■がん転移Q&A - 回答
Q5 転移しやすいがんとそうでないがんがあるのですか?

A 中森 正二
(国立病院機構 大阪医療センター 統括診療部・部長)
 がんのがんである必要な条件の一つは転移することとされています。したがって、どんながんでも転移します。あるいは、転移する能力を持っています。がんの手術をして治ったというのは、がんが転移する前の状態でがんが見つかり、手術ですべてのがんを取り去ることができたから治ったということにすぎません。
 そうは言っても、がん細胞を使った実験では、確かに、転移しやすいがん細胞とまったく転移しないがん細胞があります。したがって、その動物実験の結果からすると、転移しやすいがんとそうでないがんがあるといえます。
 いっぽう、実際のがんを見た場合、大腸がんを例にとってみると、大腸のがん(原発巣といいます)が10cmくらいの大きながんになっていても全く転移が見られない場合や、1cmくらいの小さな原発巣でも既に肺や肝臓など様々な場所に転移していることもあります。結局、実際の医療の場では、転移しやすいかそうでないというのは、がんが見つかった時の結果として見ているわけです。したがって、大腸がんだから転移しにくいとか、膵がんだから転移しやすいとかということは、一概には言えません。膵がんで転移が多く見つかるのは、既に転移ができてしまったような進行した状態でしかがんが見つからないからともいえます。
 そのような考え方で、「転移しやすいがん」とそうでないがんがあるのかというと、膵がんや一部の肺がん(小細胞肺癌)のような進行癌の状態で見つかることが多いがんは、「転移しやすいがん」で、早期の状態でみつかりやすいがんは、「転移しにくいがん」ということになります。
 また、これとは考え方をして、原発巣の大きさや進み方(がんの臓器の奧へ進入していく深さ)から転移しやすいかそうでないかを考えた場合、小さながんでもリンパ節や肺や肝臓などに転移していることが見つかることが多いがんを「転移しやすいがん」とすれば、例外はありますが、肺がん、前立腺がん、膵がん、胆道がん、乳がんなどがあげられるかもしれません。これとは反対に10cmもの大きさになっても転移が見つからないことが多いがんを「転移しにくいがん」とすれば、例外は多いですが、乳がんの一部(葉状肉腫)や肝細胞癌といえるかもしれません。