抗リン脂質抗体症候群
【抗リン脂質抗体とは】
言葉をそのまま解釈すると、リン脂質に対する抗体と思われますが、リン脂質に対する抗体のみならず、リン脂質に結合した蛋白質に対する抗体も抗リン脂質抗体に含まれます。自己免疫性疾患の一つで


【抗リン脂質抗体症候群】


抗リン脂質抗体症候群診断基準
臨床所見
1. 血栓症
画像診断、ドップラー検査または病理学的に確認されたもので,血管炎による閉塞を除く
2. 妊娠合併症
a. 妊娠 10 週以降で、他に原因のない正常形態胎児の死亡、または
b. 妊娠高血圧症,子癇または胎盤機能不全による妊娠 34 週以前の形態学的異常のない胎児の 1 回以上の早産、または
c. 形態学的,内分泌学的および染色体異常のない習慣流産
検査基準
1. 標準化されたELISA法によるIgGまたはIgM型抗カルジオリピン抗体(中等度以上の力価または健常人の99%-tile以上)
2. IgGまたはIgM型抗β2-グリコプロテインI抗体陽性(健常人の 99%-tile以上)
3. 国際血栓止血学会のループスアンチコアグラントガイドラインに沿った測定法で,ループスアンチコアグラントが陽性
臨床所見の1項目以上が存在し,かつ検査項目のうち1項目以上が12週の間隔をあけて2回以上証明されるとき抗リン脂質 抗体症候群と分類する.
Miyakis S, et al. International consensus statement on an update of the classification criteria for efinite antiphospholipid syndrome (APS). J Thromb Haemost 4: 295-306, 2006.

梅毒関連検査
検査の方法 結果の解釈
STS 法 TP 抗原法
陰性 陰性 梅毒に感染していない(非梅毒)
梅毒感染の極初期(極めて稀)
陰性 陽性 TP 抗原法での偽陽性
(反応系に起因する偽陽性、その他のトレポネーマ感染、
 ハンセン氏病、 異好抗体、伝染性単核症など)
陽性 陰性 梅毒感染の初期
生物学的偽陽性(BFP)
陽性 陽性 梅毒非治癒(早期から晩期)
梅毒治癒後の抗体保有

【病態】
抗リン脂質抗体症が血栓症などの凝固異常を呈する機構は十分には解明されているわけではありません。抗体によって血管内皮細胞や単球などの細胞が活性化され血栓症そのほかの病態を惹起するものと類推されています。抗体で惹起される広義の炎症性疾患(血栓性の病態を炎症と呼んで良いか議論は分かれるところではありますが)ですので、膠原病及びその関連疾患と病態形成機構の本質は似ています。膠原病などに合併するのもある意味、納得できる病態です。

【治療】
抗体が病態形成の中心をなす、自己免疫性疾患ですが、ステロイドをはじめとする免疫抑制療法は、抗体力価が低下する場合はありますが、必ずしも効果を発揮しません。このため抗血栓療法が中心となります。
深部静脈血栓症などの凝固系の異常が臨床的に問題となっている場合には、急性期にはヘパリン、慢性期にはワルファリンを中心とした抗凝固療法が施行されています。一部のDOACはワルファリンとの比較が行われ、ワルファリンの優位が認められましたが、まだ最終的な結論は出ていないと思われます(実臨床ではDOACもしばしば使用されています)。一方、動脈系の血栓症が臨床的に問題となる場合はバイアスピリンなどの抗血小板薬が使用されます。ただし、動脈系・静脈系と割り切ることは困難な場合も多く、臨床症症状の改善に応じて両薬剤を併用する場合もあります。特に血小板減少や腎機能低下などの場合は使用したのちの効果に応じて治療を継続する場合もしばしばあります。
一方で、抗体陽性症例の全ての症例を治療する臨床症状を呈するものではありません。このため抗体陽性症例の全てに対して治療介入するのは過剰診療とも考えられます。現時点では治療介入するべき症例とそうでない症例の鑑別は困難ですが、抗体陽性症例は、術後などの深部静脈血栓症の予防などは抗リン脂質抗体症候群に準じた予防(抗凝固療法までは別として、少なくとも注意深い観察や検査、水分管理、早期離床など)を行うべきと考えます。