先天性無アルブミン血症
【先天性無アルブミン血症とは】
先天的にアルブミン値が極めて低値となる遺伝生疾患があり、無アルブミン血症と呼ばれています。正確にはアルブミンが完全欠損しているわけではなく、0.1mg/dL以下(測定感度以下)の値を示すものですので、正確には「先天性アルブミン低下症」と呼ぶべきものですが、伝統的に「先天性無アルブミン血症」と呼ばれています。

【遺伝形式】
常染色体劣性遺伝性疾患ですが、極めてまれな遺伝性疾患です。本邦では1例(筆者が知る限りでは)の報告があります(臨床血液;11(3), 397-402, 1970.)。

【臨床症状】
本邦からの報告症例は自衛官(1970年の論文ですので個人情報の概念が低い頃です)で、軽度の低血圧はあるものの浮腫や胸水・腹水は認められていません。両親は血族婚(いとこ同士)で、両親および兄弟には低アルブミン血症は認められていません。尿タンパクや腸管漏出などの所見は認められていません。臨床検査上、測定感度以下のアルブミン値であるものの、そのほかの蛋白の増加は認められていません。ネフローゼ症候群と同様に。総コレステロールの上昇が認められています(この初見は海外の報告でも同様で共通する所見の様です)。

【薬物動態に対する影響】
ラットでも無アルブミン血症(analbuminemia)のモデルがあります。このラットは佐々木研究所の長瀬スミ先生がSprague-Dawley rat (SD ラット)の中に認められた自然発症無アルブミンラット(遺伝子組み換え等ではありません)から系として樹立されたもので、NAR (Nagase analbuminemia rat)と呼ばれています。このラットでも浮腫や胸水・腹水は認められません。フロセミドに対する反応性は低下していますが、血清アルブミン値を上昇させない少量のアルブミンと混和後に投与すると利尿が認められます(Mechanism of Furosemide Resistance in Analbuminemic Rats and Hypoalbuminemic Patients. Kidney Int. 32(2): 198-203, 1987.→文献へ)。しかし同量のアルブミンを投与したのちにフロセミドを投与しても利尿は得られません。これはアルブミンの薬物輸送系に対する効果であり、膠質浸透圧に対する効果ではないと考えられています。
この様な先天性無アルブミン血症の症状を考えると、アルブミンの膠質浸透圧に対する効果は実際のところどの程度重要であるか考え直す必要があり、またアルブミン投与の必要性についても考え直すべきなのかもしれません。