慢性認知障害患者の精神錯乱の治療における多職種チーム介入――その有効性の根拠に関するレビュー

Multidisciplinary team interventions in the management of delirium in patients with chronic cognitive impairment - a review of the evidence of effectiveness

Britton A, Russell R

最終更新日:19/02/1998


目的:このレビューは,慢性認知障害をもつ患者に生じた精神錯乱に対する多職種様チーム介入の効果を,これまで老年認知障害患者に行ってきた通常の介護と比較し,その有効性を入手しうるエビデンスの中から見極めることを目的とする.

検索方法:コクラン比較試験登録(コクラン・ライブラリー,1998年1版を含む現在までのもの)をdelirium(精神錯乱),controlled trial(比較試験),cognitive(認知の)の用語を用いて検索した.MEDLINE,EMBASE,Psychlit(Ovid via Winspirs 1998年2月まで)の検索もまた同じ用語でおこなった.

個人的情報,現在進行中の試験,学会抄録集,ハンドサーチ,発表された論文や単行書の引用文献等を含む他の情報源もすべて,ランダム化比較試験に関連のあるものはすべて検索した.

全部で157件が検索され,うち8件がレビューに考慮されるべく残った.

選択基準:最初の検索で,老年で精神錯乱患者の治療に関係するランダム化比較試験をすべて取り出した.一人のレビュアーが出版物のタイトルや要約から不適切なものを排除した.関連があるかもしれない論文は,さらに追加検討を行うため取り込んだ.すべての文献はリストとして集積し,記事のタイプによって,たとえばレビューだとか,プロスペクテイブな試験だとかの注釈をつけた.

そして,精神錯乱患者に関するランダム化比較試験全部をレビューすることを承諾している第2のレビュアーが,第一のレビュアーとは独立して,このリストを検討した.次に,慢性認知障害ないし痴呆症の患者で,たまたま精神錯乱をきたした結果,通常介護または多職種共同介護のいずれかにランダムに割付けが行われた場合を基準に,これに該当する可能性のある臨床試験を選び出した.

関心のもたれるアウトカムとしては,入院期間,罹患状態(合併症を含む),患者の苦痛および介護環境へのインパクト,死亡,退院準備,6カ月目の認知機能評価を含めたフォローアップなどだった.

慢性認知障害ないし痴呆患者が,たまたま起こした精神錯乱(ICD 9基準による;註a)のために治療を受けたような症例の研究が適切であり,リスク・ファクターの研究や非ランダム化試験は除外した.

註a:この分類は,過去20年間,英語圏の医学文献では広く用いられてきた.ICD 10はまだ臨床分類に組み込まれつつある段階であり,1996年に発表された研究では利用されていない.

このレビューでは,多職種によるチーム介護と通常介護との比較試験であることを採択の条件とした.すなわち,基本的には,入院時における精神状態を評価し,ランダム化割付けによって患者の精神状態の総合的モニタリング(=検査や薬物療法等を含む定期的な医療の見直し,管理されたタイムテーブル等に基づく看護介入,同じ看護スタッフによる頻回の訪問,見慣れた対象物,時間や出来事に関するオリエンテーション,ADL訓練,家族カウンセリング等を伴う介護)を行う群と,通常介護(=内科的/外科的管理および合併症が診断された時にはその治療も含む)を行う群とを比較した試験である.

データ収集と解析:このレビューに採択する可能性のあるランダム化比較試験は8件みつかった.しかし,そのどれもがさまざまな理由から採択基準を満足しておらず,それらの理由は,除外した研究の一覧表に記した.したがって,クロス集計分析や合成のためのデータ抽出は行わなかった.

主な結果:あらかじめ認知障害がある患者に焦点を絞った研究はなかった.このため,こうした患者群の精神錯乱の治療については評価できなかった.精神錯乱の治療に関する文献的情報は非常に少ない.しかし,高齢者の精神錯乱の頻度,リスク,予後に関してはかなりの情報が集積しつつある.

結論:エビデンスに基づいたガイドライン勧告を作成する以前の問題として,精神錯乱の治療の研究は,もっと明確に定義された方法で行う必要がある.診断や治療に関して,エビデンスに基づいたガイドラインを作るには,不十分なデータしかない.基礎病態生理学や疫学から予防や治療まで,研究の視野は全ての分野で広がっている.もっと最近の研究では,精神錯乱の問題に焦点を当てた研究も行われているが,そうして得られたエビデンスも実際の治療プログラムに利用するにはまだ困難が伴う.の有効なエビデンスを得ることは難しい.認知障害のある患者や虚弱な老年者など精神錯乱発現のリスクが高いことが分かっている特定グループにターゲットを絞った研究を行う必要がある.Inouye(10)によって明瞭に指摘されたように,精神錯乱は経済や健康政策上とも関連しており,老年者介護のあらゆる側面に影響する臨床的問題である.

精神錯乱は,入院している老年患者にとっては日常的な問題であるにもかかわらず,未だに経験的な治療が行われており,現時点では慣行を変えるような結論的エビデンスのある文献はない.


Citation: Britton A, Russell R. Multidisciplinary team interventions in the management of delirium in patients with chronic cognitive impairment - a review of the evidence of effectiveness. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:福田泰代/別府宏圀)