急性虚血性脳卒中における血栓溶解療法とコントロールとの比較

Thrombolytic therapy versus control in acute ischaemic stroke

Wardlaw JM, Yamaguchi T, del Zoppo G

最終更新日:12/08/1996


目的:急性虚血性脳卒中における血栓溶解療法の有効性と安全性を判定する.

検索方法:コクラン脳卒中レビューグループの検索方法に加えてEMBASE,MEDLINEの検索,日本の雑誌4種類についてハンドサーチを行い,血栓溶解療法試験の主要な研究者に連絡を取り,第2回,3回,4回の急性虚血性脳卒中における血栓溶解療法の国際シンポジウムと共同研究者の会議に出席した.

選択基準:明らかな虚血性脳卒中の患者に対して発症から14日以内に開始され,血栓溶解剤をコントロールと比較した全ての完成され交絡のない真のランダム化,準ランダム化試験.血栓溶解と抗血栓薬の相互作用を実証するために,虚血性脳卒中の発症から6時間以内にストレプトキナーゼ,アスピリン,その両方を投与するか,どちらも投与しない1つのランダム化比較試験(MAST-I)のデータも含まれている.

データ収集と解析:以下のアウトカムについて評価を行った.試験の経過観察期間終了時の死亡と脳卒中後の支援・介護の必要性,計画された治療中と経過観察期間の全死亡,症候性脳内出血,脳内出血による死亡,発症から3時間以内に割付けられた患者について,経過観察期間中の死亡,致死率.

主な結果:これまでに,3435名の患者を含む12の試験が選ばれレビューされた.血栓溶解療法で,初めの2週間(オッズ比1.99, 95%信頼区間1.56~2.53)とその後の経過観察期間(オッズ比1.36, 95%信頼区間1.14~1.62)の死亡が多かった.この点において各試験間には不均一性があった.初めの2週間に症候性脳内出血が多く(オッズ比3.62, 95%信頼区間2.73~4.80),死亡の多い主な原因となった.死亡の多さは,抗凝固剤の併用とも関連している.1つの試験(Multicentre Acute Stroke Trial-Italy)では,要因をランダム化したデザインで血栓溶解剤とアスピリンの試験を行ったが,血栓溶解剤とアスピリンの併用に割付けられた患者のみ,死亡が多かった.その他の試験の死亡率のばらつきは,アスピリンやヘパリンの使用におけるばらつきによるのかもしれないが,これらはランダム化が行われていない.死亡が多いにもかかわらず,経過観察期間終了時の死亡や脳卒中後の支援・介護の必要性といった複合したアウトカムにおいて,血栓溶解療法が望ましい傾向にあった(オッズ比0.75, 95%信頼区間0.63~0.88).

結論:経過観察中に死亡,または障害を残した患者は少数であるが,血栓溶解剤によっておそらく死亡が多く起こる.さらなるランダム化比較試験が行われない限り,今のところ急性虚血性脳卒中の治療に血栓溶解剤の使用を勧める十分なエビデンスがない.考えられる有用性という点では,薬物量や治療の時間帯,神経細胞保護剤や抗凝固剤の併用,どのような脳卒中患者が特に危険で,どのような患者が血栓溶解療法でより有用性がえられるのかを詳しく調べるために,さらなる試験が必要とされる.


Citation: Wardlaw JM, Yamaguchi T, del Zoppo G. Thrombolytic therapy versus control in acute ischaemic stroke. In: The Cochrane Library, Issue 1, 1999, Oxford: Update Software.


(日本語翻訳:秋山香乃/関口聡子,八森 淳)