■がん転移Q&A - 回答
Q8 転移したがんは治りにくいと聞きますがどうしてですか?

A 土岐祐一郎
(阪大消化器外科・教授)
 癌の治療は局所治療と全身治療に大きく分けられます。癌が発生したところ(原発巣)とその近傍の少数の転移であれば、手術や放射線などの局所治療が有効ですが、全身に転移した癌には抗がん剤による全身治療しか方法がありません。手術や放射線などの局所治療で癌が消滅することはよくありますが、現在のところ、抗がん剤による全身治療では一時的に癌が縮小することはありますが、完全に癌が死滅することはなかなかありません。最終的には抗がん剤が効かなくなって全身の転移が大きくなって死に至るということになります。つまり、全身に転移している癌が治りにくいのは、有効な局所治療ができなくなるためです。従って、現在のところ癌を治す最も確実な方法は、癌を早期に発見して確実な局所治療を行うということでしょう。
 興味深いことに、抗がん剤治療では、大きな固形の癌を死滅させることは難しいのですが、小さな癌の固まりや一個ずつばらばらになった癌細胞を死滅させることは比較的容易であるという傾向が見られます。このため、細胞がばらばらに存在する血液の癌はしばしば抗がん剤のみで完治したり、卵巣癌などの抗がん剤の効きやすいがんでは、大きな癌だけ手術で切除して小さな癌は抗がん剤で治療するという方法がとられたりします。また、手術の前後に抗がん剤を使用した方が手術後の再発が少ないという報告が最近多くみられますが、これは抗がん剤が目に見えない癌の転移(微小転移という)を消滅させているためだと考えられています。
 しかし、抗がん剤は正常の組織にも障害を与えてしまうので、投与量を増やすことができないという問題があります。一方、転移は癌にしかみられない現象なので、将来、副作用の殆どない転移のみをブロックする抗がん剤が開発されるのではないかと期待されています。そのような転移阻害剤ができれば、原発巣は手術で転移は転移阻害剤でという夢のような治療ができるのではと期待されています。