フィブリノゲン製剤
【適応】
先天性低フィブリノゲン血症の出血傾向
産科危機的出血に伴う後天性低フィブリノゲン血症による出血傾向の改善(産科学会前例調査対象)
産科危機的出血以外の後天性フィブリノゲン低下症に対する適応はありません
また心臓血管外科手術にに伴う後天性低フィブリノゲン血症による出血傾向の改善も現時点では適応はありません

【先天性無フィブリノゲン血症・先天性低フィブリノゲン血症】
先天的にフィブリノゲンが欠損低下している先天性フィブリノゲン低下症は、フィブリノゲンが欠損している「無フィブリノゲン血症」(正確には完全欠損=「無」ではなく、検出感度以下であることが多い)と、ある程度のフィブリノゲンが検出される「低フィブリノゲン血症」とに大別されます。無フィブリノゲン血症の場合は、出生直後から出血傾向(例えば臍帯出血など)を呈します。一方、低フィブリノゲン血症症例ではフィブリノゲン値に応じた出血傾向を呈しますが、50mg/dL程度あれば日常生活で困る出血傾向は呈しません。
フィブリノゲン欠損症は希少疾患疾患でもあり、患者数に応じてフィブリノゲン製剤は生産されています。このため適応外使用などによって需要が増加した場合、供給量不足に陥ることになります(原料血漿はあっても製造ラインは急には増設できません)。この様な事態になると本来必要な人(無フィブリノゲン血症の患者さんなど)へ製剤が届かなくなることもあり得ます(事実その様な事態に陥ったことがあります)。もしフィブリノゲン製剤を適応外で使用するならば、この様な社会的影響についても十分考慮の上行わなければなりません。

【フィブリノゲン製剤禍】
産後出血の治療のためフィブリノゲン製剤を使用した産婦において、C型肝炎を合併した例が多数発生しました。非加熱製剤を使用していた頃でありましたが、同時期、米国ではフィブリノゲン製剤使用の効果が認められないとの報告がありました。血漿分画製剤生成の標準的方法であるコーン法で分離精製すると、フィブリノゲンは最初のフラクションに落ちてきますので、ウイルスなどの混入が起こりややすい宿命を持っています。このため米国では同時期にフィブリノゲン製剤の適応が外されました。
2000年代に入り、フィブリノゲン製剤によるC型肝炎感染は大きな社会問題となりました。血友病治療におけるHIV感染と同じく、国内で発生した重大な薬害の一つです(厚生労働省 フィブリノゲン製剤によるC型肝炎ウイルス感染に関する調査報告書 (平成14年8月29日)→報告書へ)。
現在ではウイルスの不活化が施行されているため、同様の事案が発生する可能性は低いものの、適応症例を十分に考慮しない治療は患者さんの大きな不利益になり得るものであるで、特に血液製剤や血漿分画製剤などの使用にはリスクベネフィットを十分に考慮すべき事実を示す例と思われます。

【フィブリノゲン製剤の有効性】
先天性欠損症・低下症に対する有効性は認められていますが、後天的なフィブリノゲン低下症に対する有効性について、特に大量出血などの止血困難時の有効性については十分な検討が行われていません。これは大量出血という病態の特性から前向き検討を行うことが困難であることが要因です。
フィブリノゲン製剤の有効性について前向き検討された国際研究(本邦の国立循環器病センターなども参加)として、心臓血管外科手術における検討が行われています(Randomized evaluation of fibrinogen vs placebo in complex cardiovascular surgery (REPLACE): a double-blind phase III study of haemostatic therapy. Br J Anaesth 117; 41-51, 2016.→文献へ)。この結果ではフィブリノゲン製剤の有効性は認められず、治験を行った製薬会社は適応がないと判断し、申請を行わなかった様です。
フィブリノゲン補充(濃縮製剤やクリオ製剤)の有効性についてはまだ議論が分かれるところです(→参考文献)。