胆汁酸に応答する核内受容体の研究

槇島 誠

日本大学医学部生体機能医学系生化学分野 教授



1.はじめに - 胆汁酸受容体の発見

 1999年、私達の研究グループは、オーファン核内受容体farnesoid X receptor(FXR)が胆汁酸の受容体であることを報告した(1)。私も、研究室のPrincipal InvestigatorであるDavid J. Mangelsdorfも胆汁酸の研究者ではなかった。オーファン核内受容体のリガンド探しという「宝探し」をしていたところ、胆汁酸が「宝」であることを見つけたのである。核内受容体のリガンドとして機能する胆汁酸の研究に至った経緯及びその後の展開について紹介したい。



2.白血病細胞分化誘導の研究(1990〜1998年: 埼玉県立がんセンター)

 私は、1987年に防衛医科大学校を卒業し、2年間の初期臨床研修を修了した後、出身地である埼玉県の陸上自衛隊大宮駐屯地に医官として勤務した。私は、サブスペシャリティとして血液内科に興味があったため、週2回の部外研修制度を利用して、骨髄移植を早くから実施していた埼玉県立がんセンターへ通うことにした。その埼玉県立がんセンターの研究所において、白血病の分化誘導療法の先駆的な基礎研究が行われていることに興味を持ち、穂積本男博士・本間良夫博士のもとで研究を開始した。


 穂積らは、マウス骨髄性白血病M1細胞が環境依存性に分化することに着目し、白血病細胞の分化に影響を与える液性因子の研究を行っていた。ビタミンAであるレチノイン酸が、ヒト骨髄性白血病細胞HL-60を分化させることを見出し(2)、また活性型ビタミンD3がM1細胞のマウス移植白血病において治療効果があることを報告した(3)。またM1細胞の分化を誘導するサイトカインを単離し、D-factorとして報告した(4)。オーストラリアのMetcalfらは、穂積らから供与された研究サンプルを用いて、D-factorの遺伝子配列を決定し、leukemia-inhibitory factor(LIF)として報告した(5)。1989年に、本間・穂積らは、チロシンキナーゼ阻害剤Herbimycin Aが、異常チロシンキナーゼBCR-ABL融合遺伝子産物を有する慢性骨髄性白血病急性転化由来細胞株を分化誘導することを報告し、この研究成果はがん分子標的療法の先駆けとなった(6)。


 私は、Herbimycin Aによる分子標的分化誘導に大変感銘を受け、本間博士の指導のもとに、チロシンキナーゼ阻害剤による骨髄性白血病細胞の分化に関する研究を開始した(7)。白血病を含めて悪性細胞において、BCR-ABL以外の様々なリン酸化酵素の遺伝子異常や異常活性化が報告されており、それらの活性制御が分化(治療)に結びつくのではと考えたのである。その後、1993年に陸上自衛隊から埼玉県立がんセンターに隣接する埼玉県立精神保健総合センターに内科医として転職し、臨床の傍ら研究を継続し、チロシンキナーゼ以外のリン酸化酵素の阻害剤へ研究の対象を広げた。そして1995年にミオシン軽鎖キナーゼ阻害剤の単球性白血病細胞の分化に対する効果の研究で、自治医科大学から博士(医学)を取得した(8)。


 当時、全トランス型レチノイン酸の急性前骨髄性白血病に対する治療効果が報告され(9)、さらにその白血病で特徴的な染色体15;17転座によりレチノイン酸受容体α(RARα)とPML遺伝子との融合遺伝子PML-RARαが形成され、白血病の病態と関連することが明らかになった(10, 11)。私は、PML-RARαを有さない白血病細胞もレチノイン酸により分化誘導が可能なこと、レチノイン酸と同様に核内受容体ビタミンD受容体(VDR)に作用する活性型ビタミンD3にも分化を誘導する活性があることに興味を持ち、レチノイン酸やビタミンDの誘 導体の白血病細胞分化誘導の研究を行った(12-14)。



3.白血病の分化誘導から核内受容体の研究へ

 RARαやVDRは、ステロイドホルモンの受容体と同様に核内受容体スーパーファミリーに属するリガンド依存性転写因子である(15)。ヒトにおいて48種類の核内受容体が存在し、大きく① ステロイドホルモン受容体、② ホモ二量体型オーファン受容体、③ retinoid X receptor(RXR)ヘテロ二量体型受容体、④ 単量体型及びその他の受容体の4種類に分類できる。RARαやVDRは、RXRヘテロ二量体型受容体である。甲状腺ホルモン受容体(TR)、オーファン受容体として単離されたFXR、liver X receptor(LXR)、peroxisome proliferator-activated receptor(PPAR)などもRXRヘテロ二量体型受容体である。RXRはホモ二量体も形成し、全トランス型及び9-cis型レチノイン酸によって活性化される。RAR及びRXRには、それぞれα、β、γのアイソフォームがあるので、レチノイン酸の受容体は6種類存在する。RXRヘテロ二量体におけるRXRリガンド応答性には特徴があり、LXR-RXR、FXR-RXR、PPAR-RXRなどのヘテロ二量体は、RXRリガンドによっても、RXRパートナー受容体のリガンドによっても活性化される(permissive)。RAR-RXRは、RARリガンドが存在する場合のみ、RXRリガンドの効果が発揮される(conditional)。TR-RXR やVDR-RXRにおいては、RXRリガンドの効果は見られない(non-permissive)。私は、レチノイン酸誘導体(RAR及びRXRリガンド)やビタミンD誘導体(VDRリガンド)の白血病細胞に対する効果の研究から、RXRヘテロ二量体の分子生物学を勉強したいと考え、1998年3月に米国テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンターのDavid J. Mangelsdorf研究室へHoward Hughes Medical InstituteのAssociateとして転職した。ここまでの過程で、私は胆汁酸研究には関わっていなかった。



4.オーファン核内受容体のリガンド探索(1998〜1999年: テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター)

 Mangelsdorf博士は、アリゾナ大学Haussler研究室での大学院生時代、VDRのクローニングに関与し(16)、活性型ビタミンD3によるヒト白血病HL-60細胞の分化の研究でPh.D.を取得している(17)。彼は、Salk研究所Evans研究室でのポスドク時代に、RXRのクローニングとRXRの天然リガンドとして9-cis型レチノイン酸の同定の研究成果を上げている(18, 19)。彼は、オーファン受容体の分子生物学をテーマにテキサス州ダラスにおいて研究室を立ち上げ、LXRαのクロ ーニング、LXRαの天然リガンドとして複数のオキシステロールの同定などを報告した(20, 21)。新進気鋭の分子生物学者Mangelsdorfも、この時点では、胆汁酸研究を行っていなかった。


 彼らは、コレステロール代謝の中間代謝産物であるオキシステロールがLXRαのリガンドであることを突き止めたが、オキシステロール受容体LXRαが生体内でどのような機能をしているかは、まだ解明できていなかった。そこで、LXRαノックアウトマウスを作成していた。私が彼の研究室に参加したのは、そのマウスの解析が一段落ついた時であった。LXRαノックアウトマウスは、普通に生まれ、一見どこにも異常は見られなかった。Mangelsdorfらが幸運だったのは、彼らの研究室の2つ上の階に、コレステロール代謝研究のノーベル賞受賞者Brown博士とGoldstein博士の研究室、彼らと近い関係のある胆汁酸代謝研究のRussell博士の研究室があったことである。コレステロールから胆汁酸が合成される過程の中間代謝産物であるオキシステロールにLXRαのリガンドとして機能するものがあることから、マウスへ高コレステロール食を与える実験を行い、LXRαがコレステロールの過剰状態に反応し、胆汁酸合成酵素CYP7A1の遺伝子発現誘導などを介して胆汁酸合成を刺激する因子であることを明らかにした(22)。マウスCyp7a1はLXRαの標的遺伝子であり、オキシステロールによって発現が誘導されるのである。LXRαを介する胆汁酸合成の正のフィードバック機構が解明された。


 私は、Mangelsdorf研究室に着任後、まずRXRの合成リガンドLG100268をマウスへ投与する実験に参加した。肝臓にはLXRαの他にLXRβも存在し、いずれもRXRとヘテロ二量体を形成し、オキシステロールに反応する。LXRαノックアウトマウスにおいて、LXRβの発現は維持されるが、高コレステロール食に対するCyp7a1の発現誘導は起こらない。そこで、強力な合成RXRリガンドを併用すれば、LXRαノックアウトマウスであっても、LXRβ-RXRヘテロ二量体を介するCyp7a1の発現誘導が見られるだろう、と仮説を立てた。しかし、実験結果は、野生型マウスにおいても、LXRαノックアウトマウスにおいても、RXRリガンドの投与は、肝臓Cyp7a1の発現を低下させる、という予想と正反対のものであった。過去の報告を調査した結果、胆汁酸にCyp7a1の発現を低下させる作用があることに着目した。そこで、RXRヘテロ二量体型の胆汁酸受容体を想定して、研究を進めた結果、オーファン核内受容体FXRが胆汁酸受容体であることを見出した(1)。FXRは、昆虫の幼弱ホルモンやfarnesoidなどに弱く活性化されると報告されたオーファン核内受容体である(23)。LXRαやLXRβと近いアミノ酸配列を有し、同じNR1Hサブファミリーに分類される。FXRはRXRとヘテロ二量体を形成し、この二量体はいずれのリガンドによっても活性化される(permissive)。FXRは、コール酸、ケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、リトコール酸、及びそれらのグリシンやタウリン抱合体、すべてによって活性化される(1, 24, 25)。FXRは、基本的にリガンド依存性転写誘導因子であり、小腸粘膜の細胞内胆汁酸結合タンパク質Ibabpの遺伝子発現を誘導する(1)。FXRは、胆汁酸依存性にCyp7a1のプロモーター活性を抑制するが、私達が報告した1999年の時点ではメカニズムは不明であった。FXR—胆汁酸の論文が公表された際に、埼玉県立がんセンターでの恩師、穂積本男博士に報告した。驚いたことに、穂積博士が東京教育大学理学部動物学教室(高槻俊一教授)に大学院生として在籍していた際に、ザリガニの胆汁酸等の研究に関わっていたとのことで、Haslewoodの文献を紹介して頂いた。



5.胆汁酸受容体による胆汁酸代謝調節(1998〜2000年: テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター)

 私は、胆汁酸がFXRのリガンドであることを同定した後、FXRによるCyp7a1発現抑制メカニズムの解明に力を注いだ。しかし、FXR によるCyp7a1プロモーターへの直接相互作用、LXRαとのRXRやコアクチベーターの奪い合い、LXRαやRXRとのFXR転写抑制コンプレックスの形成、などを想定した実験は、すべてネガティブであった。Mangelsdorf研究室の同僚のTimothy T. Lu(Tim)は、LXRα以外のCyp7a1転写誘導メカニズムを研究していた。彼は、副腎皮質でのステロイドホルモン合成と肝臓での胆汁酸合成の類似性に着目した。副腎皮質において、ステロイドホルモン合成に関与する複数の遺伝子は、SF-1というオーファン核内受容体によって正に制御される。SF-1 の標的遺伝子の一つにオーファン核内受容体DAX-1がある。DAX-1が誘導されると、SF-1と相互作用して、ステロイドホルモン合成に対して負のフィードバックをかける。肝臓において、SF-1やDAX-1の発現は微量であるが、それらと相同性の高いLRH-1とSHPというオーファン核内受容体が比較的高発現している。Timは、LRH-1がCyp7a1のプロモーター領域に結合する正の制御因子であること、SHPがLRH-1と結合し、LRH-1の活性を抑制することを見出した。私は、Timからその話を聞き、胆汁酸によって活性化したFXRがSHPを誘導すれば、FXRによるCyp7a1の発現抑制機構が説明できる、と気付き、Timとの共同研究によって、その仮説が正しいことを証明した(26)。コレステロールのインプットが過剰の場合、肝臓内オキシステロールの濃度が上昇する。LXRαがこれを感知して、LXRα-RXRヘテロ二量体はLRH-1と共同でCyp7a1の発現を誘導し、胆汁酸合成を刺激する。胆汁酸濃度が上昇するとFXRが活性化し、FXR-RXRヘテロ二量体は、Shp遺伝子の発現を誘導する。SHPは、LRH-1と結合してその活性を抑制することで、Cyp7a1の発現を抑制するのである。LRH-1はCyp7a1のみならず、Shp遺伝子の誘導因子である。SHPは、自らの発現に対しても負のフィードバックをかける。その後の研究で、LXRαはヒトCYP7A1のプロモーターには結合しないことが明らかになったが、LRH-1、FXR、SHPを介する制御機構はヒトにおいても保存されている。



6.第2、第3の胆汁酸受容体(2000〜2002年: テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター)

 私達は、オキシステロールや胆汁酸は、ステロイドホルモンのプロトタイプではないか、と考えた。なぜなら、これらのリガンド化合物はコレステロールの代謝産物であり、RXRヘテロ二量体型核内受容体は、ショウジョウバエにも見られるが、ステロイドホルモン受容体は、脊椎動物にしか見られないからである。そこで、LXRやFXR以外にもオキシステロールや胆汁酸の受容体があるかもしれないと想定し、2つのプロジェクトで実験を続けていた。一つ目のプロジェクトでは、リガンド化合物の候補として、臨床で使われているウルソデオキシコール酸に焦点をあてた。旭川医科大学の田中廣壽博士・牧野勲教授らが、グルココルチコイド受容体の活性を変化させることを報告していたが(27)、私達はオーファン核内受容体のリガンド探索の対象にしていた。二つ目のプロジェクトは、VDRの新規リガンド探索である。VDRは活性型ビタミンD3の受容体として同定されたものであるが、LXRやFXRとアミノ酸配列が類似している。活性型ビタミンD3は、カルシウム代謝の重要な調節因子だが、VDRはカルシウム代謝とは関係のない組織・細胞にも発現している。また、活性型ビタミンD3やその誘導体には、骨髄性白血病細胞の分化誘導など、カルシウム代謝とは関連しない活性がある。さらに、骨の存在しないヌタウナギなどの生物にもVDRは存在する。これらの知見から、活性型ビタミンD3以外の生理的VDRリガンドの存在を想定し、実験を続けていた。たまたま、ウルソデオキシコール酸のVDRに対する効果を調べる実験系において、余ったwellにケノデオキシコール酸、デオキシコール酸、そしてリトコール酸を加えた。結果は驚くべきことに、VDRがリトコール酸に反応したのである。実験結果があまりにも単純であった(簡単に他の研究室でも実験可能)ため、研究室内でも秘密裏に研究を進めた。内容を知っているのは、Mangelsdorfと信頼できる共同研究者の数人であった。最終的に、私達の実験結果の確証を得るため、Mangelsdorfの大学院時代の指導者、アリゾナ大学のHaussler博士、ポスドク時代の指導者、Salk研究所のEvans博士らの研究室と組んで、無事に報告することができた(28)。Evansらは、VDRと最も構造の近い核内受容体pregnane X receptor(PXR)の研究をしており、多くの生体異物に反応し、生体異物代謝酵素の発現を誘導するPXRが、デオキシコール酸やリトコール酸にも反応し、これら毒性の高い二次胆汁酸の解毒を誘導することを見出していた(29)。


 胆汁酸をリガンドとする核内受容体は少なくとも3種類存在する。一次胆汁酸や二次胆汁酸に反応するFXRは胆汁酸の合成と腸肝循環を制御し、二次胆汁酸に反応するPXRとVDRは生体異物代謝を誘導する、といった役割分担があるらしい(15)。



7.リトコール酸とその誘導体及びVDRと胆汁酸代謝の研究(2002-2004年: 大阪大学、2004年〜: 日本大学)

 2002年に、大阪大学大学院生命機能研究科・医学系研究科に准教授として赴任した。下村伊一郎教授は、メタボリックシンドローム研究で有名な松澤佑次教授(第二内科)のところから、ダラスのBrown & Goldstein研究室に留学しており、私より1年早く帰国していた。VDRが、カルシウム代謝調節因子である活性型ビタミンD3と二次胆汁酸であるリトコール酸といった生理的意義の全く異なる化合物に反応することに着目し、東京医科歯科大学生体材料研究所の山田幸子教授らとの共同研究により、活性型ビタミンD3とリトコール酸が異なる様式でVDRのリガンド結合ポケットに相互作用することを見出した(30)。その知見に基づき、よりVDR活性化作用の強いリトコール酸誘導体を探索し、リトコール酸よりも30倍強くVDRを活性化するリトコール酸アセテートを報告した(31)。リトコール酸は高濃度で細胞障害性があり、骨髄性白血病細胞を分化させることができないが、リトコール酸アセテートは分化を誘導できた。


 2004年に日本大学に医学部生化学の教授として赴任したのちも研究を続け、リトコール酸アセテートとリトコール酸プロピオネートは、カルシウム代謝に影響を与えにくい、選択的VDRリガンドであることをマウスの実験で明らかにした(32)。また、活性型ビタミンD3とリトコール酸は、異なるVDR-コファクター複合体形成を誘導することを報告した(33, 34)。東京医科歯科大学の山田教授のグループは、リトコール酸とVDRとの結晶構造解析を行い、活性型ビタミンDとの結合様式の相違を分子レベルで明らかにした(35)。


 ビタミンDシグナルの胆汁酸代謝に対する影響を、総胆管結紮による胆汁鬱滞モデルマウスで検討した。ビタミンDの投与は、総胆管結紮による胆汁鬱滞を軽減することはできなかったが、炎症反応を抑制した(36)。VDRノックアウトマウスにおいて、総胆管結紮の影響を解析した。ビタミンD投与実験の結果から、炎症反応が亢進することが予測されたが、血漿インターロイキン-6の増加は野生型マウスと比較して減弱していた(37)。VDRノックアウトマウスの腸管では、炎症抑制性因子のIkBの発現が亢進しており、炎症反応を制御する代償機構が働いていると考えている。また、胆汁酸を食餌に添加して、ビタミンD投与による胆汁酸代謝に対する影響を検討した。ビタミンD投与によるVDRの活性化は、ケノデオキシコール酸の生体異物代謝経路での処理を亢進し、尿中排泄を促進した(38)。ビタミンDシグナルは、胆汁酸シグナルよりも強力なVDR作用を有する。ビタミンDシグナルによる二次胆汁酸の生体異物代謝促進は、大腸がんなどの抑制作用と関連しているかも知れない(39)。



 現在は、消化管におけるビタミンDとリトコール酸の選択的VDR作用機能の解析を続けている(39)。当初は、リトコール酸はビタミンDよりも進化において古いVDRリガンドではないか、と考えていた。しかし、ヌタウナギや魚類などでの研究の結果、それらのVDRはビタミンDには反応するが、リトコール酸などの胆汁酸、またそれらの生物に存在する胆汁酸や胆汁アルコールには全く応答しないことが報告された。リトコール酸は腸内細菌がケノデオキシコール酸を代謝して産生する。腸内細菌によるリトコロール酸産生は、ヒトなどのごく一部の哺乳動物での現象らしい。だとすると、リトコール酸によるVDR活性化機構は、進化の過程でかなり後から獲得したメカニズムかもしれない。最近、腸内細菌の生体の生理・病態における役割が次々に明らかになっている。VDRリガンドであるリトコール酸は、腸内細菌とホスト間のシグナル分子として機能しているのかもしれない。代謝調節、免疫・炎症調節における役割を含め、今後の研究課題である。



文献

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