メトヘモグロビン
【メトヘモグロビンとは】
メトヘモグロビン(MetHb)は、ヘモグロビンの2価の鉄イオン(Fe2+)が酸化され3価の鉄イオン(Fe3+)に変化した異常ヘモグロビンの一つです。その結果、ヘムへの酸素結合が低下し、ヘモグロビンとしての運搬能力が失われた状態となります。
メトヘモグロビンは正常のヒトにも存在していますが、還元酵素の働きによって2価鉄に還元され、基準範囲は 0.04−2 %程度のごく低い濃度に保たれています。


【メトヘモグロビン血症とは】
メトヘモグロビン濃度が上昇している病態で、遺伝性と後天性に区別されます。遺伝性としてはNADHシトクロム還元酵素欠損や一部の異常ヘモグロビン症で認められます。後天性は薬剤などにより起こりアミン類、ニトロ化合物、亜硝酸エステル類、あるいはサルファ剤などが原因物質として挙げられます。また硝酸性窒素によっても起きる場合もあります。

【臨床症状】
メトヘモグロビン濃度が15%程度までは特に症状はありません。しかし15‐20%以上に増加するとチアノーゼを生じ、40%以上では頭痛、めまい、呼吸困難、意識障害などの症状が出現します。70%以上で生命予後に関係します。

【検査所見】
経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)が低値であるのにたいして、動脈血酸素飽和度(SaO2)が正常範囲であるという乖離現象が認められます。また動脈血ガスデータに表示されるMetHb濃度が高い値を示します。

【治療】
急性薬物中毒においては、メチレンブルーの静脈内投与や経口投与が有効です。メチレンブルーは3価の鉄を2価の鉄に還元する作用があります。しかしグルコース-6-リン酸脱水素酵素欠損症(G6PD欠損症)と判明している患者やNADPH還元酵素欠損症と判明している患者では増悪及び溶血を起こす可能性があるため禁忌となっています。また薬剤でも塩素酸塩によるメトヘモグロビン血症患者では毒性の強い次亜塩素酸塩が形成される可能性があり、シアン化合物中毒の解毒剤として投与した亜硝酸化合物によるメトヘモグロビン血症患者ではシアンによる毒性が生じやすくなるため禁忌です。