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大会長講演
  最近のヒト腸内細菌による代謝研究
   

服部征雄
  富山医科薬科大学 和漢薬研究所
   
   和漢薬は一般的には経口投与される。したがってこれらに含まれる成分は消化管内に常在する無数の嫌気性菌と遭遇し、一部は代謝される。特に極性の高い化合物は胃、十二指腸でも吸収されずに消化管下部まで輸送され、嫌気性菌に特有な種々の変換反応を受けた後、吸収される。この変換反応により新たな生理活性が付与されたり、増強される場合に薬物の代謝活性化と呼んでいる。
  亜麻子(Linum usitatissimum Lの成熟種子)にはsecoisolarisiresinol diglucoside (SDG)が多量に含まれるが、このリグナンは消化管内でエンテロジオール、エンテロラクトン(哺乳動物リグナンとも呼ばれたことがある)に変換される。この代謝物は顕著な女性ホルモン様作用を有し、疫学的研究からこの代謝物の血中濃度、尿中排泄両の多い女性には乳癌のリスクが少ないとされている。同じように、種々な構造のリグナンも最終的にはエンテロジオール、エンテロラクトンに代謝されるが、これら代謝物は女性ホルモン様作用を示すと同時に、エストラジオールとは拮抗的に作用することも明らかとなった。このことは、リグナン摂取量が多い場合に乳癌発症リクスが低い理由を説明できる。
  また、大黄やセンナに含まれるセンノシド以外の種々のアントラキノン化合物も腸内細菌により、瀉下作用を有するアンスロンに変換されることから、これまで考えられた以上に腸内細菌による瀉下成分への代謝活性化が行われていることが判明した。    
  腸内嫌気性菌による反応で特に興味があるのは、C-配糖体の開裂である。マンギフェリン、アロイン、アロエシン、各種フラボンC-配糖体は容易にアグリコンに還元的に開裂する。これらはこれまでに報告の無い反応例であり、新しい酵素の存在を示唆するものである。
  ヒト腸内細菌の研究は、和漢薬の薬効発現のメカニズムの解明に重要であるばかりでなく、腸内細菌フローラの個人差が和漢薬の薬効の個人差と深く結びついていることを想定させる。

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