研究内容
研究内容
河崎洋志
河﨑洋志
金沢大学
医学系
東京大学大学院医学系研究科
研究の方向性
当教室では、脳機能の中枢である大脳皮質および視覚系と体性感覚系(触覚系)という二つの感覚神経系を用いて、脳神経系の形成機構の分子メカニズムおよびその異常が引き起こす疾患病態の解析を進めています。そのために、マウスに加えてフェレット(イタチの一種)も導入していることが特徴です。
脳神経系を研究する際の究極の目標は、ヒトの脳の理解だと考えています。しかし、分子生物学的研究によく用いられているマウスでは、ヒトに比べて脳がシンプルで、ヒトに存在する様々な機能モジュールがマウスでは欠失しています。そこで当研究室ではマウスよりも複雑な脳を持つフェレットを採用し、発達した脳神経系の理解に迫っています。フェレットを用いた分子レベルからの解析は、当教室独自のアプローチです。
また、マウス、フェレット、サルといった代表的な哺乳動物の脳を分子レベルから比較することにより、脳の進化にも示唆を与えるような研究を目指しています。
主な研究プロジェクト
1)視覚神経系の形成メカニズムとその異常
哺乳類の網膜から大脳皮質一次視覚野へいたる視覚系神経回路をモデル系として神経回路形成メカニズムの研究を進めています。特にマウスとフェレットとを組み合わせて、網膜から一次視覚野への投射の形成メカニズムを集中的に解析しています(Journal of Neuroscience 2004, Neuroscience 2009, PLoS One 2010)。最近、高等哺乳動物に特徴的なP細胞に選択的に発現する遺伝子を初めて同定しました(Cerebral Cortex 2013)。
2)体性感覚系(触覚系)の形成メカニズム
マウスを用いて体性感覚系の形成過程、神経可塑性、臨界期制御の分子メカニズムを追求しています。体性感覚野と視覚野とでは、同じ一次感覚野であるにもかかわらず臨界期の終了を制御するメカニズムが異なることを見出しました(Mol Cell Neurosci 2008)。また最近、体性感覚系神経回路の形成において母体からの新生仔の出生が重要な役割を担っていることを見出しました(Developmental Cell 2013)。
3)大脳皮質局所回路の解析と回路異常の引き起こす病態解析
大脳皮質には、pyramidal neuronやstellate neuron, inhibitory neuronなどが整然とした神経回路を形成しています。この回路形成メカニズムの解析および回路形成異常が引き起こす病態解明も進めています(Journal of Neuroscience 2010 , Neuroscience 2012)。
4)神経回路解析の技術開発
脳神経系の一つの特徴は、さまざまな個性を持つ神経細胞群が集まっていることです。多様な神経細胞集団である脳神経系の神経回路を解析するための技術開発も行っています。高等哺乳動物へ子宮内電気穿孔法を応用し、フェレットの脳神経系への遺伝子導入に成功しています(Molecular Brain 2012, Biology Open 2013)。またマウスの脳において少数のまばらな細胞をラベルする手法も確立しました(Mol Cell Neurosci 2011)。
指導方針
研究を通じた教育も重視しています。
最先端の分子生物学・神経生物学的技術などの習得をサポートしています。神経科学の最新知識、論理的思考法、豊かな発想など、研究に必須な能力の習得を目指します。
さらに臨床医学や企業などの基礎研究以外の実社会全般でも必須となる文章力、プレゼン技術、説明力のスキルアップを指導します。
→研究内容が [科学技術振興機構ニュース] で紹介されています