研究分野


研究内容

  1. せん妄または急性混乱・錯乱状態の看護に関する研究

o   アセスメント・スケールの検討(予防・予測型,重症度測定型,診断型)

o   発症の類型パターン・段階別の看護支援(予防・対処)の探索

o   アセスメント・ケアのプロトコールの開発

o   看護師の予測・アセスメント,ケアの学習支援

  1. 認知機能障害(認知症,せん妄,脳卒中など)をもつ高齢者の看護に関する研究

  2. がん・循環器病をもつ高齢者の看護に関する研究

o   上部消化管がん術後患者のもつ症状・徴候とケア

o   呼吸機能障害

所属学会・団体等

 


せん妄の研究について

 集中治療や大手術,末期がんなどに伴い,せん妄(または急性混乱・錯乱状態)という一過性の認知機能障害が患者さんに出ることがよくあります。意識覚醒や見当識のレベル低下や,幻覚・妄想が見られることもあります。落ち着かない,ベッド柵を乗り越える,点滴を抜くなどの危険な行動をしたり,引きこもってボーっとしていることもあります。これらは不穏とかICU症候群などとも呼ばれてきました。

 せん妄が発生することで,患者さんの回復が遅くなり,入院期間が延び,医療費が上昇する原因にもなります。あるいは,もともと身体的な耐久力などが低下しているために,合併症が起き,回復が遅れ,それに伴うようにせん妄も発生するという説明もなりたちます。せん妄が身体機能や認知機能の低下を示唆する「バイタルサイン」のようだ,という考え方もあります。

 患者さんが別人のようになってしまったと,家族の方々は大変心配するでしょう。本人の方は,恐ろしい夢を見ていたと覚えている人もいますし,全く覚えていない人(自己防衛機制で「否定」「忘却」する場合も),うすら覚えている人,などいろいろです。また覚えていても,その話題に触れられたくない人もいます。また,転倒や肺炎・尿路感染などの原因となることも,またこれらの結果としてせん妄となることもあります。まずは原因となる疾患や症状を的確に押さえ,出来るだけ早期に治療することが重要です。重症とか高齢の患者さんには,生理・心理・環境的な面の変動をできるだけおさえるケアも必要です。発症の危険を予測して予防を試みることや,発生前や初期のわずかな症状の変化を敏感に察知し,適切な対処を早期に行うこと,そして継続的で体系的な観察と全身管理が重要です。[野末聖香他,せん妄患者対応マニュアル,ナーシング・トゥディ1311,1999;太田喜久子他,せん妄ケアモデル,看護技術, 4411, 1998 参照]

  そのためには,せん妄のアセスメントが大変重要になってきますが,症状が一過性で変動が激しいので,アセスメントや治療が一貫していなかったり不十分なまま終わってしまうこともあります。例えば,入院や手術後の数日はしっかりしていたのにその後突然おかしくなったり,昼間は大丈夫なのに夜だけ様子が変になったり,ということもあります。大抵は全身状態の回復とともに症状がおさまりますが,中には長引いたり再発したりする患者さんもいます。また,痴呆の上に重なってせん妄が出ることもあります。

  せん妄のアセスメントは,面接や質問で認知機能を直接測るタイプと,行動観察を通して認知機能を間接的に測定するタイプがありますが,それらを併用したり使い分けたりして総合的に判断する必要があります。また,せん妄は数時間で症状が変化することもあるので,勤務帯の中で通常のケアを通して頻繁に観察する必要があります。 せん妄の重症度を測るには,日本語版せん妄評価スケール(DRS[同 看護技術 参照]が役立つと思います。また,通常の看護ケアを通して観察できるような,患者さんのわずかな変化を捉えて予防や早期発見に役立てることができるようなタイプとして,筆者らが翻訳した日本語版ニーチャム混乱・錯乱スケール [臨床看護研究の進歩,12巻,2001 参照] が役立つと思います。修士論文に取り組む看護婦さんや,集中治療室の看護士さんなどから連絡を頂き,使って頂いております。今後臨床の看護婦・士さんたちに幅広く使って頂き,改良を重ねたいと思います。

  博士課程では,心拍動下冠動脈バイパス術後のせん妄と長期的な影響について研究し,現在分析を深めています。今後の研究の方向としましては,同じせん妄という現象について,多角的で系統的なアプローチが必要と思います。そのためには,疾患や術式だけでなく,急性期からリハビリ・地域ケアまで,また小児から高齢者までの幅広い研究が必要です。さらに患者さんの視点から見たせん妄の体験[藤崎郁,同 看護技術 参照]や,家族や医療従事者も対象に含めた研究が必要と考えています。そして同じ研究を目指す多職種の医療従事者のネットワークや情報交換,共同研究などを日々進めて参りたい所存です。



2013-11-05改訂;Copyright 2000-2013, Watabou
注:このページの内容は和多忙個人の見解です。