1.働きかけの2つの側面
発達障害に対する総合的な治療には、2つの側面がある。1つ
は、障害をもつ子ども自身に関わる働きかけの側面であり、治療
教育と薬物療法がある。もう1つは、まわりの受け入れ、理解、
設備、さまざまな環境の要因をよくする側面である。この2つは
相補い合っており、医師、教育者、心理専門家などのチームワー
クあるいは諸機関の統合のなかで最良の治療効果が期待される。
2.治療教育とその3つの次元(表1)
治療教育とは、教育的な手段を使って、精神機能の障害や行動
の異常を改善するように働きかけたり、精神発達や適応行動を促
進したりする方法であり、教育学、心理学などの分野とは重なり
あいを持ちつつも、精神医学の分野に位置づけられる治療法であ
る。
自閉症の治療教育には次のような3つの次元がある。
(1)自閉症の基本障害の克服と代償である。基盤にある脳機能障
害の克服と代償にも焦点があてられる。年齢が低いほどこの次元
の働きかけは重要である。
(2)個々の適応の領域の発達を促すことである。年長になるにつ
れ、家庭、社会、職業に直接役立つ技能を教えることが重要とな
る。
(3)行動の異常を減弱させたり、予防することである。異常行動
だけを矯正する治療教育は通常好ましくない。異常行動への対処
の基本は、発達を促す働きかけや適応行動を増やすことにより減
少させることである。
3.Stage評価と認知発達治療
認知発達治療は、認知の発達を促してその障害の改善と克服を
する働きかけを主軸に置き、そのことにより、行動や情意の発達
を促してその障害を改善したり、克服したりすることをねらいと
する治療教育の1つである。認知発達治療は、シンボル表象機能
の発達段階評価である"太田のStage評価"に基づいている。
4.薬物療法
自閉症に対する薬物療法は、対症療法的であり、治療教育を効
率的に行なったり、家庭や社会での適応を良くするために用いら
れる。薬物の適切な使用により、相当程度の効果が期待できる。
その際には、親、教師など自閉症児に関わる人に、服薬の目的と
副作用の知識とその対策を伝えておくことが大切である。おおよ
そ次の3つの目的で使用される。
(1)脳機能障害の改善を目的とする薬物
脳機能の全般あるいは想定された特定の病理の改善を目的にす
るものである。このカテゴリーの薬物はすべて研究途上にある。
脳機能の全般の改善を目的とするものとしては、抗痴呆薬あるい
は向知性薬、ビタミンB群がある。
(2)非特異的な情緒障害や異常行動の改善を目的とする薬物
興奮、不穏、不眠、こだわり行動、多動、自傷、パニックなど
が標的症状となる。これらには抗ドーパミン作用の強い強力安定
剤(ハロペリドール、ピモジドなど)が有効である。強力安定剤の
子どもでの使用の仕方は、一般に少量より開始し、標的症状の消
失あるいは緩和するまで徐々に増量していく。その際に、錐体外
路性症状(体がつっぱたり異常な動きをしたりする)や過鎮静など
の副作用に注意する必要がある。錐体外路性症状の予防として、
抗パ−キンソン剤が使われることがある。
なお、自閉症に伴う多動症状に対しては、中枢刺激剤は通常は
使わない方がよい。
(3)合併しやすい精神医学的状態の改善を目的とする薬物
てんかん発作があれば、抗けいれん剤の使用は必須であり、一
般のてんかんの場合に準ずる。発作が無く、てんかん性脳波異常
の所見だけで一律に抗けいれん剤を使用することは必ずしも妥当
ではない。
トゥレット症候群、"神経症様"状態、周期性気分変動も薬物療
法の対象となる。
5.親への働きかけ
親への働きかけの基本は、支持的援助的な方向である。また、
自閉症児が多くの時間を過ごす家庭生活への治療教育の般化が必
要である。家庭内での自閉症児特有の問題行動への助言、援助も
大切である。親は、程度の差はあれ不安抑うつ状態を示すことが
あり、ときに親の精神科的治療が必要なこともある。
おわりに
自閉症の診断と本態及び治療と教育について概略した。
治療を発展させ、その有効性を検討するにあたり、次の3つの
留意点があると思われる。第1には、現在までに得られた知見、
諸研究の成果と矛盾しないかどうかを、本質的な障害との関連で
考察することである。第2には、より豊かな人間性をつくるとい
う観点からも治療は検討されねばならない。第3には、治療の効
果が妥当な方向で評価されなければいけないだろう。