■がん転移Q&A - 回答
Q9 転移したがんの治療法にはどんなものがありますか?転移先により変わりますか?

A 山上裕機
(和歌山医大第二外科・教授)
 転移したがんの治療法は、もともとのがん(原発巣)の種類やその転移先によって大きく変わります。転移がんといっても手術で切除する場合や、抗がん剤を用いた化学療法などの全身的な治療を選択する場合もあります。 
 わが国における主ながんである消化器のがんを例にとって、転移先別にその治療法を解説します。

胃がん: 胃がんの転移の仕方には大きく分けて4つあります。肝転移、腹膜播種、リンパ節転移、その他の遠隔転移(肺転移、骨転移、脳転移など)です。胃がんでは、肝転移はすでに全身病と考えられており、全身化学療法や肝動注療法(肝臓に選択的に抗がん剤を投与する方法)が選択されることが多く、治療法は定まっていません。胃がん肝転移に対する肝切除は施設により適応や成績も異なり評価は定まっていません。われわれは単発の肝転移においてのみ肝切除を行っています。腹膜播腫は特徴的な胃がん再発形式であり腹水を伴います。残念ながら根治は困難であり、全身化学療法や腹腔内への抗がん剤投与などが行われます。その他の転移に関しても化学療法が主に行われます。いずれにしても胃がんはその生物学的悪性度の高さから転移した場合の根治治療は困難ですが、近年の抗がん剤のシンポにより、良い生活の質(QOL)を維持しながら生存期間が延長するようになりました。

大腸がん: 大腸がんの転移形式は肝転移、肺転移が大多数を占めます。大腸がんは他のがんとは異なり、早期に転移が見つかれば、転移巣の切除により、根治も期待できます。とくに肝転移については、外科切除により生存期間が延長することが知られています。また大腸がんによく効く抗がん剤が開発され、手術と抗がん剤の組み合わせで再発大腸がんでも切除例では5年生存率は30%近くになり、切除できない場合でも生存期間が長くなってきました。さらに、分子標的治療薬といって、がん細胞に特徴的な性格を利用した新しい薬が治療に使われるようになりました。

膵がん: 膵がんは、数多あるがんの中でも最も治療が難しいがんです。転移が発見されると長期生存が難しいと考えられます。膵がんの転移形式は肝転移、局所再発、リンパ節転移、腹膜播種の順で多く、いずれの場合も化学療法を中心に治療を行います。肝転移や腹膜播種があれば、原発巣の切除は行いません。化学療法としてジェムシタビン(ジェムザール)やTS-1を使用します。

食道がん: 食道がんの転移には、遠隔転移(肝、肺、骨)、局所再発とリンパ節転移が挙げられます。再発治療は化学療法を中心に行いますが局所再発や胸腔内のリンパ節転移に対しては放射線療法を行う場合もあります。頸部のリンパ節転移に対しては再切除を行うこともあります。