目的:成人および小児における重篤で合併症がある熱帯熱マラリアの治療におけるアルテミシニン薬の効果と安全性を要約すること.検索方法:コクラン比較臨床試験レジスター,MEDLINE,EMBASE,BIRD Science Citation Index,LILACS,African Index Medicus,学会抄録,この分野における組織や研究者,製薬会社,既存の総説中の引用文献や適当と考えられた研究.
選択基準:重篤で合併症のある熱帯熱マラリアに罹患した小児や成人で,アルテミシニン薬(経直腸的投与,筋肉注射,静脈注射)と標準的な治療を比較しているランダム化試験または偽ランダム化試験.またはアルテミシニン薬どうしでの比較.安全性のデータのために,副作用を報告している研究がすべて選ばれた.
データ収集と解析:選ばれた試験はデータベースに登録された.登録基準は二人のレビュアーによって別々に適用された.登録すると特定される前の観察事実は最初のレビュアーによって要約され,別のレビュアーにより独立に判定された.
比較:アルテミシニン薬単独またはアルテミシニン薬と他の抗マラリア薬との併用と,標準的治療との比較.全てのアルテミシニン薬とそれ以外の薬剤との比較.
有効性に関して検討された指標:死亡,神経学的後遺症,昏睡からの回復時間,運動機能の反応,寄生虫や発熱の消失までの時間.胃腸,中枢神経系,循環器,局所,皮膚,血液などに対する副作用に関する事実.
主な結果:アルテミシニン薬で治療した1,265名とキニーネで治療した1,183名では,アルテミシニン薬を使った群が生存率が良好であった(OR 0.68 95%CI 0.55~0.84, NNT 19 95%CI 13~44). しかし,登録時に適切な割付けの隠蔽が行われた試験のみを解析した場合は,有意差はわずかであった(OR 0.77 95%CI 0.61~0.98).1,784名の脳マラリア患者において,死亡率はアルテミシニン薬を用いた群が全体では低かったが(OR 0.70 95%CI 0.55~0.90 ),しかし,適切なランダム割付けがなされた研究におけるキニーネの有効性と,有意差はなかった.神経学的後遺症において有意な違いは証明されなかった.アルテミシニン薬はキニーネより速く血液中から寄生虫を除去する.
報告の内容は試験間で異なるが,キニーネとアルテミシニン薬での副作用は同様である.
比較研究の数が少なく,小規模で,内容が均一ではないので,どのアルテミシニン薬誘導体が他の薬剤よりすぐれているかという証拠は,このレビューからは得られない.
結論:重篤なマラリアに対するアルテミシニン薬に関する重要な臨床的な課題が同意をもって解明されるには,試験間の調整や調査者間の協力が絶対必要である.情報に基づいて決定をするためにはすぺての情報が利用可能であることが必要である.
重篤なマラリアでの死亡率を十分に減少させる適切な治療法を確立する必要性が、現在なお存在している.
Citation: McIntosh HM, Olliaro P. Artemisinin derivatives in the treatment of severe malaria. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.
(日本語翻訳:福井直仁/今道英秋)