躁状態への対応について

 

 周囲の人が突然躁状態になった場合、正しく躁状態であると理解されることは、残念ながら今の日本では、ほとんど期待できません。

 それまで全く普通に生活していた人が、急に、他の人を非難したり、場にそぐわない言動をとったりしても、「この人は(元々)こんな人だったのか」「こどもじみた人だな」などと思われて、周囲が反発し、批判する、というだけに終わってしまう場合が多いのです。

躁状態に伴う誇大性などに伴って、顧客に対する失礼な言動、周囲の人に対する「上から目線」的な言動、上司に対する反抗、職場における金銭面の判断の誤り(使い込み)などのさまざまな言動をしてしまい、要職を辞めざるを得なくなり、人生を棒に振ってしまった方は、残念ながら、数多くいらっしゃいます。

 こうした言動が躁状態によるものであっても、病気であるとは気づかれないまま、その人の人格の問題として扱われ、不適格な人物であるとされて仕事を失ったり、離婚に至るなど、人生に大きな痛手を背負うことになってしまうのです。

 こうした場合には、元々のその人はどういう人であったか、よくよく考えてみる必要があります。「いつも穏やかな夫が、まさかこんな言動を取るなんて。信じられない」などと思った時は、躁状態の可能性を考えてみる必要があります。

周囲の人たちは、躁状態になっている患者さんを見て、何だ、こんな人だったのか、と怒って離れていってしまうだけかも知れません。そのため、躁状態になっている患者さんの人生を心配し、救えるのは、ご家族だけ、という場合も少なくありません。

 職場の上司の方が、部下が躁状態である可能性に気づいた場合、業務指示として受診を指示することは可能です。これは、雇用主の安全配慮義務に基づく行為であり、決して人権侵害にはあたりません。雇用主は、被雇用者が業務を安全に行える健康状態にあることを確認する義務があるからです。このように指示を受けた人は、雇用主の元で働き続けたいのであれば、この業務指示に従わなければなりません。

とはいえ、実際には、本人が被害的になるなどして、思うように進まない場合も考えられます。

 双極性障害は、放置すると、仕事や友人など、多くのものを失い、社会的生命の危機に陥る可能性もある病気です。病気だという認識のない患者さんを治療につなげることは、本当に大変なことですが、職場、家族を初めとする周囲の方々が、躁状態の可能性に気づき、早めに対応することで、初めて患者さんの人生を守ることができるのです。