先天性凝固第XIII因子欠損症
【凝固第XIII因子】
凝固活性化の結果生成したフィブリンは互いに重合し、フィブリンポリマーを形成します。しかしこのフィブリンは分子間力で重合しているだけですので、外力によって容易に離れてしまいます。この様なフィブリンを不安定フィブリンと呼びます。凝固第XIII因子はこの不安定フィブリンのDドメイン間を架橋結合させるトランスグルタミナーゼと呼ばれる酵素です。凝固第XIII因子が作用すると、D-ドメイン間の結合が形成され、不安定フィブリンは安定化フィブリンへと変化します。さらにAα鎖を介した安定化フィブリン同士も重合し、止血血栓に必要なフィブリン網の形成に至ります。
凝固XIII因子は分子量約85,000 DaのAサブユニットと分子量約75,000 DaのBサブユニットがそれぞれ2個づつ非共有結合したテトラマー(A2B2)の形で血液中では存在しています。また血小板、子宮、胎盤、肺、前立腺などの組織中ではAサブユニットのみのダイマー(A2)として存在しています。酵素活性を持つのはAサブユニットで、BサブユニットはAサブユニットの安定化因子・キャリアたんぱくとして作用しています。
フィブリン-フィブリン間の架橋のみならず、凝固第XIII因子はフィブリンとα2-プラスミンインヒビターやフォンビルブランド因子などの凝固関連因子との架橋にも作用してます。また組織由来のコラーゲンやアクチン、ミオシン、フィブロネクチンなど血管外組織とフィブリンとの架橋も行います。フィブリンに取り込まれた α2-プラスミンインヒビターはプラスミンによるフィブリンの早期分解を防いで止血血栓を安定化すします。またフィブロネクチンなどは線維芽細胞の遊走と増殖の環境を提供することで創傷治癒の促進に関与していると考えられています。
なお凝固第XIII因子/FXIIIを凝固第VIII因子/FVIIIと混同しやすいという理由だけで凝固第13因子/FX13などと表示する人がいますが、明らかに誤りですので、この様な表示は行わないでください。


【先天性凝固第XIII因子欠損症とは】
先天的に凝固第XIII因子が欠損・低下している遺伝性疾患です。Aサブユニットの欠損症の場合はBサブユニットの抗原量は正常ですが、Bサブユニットの欠損症の場合は、Aサブユニットの半減期が短縮するため、AサブユニットもBサブユニットもともに低下します。Aサブユニット欠損症の場合にはAサブユニット製剤は有効ですが、Bサブユニット欠損症の場合はAサブユニットのみ補充しても半減期が短いため効果は限定的です


【遺伝形式】
常染色体劣性遺伝形式です。臨床的に出血傾向を呈するのは、ホモの異常症です。ヘテロの方は、出血傾向を呈することはありません


【臨床症状】
止血後再出血
不安定フィブリン形成までは影響ないため、止血は惹起されますが、形成したフィブリンの安定性が低下しているため、一旦止血した後の再出血を特徴とします。

臍帯出血
臍帯脱落部位の遅延性の再出血は特徴的で、80%を越える症例で認められるとの報告があります。

頭蓋内出血
些細な打撲などの外傷後にみられることが多く、硬膜下出血、くも膜下出血、脳内出血など全てのタイプの頭蓋内出血が認められます。

その他の出血傾向
皮下出血も比較的多く認められる出血症状です。また抜歯後の再出血なども認められます。一方、関節内出血や筋肉内出血など血友病で比較的多く認められる深部出血は比較的少ないと言われています。

創傷治癒遅延
創傷治癒には30%程度と比較的高いXIII因子活性が必要とされています。術後などでも消費性にXIII因子は低下しますが、先天性欠損症の場合にはさらに低下するため、適切な治療介入がない場合は創傷治癒の遅延を起こしやすいと考えられています


【臨床検査】
PTおよびAPTT
ともに正常です。凝固時間は不安定フィブリン形成までしか反映しませんので凝固第XIII因子の低下は反映されません。このため、術前検査では異常が認められず、術後止血困難に陥る例もあります。

凝固第XIII因子活性おおび抗原量
凝固第XIII因子活性および抗原量は低下します。鑑別疾患として挙げられる凝固第XIII因子インヒビターの場合は、抗体特性として活性を阻害するものの場合は、活性と抗原量の乖離が認められる場合があります。


【鑑別疾患】
後天性凝固第XIII因子インヒビター
凝固第XIII因子に対する自己抗体が出現する病態です。後天性凝固因子インヒビターの中でも稀な疾患です(後天性凝固因子インヒビター自体が稀な疾患ですが)。因子活性の低下を認めますが、正常血漿との混和で因子活性の回復が認められません。また活性と抗原量の乖離が認められる場合があります。

Schönlein-Henoch紫斑病
凝固第XIII因子活性および抗原量は低下します。特徴的な紫斑が出現します


【治療】
濃縮因子製剤
フィブロガミン
血漿分画製剤でAサブユニットもBサブユニットも含んでいます。適応として@先天性及び後天性血液凝固第XIII因子欠乏による出血傾向、A血液凝固第XIII因子低下に伴う縫合不全及び瘻孔、BIgA血管炎における腹部症状、関節症状の改善、となっています(IgA血管炎とはいわゆる「ヘノッホ-シェーンライン紫斑病」です)。

ノボサーティーン
ヒト血液凝固第XIII因子Aサブユニットのダイマーからなる遺伝子組み換えAサブユニット製剤です。このため適応が「先天性血液凝固第XIII因子Aサブユニット欠乏患者における出血傾向の抑制」となっており、Bサブユニット欠損症には適応がありません。Bサブユニット欠損症に投与しても半減期が短く、十分な効果が期待できません。フィブロガミンの使用を行います。なお薬価的にはかなり高額です(2020年8月段階で、ノボサーティーン静注用2500;3716010円/瓶に対してフィブロガミン;8324円/瓶です)。

熊本大学病院ではどちらの薬剤も緊急購入薬剤となっており、フィブロガミンが購入実績のある緊急購入薬剤、ノボサーティーンは購入実績のない緊急購入薬剤としての申請が必要です。

クリオプレシピテート
分子量が比較的大きな分子ですので、凝固第XIII因子はクリオプレシピテート分画に含まれています。クリオプレシピテートの効果が期待できる数少ない病態の一つですが、上記二つの濃縮因子製剤がより有効に治療できると考えられ、特にフィブロガミンは薬価的にもクリオ製剤より安価です。

新鮮凍結血漿
上記薬剤が使用できない場合には考慮されます。


【Schönlein-Henoch紫斑病】
IgAによる免疫複合体の沈着が小動脈に惹起され、その結果補体の活性化や血管透過性の亢進によって起こる血管生紫斑病です。近年IgA血管炎と呼ばれる様になってきています。凝固第XIII因子活性が低下していることがあり、腹部症状などとの関連が示唆されています。