ジョイントセミナー
「Medlineの使い方とEBMレビュー」レポート ver.2


JANCOC代表
津谷 喜一郎

 1998年6月19、20日と大阪と東京で上記セミナーが開催された。本レポートはプログラム、背景と関連する日本の動きを紹介する。

1.プログラム

 大阪地区東京地区
主催TIP/JIP/ユサコJANCOC/ユサコ
日時1998年6月19日(金)1998年6月20日(土)
会場千里ライフサイエンスセンターNew Otani Inn(大崎)
参加者40名82名

<プログラム内容> (講師:大阪/東京)
  1)コクラン共同計画とは?(浜 六郎/別府 宏圀)
  2)コクランライブラリーの使い方(柳 元和/吉村 学+名郷 直樹)
  3)Ovid MedlineとOvid Fulltextの使い方(角田 亮子)
  4)Ovid Evidence-Based Medicine Reviews紹介(Kimberley A.Scott)
  5)Q&A

2. 背景

 JANCOCはこれまで、TIPやJIP、また愛知県臨床疫学研究会などと共催して、ワークショップやセミナーなどを開催してきた。今回初めて、民間の企業との共催という形になった。そこで、その背景を紹介しておこう。

 コクラン共同計画(The Cochrane Collaboration:以下CC)は情報技術(Information Technology)を活用することをその特徴の一つとする。CCのアウトカムであるCochrane Library(以下CL)は当初はフロッピーディスクで、ついでCD-ROMがその配布の中心となり、昨年1997年11月の時点で世界で3,000セット以上が使われているとされた。ただ、そのユーザーは英国、カナダ、オーストラリアが多く、米国に少ないことが指摘されていた。
 1996年よりCLと同じような情報をインターネットを使って有料でサービスする会社が、CC関係者が独立するなどして、設立されたが、ユーザーは世界で10人以下と少ないのが実情であった。
 これはインターネット版がおそらくは使いづらいものとの予想に基づくものと思われる。すなわち、多くのコクラン関係者はCLのCD-ROMを用いて、Cochrane Database of Systematic Review(CDSR)のメタアナリシスのグラフのソフトMetaviewなどを使い慣れている。しかし各種ホームページを検索してインターネットのスピードをある程度知ると、このCLのインターネット版はCD-ROM版ほどには速く、快適に使えることは、インターネット版ではまずないだろうということが予想されるのである。
 今回のセミナーの共催者である、ユサコが日本の代理店をつとめる米国のOvid社は、本年1998年7月からEBMR(Evidence Based Medicine Review)のサービスを始める。これはCDSRとBest EvidenceのCD-ROMに入っている"Evidence Based Medicine"と"ACP Journal Club"の2つの雑誌と同じ情報がインターネット上で見られるものである。
 こうしたサービスを行う契機としては、すでに昨年1997年よりMedlineはPubMedなどの形で、インターネット上で無料で見られるようになったこともあり、Ovid社を含めてのMedlineのvender各社は、そのサービスする有料のMedlineに付加価値をつける必要が出てきたことがある。Ovid社はすでに、論文のfull textのリンクというセールスポイントがあるが、それ以外に、世界的なevidence-based medicine(EBM)の流れにのる、CDSRやBest Evidenceとのリンクを計画したことがある。
 今日そのデモが行われたが、確かに、EBMRとMedlineやfull textとのリンクには大きな意味がある。
 聞くところによれば、Ovid社はClinical Information Project(CIP)として、こうした領域の情報サービスに力を入れる方針で、医師で情報学の専門家を副社長にすえ、世界的な展開を計画しているそうである。また今回、EBMRのデモを行ったMs.Kimberly A.Scottは日本語で解説を行った。彼女は以前大阪に留学していたことがあるとの由。これからも、世界的なビジネスにも日本語のできる外国人をどしどし使ってもらいたいものである。
 1998年7月号にはまだMetaviewに相当するメタアナリシスのグラフ機能は入っていないが、EBMRは3ヶ月に1度更新され、つぎの10月号からは収載されるということでどんなものが使えるか期待したい。
 企業と組むことによって、懸念されるのは、それによって届けられる情報にバイアスが入ることであるが、CCでいうreview、update、distributeのうち、前半はその独立性を非常に注意深く行い、各レビューのスポンサーなどを公開することを原則としている。これまでのdistributeは、CD-ROM版と、いわば零細企業の情報サービス会社であった。しかし、今回、世界的にすでに各方面の情報サービスを提供しているOvid社のルートを通じても提供されることとなったわけである。これによってdistributionのサービスの質は上がると考えられる。またレビューにバイアスが入ることは基本的には考えられない。
 現在、日本医学部(80校)や厚生省の国立病院・診療所(250ヶ所)の多くは、すでにOvidのMedlineを使っており、これにEBMRを付加契約すれば手近に使えることとなる。

3. CDSRの日本語化

 コクラン共同計画のアウトカムは高い価値を持つものだが、日本語になっていないことが、日本人にとって様々な局面において、その利用にあったってのバリアーとなっている。そこで、CDSRのアブストラクトの日本語訳の作業が、平成9年度厚生科学研究「希少疾患・難治疾患に対する医薬品適応外使用のエビデンス」と関連して進んでいる。この日本語訳は本年1998年7月12日からJANCOCのホームページ(http://www.cph.mri.tmd.ac.jp./JANCOC.)にupされている。これに関係して、先のEBMRとのリンクのシステムも開発する計画であり、日本人にとってより使いやすいシステムを普及させていく予定である。 一方、日本語の抄録集を、手軽に頁をめくって読みたい、また、手にとってじっくり読みたいというユーザーも予想される。そこで、CDSRの日本語のアブストラクトを『コクラン・レビュー抄録集』として、製本して市販((株)ユサコの予定)する計画も進行している。そのプロトタイプを手にとって見ると、今まで気がつかなかったレビューに気がついたり、また、内容の理解もはるかに進むことが多い。まず冊子体の日本語のアブストラクトから入って、さらに詳しく知りたいという時には、Cochrane LibraryyやEBMRを用いるというのが、日本人にとっては利用しやすい形態かもしれない。本は本年9月末発行予定である。個人としても、また医局、研究室、薬局図書室などに一冊置かれることをおすすめする。