すべての場合に上記のような高性能の機器が必要であるかについても、必ずしもコンセンサスはない。場合によっては、充分な患者情報の提供と、依頼側と診断側の充分な意思の疎通があれば、一枚の画像のみでも診断が可能なこともある。要するに、現代の粋を集めた遠隔医療とはいってもそこには、遠隔地で診断を求めるものと、診断をするものとの信頼関係の存在が重要であると思われる。従って、機器の選択については、一様にシステムを規定することは望ましくなく、機器の選択は診断を行おうとするものに任すことが適当と考えられる。
なお、診断に関する医療上の責務として、迅速診断後必ずパラフィン切片で確認し、しかも迅速診断を含め診断記録を臨床側、病理診断側の両者で保存しておくことが必要であろう。
このように考えてみると遠隔病理診断の医療の導入にあたって必要なことは、送信側、受信側、各々の責任を明確にしつつ患者、医療のためという前提のもとに技師も含めた当事者の信頼関係のなかでおこなわれるべきであるということである。遠隔病理診断の対象としては、現在の認定病理医の数からすると、当面は臨床における必要性の観点から、手術中などで遠隔病理診断によって治療方針が決定的な影響を受ける迅速診断に限って行われるべきではないかと思われる。また、現在の機器を利用した遠隔病理診断は、顕微鏡を用いた診断よりも精度が低いと思われることから、本システムによる不測の事態に対しての検討を学会において社会的側面も含めて整理しておいく必要がある。したがって、当面は不特定多数の病院や医師を対象とする診断よりも意思の疎通が可能な信頼関係の保てる特定の機関を対象としておこない様子をみていくべきであろう。
保険診療等の費用面
なお、遠隔病理診断についての費用については送信側の標本作製の技術料、伝送機器、伝送料金などと、受信側の病理診断料に分けて考え、前者を伝送側医療機関の収入、後者を病理診断医側の収入とするのが適当であろう。これは、現在、保険診療の病理診断が病理学的検査実施料と病理学的検査診断・判断料とに分けられていることからも、遠隔医療にかかる病理診断について、将来的には保健点数上も標本作製と診断料に分離することが可能と考えるからである。
病理診断は、治療方針の決定に与える効果は大きいものの、遠隔による診断が過剰に行われる恐れは少ないことからも保険診療として、より評価されてよいものと考えられる。
4)その他の検査結果の伝送
この他にも内視鏡写真、眼底写真、超音波画像などの画像や、また心電図、脳波などの生理機能検査の結果などの伝送も考えられ、既に心電図のように実用化されているものもある。これらについても、医師法上の問題がないことや費用面の問題は上記と同様であるが、画像については、X線写真や病理画像とかならずしも同一ではないために、画質の保証や伝送における圧縮の問題などについては、今後更に検討する必要がある。また、機器の標準化の点でまだ問題は残っている。
特に、内視鏡の分野では、一方で、デジタル出力できる内視鏡(従来のものはアナログをデジタル化している)も開発が進んでおり、近い将来のデジタル化を見据えた対応が必要である。しかし、一方では、従来のファイバースコープが電子化されてきた経緯から、基準がファイバー時代のアナログ内視鏡にあり、NTSCモニター診断が基本である点など放射線機器と違った側面もある。また、現在はフィルム代は請求できるものの、電子保存を前提とするならばフイルムがなくなる可能性もあり、伝送画像をモニター診断した場合の診断料や遠隔診断に固有に必要な費用の扱いをどうするかなどの問題もある。
また、超音波画像に関しても、新たにデジタル出力(DICOM)できる超音波診断機器が開発されており、従来のアナログNTSC画像しか出せない機器に比べ、画質や画像再現性が向上し、画像伝送・遠隔診断において、より適しているようになった。このような機器を利用した場合には、その利点が保険診療等の費用面でも評価されるべきと考える。
以上の点を考えると、内視鏡や超音波画像などの非X線画像の伝送やファイリングに特化したまとまった調査、研究を行う必要があると思われる。
B 患者像の伝送を含む医療機関の間のコンサルテーション
1)内科診療
内科診療のコンサルテーションを遠隔医療で行うことについては医師法上の問題はないと考えられる。従って、問題点は、Aの検査結果と同様に、「様々な条件下でどこまで診療に取り入れることが可能かについて医学界にこれまでコンセンサスがないこと」、及び「保険診療等の費用面についてのルールがないこと」である。
日本では、医療上の有用性について医学界のコンセンサスを得る努力はこれまでに行われていないが、かかるシステムを経験した研究者の意見は、通常のカラーテレビを用いた電話機能があればいかなる内科的疾患にも医学的に有用であるとする点で一致している。
その前提として、カラーディスプレイを用いて、NTSCによる動画像を、即時性にしかも音声による討議が可能であることが最低条件である。但し、皮膚科の診療の場合などには、静止画でも診断可能という事例もあるから、皮膚科診療では動画条件を除くことも可能である。
この際にカラーCRT域の色の保証、伝送帯域との関係で1秒間に送られる動画のコマ数の保証を最低条件の中にもりこむか否かについては特に条件とせず、利用する医師の選択と責任に任せるのが適当である。また、技術的には心音など音の伝送を付加することも可能で、これを最低条件に含める必要はないであろう。
これらの条件下にどのような所までコンサルテーションに応じるかは、それに携わる医師が決めるべき問題であり、一般論として規定すべきではない。
保険診療等の費用面では、このように専門医がコンサルテーションを行うことは医療の質を保証する点で望ましいことを考慮し、いわゆるセカンドオピニオンとしてコンサルテーションの水準が一定の質を確保しているという条件で、今後保険診療の中に位置づけるべきものと考える。その際の考え方は、このような診療形態は、総合病院において他の診療科に受診した場合と同様に考えられるべきであるからである。
2)皮膚科診療
内科で述べたことがほぼそのままあてはめてもよいものと思われる。
3)眼科医療
その有用性は既に証明されている。問題点は内科の場合と同様と考えられる。
4)精神科医療
外国においては応用例があるが、我が国においてはまだ試みられた例はない。今後の研究を待つ。
(参考)医師法第20条
医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証明書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。但し、診察中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。
1)内科診療
医師法上の問題については上記を参照されたい。
医療上の適用条件については、テレビ電話システムを実験的に用いて遠隔医療を行った研究者の間では条件を限れば医療上有効であったことが報告されている。テレビ電話システムを用いて診察した場合、得られる所見がどの程度実際と異なっているかについては、研究は意外に少ないが、浮腫などの所見を得ることが困難な場合もあることが指摘されている(文献)。しかし、これも用いる機器の性能と関連しているため、一般的に条件を述べることは非常に難しい。
従って、医療上の条件としては、「慢性疾患で長期間続けて同じ医師が診療している安定期にある患者」とするべきであろう。このような患者に対しては、精神的な支援も重要で、かかるシステムはそのためにも貢献する。また在宅で酸素療法を行う患者や人工呼吸器を使用する患者の管理などもこの領域に属すると考えられる。
システムとしては、医療コンサルテーションの時に用いたものと同じで、カラーディスプレイ、NTSCによる動画、即時性、音声による討議の可能であることが最低条件である。
この際にカメラーCRT系の色の保証、伝送帯域との関係で1秒間に送られる動画のコマ数の保証をどうするかなども、コンサルテーションの場合と同様に研究班において、今後の技術進歩も踏まえながら検討すべき課題である。
現時点において、在宅医療を支援するための遠隔医療に使用する機器についての条件としては、遠隔医療に使用する機器はそれぞれ固有の性能と品質を持っていること及び使用経過により品質・性能の劣化が起こることを使用者は十分理解して使用するという前提で、機器の選択と運用については使用者の判断に委ねるべきであるとして、品質や性能あるいは規格について特定の条件は設けないこととしたこと。また、患者のバイタルサインを取得するなど医療機器としての性格が求められる場合には医療機器が使用されなければならないことがあげられる。
保険診療等の費用面については、現行の電話再診を前提に考えるべきであるが、電話再診と比べて映像を含む患者情報が伝送されることから、電話再診より多くの情報が得られることが評価されるべきである。
2)皮膚科診療
医師法上の問題は上記(7ー2)を参照されたい。
医学的な適用については、内科とほぼ同様であるが、特に褥創の治療のような場合にテレビカメラに写った患部を見ながら指示を与えると大変有効であると報告されている。
保険診療等の費用面ついても、内科と同様に考えることでよいと思われる。
3)リハビリテーション指導
医師法上の問題は上記(7ー2)を参照されたい。
医学的な適用については、既に対面診療によって指導を行った回復期にある慢性患者の指導に有効であると報告されている(文献)。技術的に内科や皮膚科とやや異なるのは、動きを伴う指導であるために、動画のコマ数が少ないと動画としての機能を果たさない可能性がある。この点テレビ電話の性能が重要な問題となり、画質を考慮したうえで、機器の条件については内科診療と基本的には同様であるが、リハビリテーション指導の特性から、15フレーム/秒以上の動画、即時性、音声による討議の可能なことを最低条件とする必要があろう。
保険診療等の費用面は、対面指導の合間に遠隔指導を行うべきであるので、例えば少なくとも1月に1回は対面による指導を行うことなどを条件にして、保険診療として遠隔指導を取り入れることが検討されてもよいと考える。
4)介護指導
医師法上の問題はない。
寝たきり老人の精神的介護や、状況の定期的監視などに有効であることが報告されている。今後、福祉の上で遠隔映像伝送機器が利用されていく可能性は大きい。医療機関、介護センターや訪問看護ステーションなどの三点を結ぶ連絡に有用であろう。患者のプライバシー保護との関係が一つの課題であろう。
保険医療等の費用面では介護保険との間で関連がでてくるものと思われるが、今後の課題である。
5)妊産婦の自宅管理
医師法上は上記(7ー2)を参照されたい。
医療上の適用可能性については、外国で多く研究されているが、日本ではまだ実施例は少ない。しかし、外国の経験からはその有効性は大きく、密接な管理、患者の来院のための負担の軽減に役だっている。技術的には、単にテレビ電話だけでは意味がなく、血圧、尿たんぱく測定、胎児心音の聴診、などが遠隔地からできることが理想であり、今後研究が必要である。
保険診療等の費用面は、正常分娩は保険適用外であるが、技術が進歩し、患者の了承が得られれば、普及可能な分野と考えられる。
1)テレビコンファレンスシステムの標準化の現状
テレビカンファレンスシステム(テレビ会議システム)の標準化は、プロトコール(通信手順)レベル、機能レベル、ヒューマンインターフェースレベルの3つの段階のそれぞれについて考慮する必要がある。これまでに標準化が進んでいるのは主として、プロトコールレベルであり、ITU−T(国際電気通信連合、電気通信標準化部門)がデジタルテレビ電話・会議システムに関して勧告及び規格を示している。各国のシステムはこの基準を基に作られており、通信手順レベルの標準化は保証されていると言って良い。さらに、わが国では郵政省の外郭団体であるHATSがconformance testとして、異なる企業のシステム同士を実際に接続して、相互接続性を保証している。ITUの勧告が基本標準(basic standard)を提示しているのに対して、HATSは実装標準(functional standard)を保証していると言える。また、HATSは国内の機関であるが、米国大手のピクチャーテルなど、世界の主要企業は、接続試験に参加しており、世界レベルで接続が保証されていると言って良い。
2)遠隔医療へテレビカンファレンスシステムを応用する際の問題点
プロトコールレベルの標準化はこのように行政と産業界を中心にして進められているが、機能レベル、さらにヒューマンインターフェースレベルの標準化はそれに比べて、必ずしも十分とは言えない。ここでは、医学にテレビカンファレンスシステムを応用する際に特に機能レベル、ヒューマンインターフェースレベルで重要と考えられるポインタ機能、マーカー機能、静止画の画質の3点について現状を分析してみることにする。
ITUの勧告では画面上の1点を示すポインティングと画面上に印を付けるマーキングについての標準が記載されている(T.120勧告)。この勧告では、座標系は画素数になっており、画素数を送り手側が宣言して送る方式でなので任意の画素数のものが扱える。したがって、基本的にはハイビジョン画像(1920画素×1035画素程度の画像)でも扱える。ただし、市販されているテレビカンファレンスシステムでは勧告に準拠したものは実装されてないのが現状である。
次に、静止画の画質については、プロトコールレベルではデータの送受信という形で規定されているのみであり、そのデータを画面上に表示する部分はヒューマンインターフェースレベルであって、ITU勧告では規定されていない。医用画像の参照、診断の面で、高精細画像(High Definition)の必要性が論議されているが、この点についても、(財)医療情報システム開発センター(MEDIS)などで標準化すべき項目としては取り上げられる可能性があるが、今後の問題である。
3)遠隔医療における今後の対応
このように、機能レベル、ヒューマンインターフェースレベルでは産業界における標準化は十分ではない。利用者の使い勝手に関わる部分は各企業がその特徴を出す点でもあり、産業界主導でこの部分を標準化することは困難である。一方、遠隔医療への応用という点から考えると、基本的なテレビカンファレンスシステムの仕様のみでは不十分であり、遠隔医療に特化した種々の機能が必要であり、それらの大部分は機能レベル、ヒューマンインターフェースレベルに関するものである。したがって、遠隔医療に必要な機能、仕組みの標準化は、それを利用する側から必要な要件を提示し、産業界と共同で仕様を固めて行く作業が是非必要である。