夫が躁うつ病と診断されて

 

夫の異変に気づいてから、受診するまで3ヶ月近くかかってしまいました。それまで精神科にかかる事への抵抗を緩和するにはどうするかいいか、と随分考えました。今思えばウツ状態の時を狙ったような感じだったと思います。ところが、夫が「死にたい」ともらすまで、受診させる事ばかり考えていて、本人がそうもらした時に自分がどう対応するのか、情けない事に私には全く心の準備ができていませんでした。私の動揺はきっと夫に伝わってしまったことでしょう。

仕事切り離す必要があったのですが、夫の立場、仕事への思い入れをからして、受診しても入院は難しいように思えました。夫に入院を視野に入れて回復の道を考えるのはどうか、と提案たものの、抵抗があったようです。2回目の受診についていき、主治医に家族から見た様子を伝え、入院するのはどうかとズバリ本人の前で提案しました。

「夫を入院させて」とは変わった奥さんだと思われたでしょうが、本人の意思を尊重した形でさせたいのは医師も同じだと思います。その場ですぐに本人に必要性を丁寧に話し、迅速に対応してくださいました。

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夫は躁鬱が混合して表れるタイプだそうです。

焦燥感が相当強く、誇大妄想も少々ありました。そうかと思えば突然落ち込み、動けないほどになったり、遺書を何通ももらいました。

最初はウツ状態でした。それが会社を休んでいると焦りが出てくるようでした。

業務のことを案じているうちはいいのですが、だんだん会社への憎悪の念でいっぱいになり、自分が過労死していたらどうするつもりだったのか、と言葉を荒げるようになりました。なだめすかす私に「俺がこんな思いをしているのに、どうしてそんなのん気な事を言っていられるのか!!」と怒られてしまいました。

夫は”自分の気持ちなど誰にもわからない”と悲しい思いをしたと思います。

考えずにゆっくりできるものなら夫だってそうしたいでしょう。それができるならこんなに苦しまないだろうと思うと、こちらもつらかったのですが、どう言ってあげたらよかっのでしょうか。

それからイライラ感は今までにないほど、どんどん勢いを増していき、看護士さんや主治医に抑えられ注射をされた事もあったほどです。

今でも思い出しても、つらい出来事でした。

躁の時は浪費もありました。数十万円単位なのでまだ何とかなりますが、(家族としては突然請求書が来るたび、気を失いそうな気分になります。)それだけに夫に危機感を持ってもらうのもまた難しいのです。矛盾しているようですが、お金を使うわりには心配し、ない事が新たなストレスを生むようで、入院中だと言うのに生保・損保にたくさん加入してしまいます。月々の保険料が20万円近くになっていた時期もあります。大人4人の生活費と2人分の入院費用と借金返済もありますから、私が普通のOLより少し経済力があるとは言え、非常に苦しい生活を余儀なくされました。

傷病手当金などの申請、夫が行った売買契約の解約・返金交渉や、書面も残さず貸してしまうお金の債権確保、事務処理などのお鉢が全て私のところに回ってくる事になるのですから、大変です。そういうものについてだけ、わざと大変そうに夫の目の前で書類を作り言葉以外で訴えました。事柄や病状によっては「家族も大変なのよ」とアピールしてもいいものかわかりませんが、多少効果はあったような気がします。

 入院前に資産のほとんどを株に変えられて何とも心もとない財政状態でした。これではあっという間に底をつきます。勿論、言ったからといってすぐに止めるものでもありません。そんな深刻な事態とは裏腹に、夫の口からは次々と夢物語が語られます。終始ニコニコ〜としていて、何だかとても楽しそうです。その反面「おかしいと思われていないか」という事は非常に気にしていて、「誇大妄想っぽい?」と聞きます。こういう時は意外に怒ったりしないので、正直に「今のはちょっと大きい感じしたかなぁ」と笑って言うと、「そうだよね、冗談冗談」とニコニコ〜としています。やめるかどうかはともかく、本人や家族が困りそうな事を告げる唯一の機会だったような気がします。

夫はストーカーのように1日に多いときは10回を超える電話をしてきました。1000円のテレカが1日持たないくらいあちこちに電話していたようです。今すぐやらないくてもいいような用事を一日に20個くらい言い付け、いかに私が妻として至らないか口を挟めないほど攻撃してきます。また他人の自分に対する対応や、些細なものがものすごく気になるようでした。NTTの番号案内のオペレーターと喧嘩したり、外出時に店員さんにからんだりもしたそうです。その割りに自分のベッドの周りは物で溢れ、いつも散らかっていて、「をいをい....」と笑いが出てしまうような有様でした。

「体はヒマそうだけど、何だか頭の中はやたらと忙しいみたいだ」とのん気に構えていられるうちはいいのですが、いろいろな資料請求をたくさんして我が家の小さなポストには入りきれず、管理人さんが届けてくれるような日が続きセールスの電話も増えていきました。夫からと義妹から「幻覚が見えて怖い」という電話、セールスの電話などで10分おきに電話が鳴るし、数時間の外出から戻り留守電を再生すると「18件です」とびっくりする量のわりに大したことないものばかり入っているのです。これが1ヶ月ほど続くようになり、さすがに医師から電話の線を抜いておくようにとの指示が出ました。

夫の親友からも、一日に何度も携帯に電話が入るのだがどうしたらいいかと困惑されたりもしました。親友は夫がどんな病気か知りません。本人のプライバシーもありますし、知られたくないという意思もはっきりしています。どう説明すればいいのか、とても難しい問題に思えました。本人に注意はできても、いくら家族とは言え制限させることはできず、医師としてもおそらく難しいだろうと思えたので、急用以外は曜日を決めたらどうか?と提案する形を取ることにしました。その時はそうだな、と言うのですが、次の瞬間には忘れてるのですから、全てにおいて根気が必要だとつくづく感じます。しかも手を変え品を変え、頃合を見て、の対応です。そして「決して期待してはならない」というおまけまでつきます。

また、夫が勤務先に私の名前を使って法外な要求をしたり、浮気(?)の相手の女性が家庭に乗り込むような、問題も浮上しました。相手の女性が「彼は薬漬けにされているような人ではないのに、あなたが入院させてあんなにした。あなたには任せられない。私が面倒見るので別れてください。」とまで、言ってきます。足元の絨毯をいきなり引き抜かれたような衝撃でした。

”おおおお!言ってくれるではないか!!”と思いつつ、騒ぐわけにいきません。騒がなくてもまるで私が嫌がらせをしたかのように夫のもとへ行き、「可哀想な私」を演じ泣き言を言い、暴言は激化する一方になりました。人格否定し、お前なんか必要ない、お前が女として自信がないから彼女をいじめるんだ、などと訳のわからない事をいい、「彼女との関係を認めないなら慰謝料払ってやるから今すぐ離婚しろ、明日離婚届に判をついてやるから持って来い。」「持って来いと言っただろう」と、毎日毎日電話をして来るようになりました。

何ともつまらないソープオペラの粗筋みたいですが、この時の私は夫の暴言を真に受けるようになっていてどんどん落ち込んでいきました。思考力もなくなり誰かに相談する気力すらありません。「不倫男にとっては配偶者は最大の敵だからあの程度のことは言うわよ。」「全く不倫中の人ってマニュアルでもあるみたいに揃いも揃って、理性とか分別 無くして、ああもアビューシブになるのかしら?もうホントにクレイジー!!!」等と腹を立てたり、軽蔑さえしたものです。病気だとわかっていてもとても思いやりなどとても持てない気分になりました。病気がさせているのか、不倫によるものか、それとも人格障害とまではいかないものの何か心の歪みだとか精神的な問題を抱えているのか、私にはわかりません。理由はどうあれ、それはそれ、これはこれ、と区別して今は夫とその家族を支えなければならない状況です。病気の夫を見捨てるような事もできませんが、温かく接することもできなくなり、今思えば随分つらい時期だったと思います。しかも彼女とは私との結婚と並行して付き合っていたこともわかり、話もできず今はその二股状態を黙ってみているしかなくなりました。病気だからでしょうか、義母もその状態を認め彼女と「3人で」仲良くやってくれと言います。何を見ても聞いても呆れと怒りと悲しみしか感じない最悪の精神状態になりました。

これらを全部一人で抱え込んでしまい、私自身もウツ状態になったり、「イーティング・ディスオーダーだったら大変よ!!」と友人に心配されるほど、体重は落ち、不眠になり、食欲もなく、食べては吐くを繰り返すようになりました。発狂寸前だったり塞いだり、食欲や体重すらまともにコントロールできない、何だかよくわからない状態になるのに、時間はかかりませんでした。とうとう私も精神科と消化器系外科のお世話になってしまいました。夫が入院してわずか1ヵ月半のことでした。

先生には「奥さんはウツ病とか摂食障害とか、ま〜ず心配ないタイプですよぉ!」と大笑いされてしまったのですが...(今思うと恥ずかしい!!)

 動けなくなって、ソファでゴロゴロしながら、引きこもり、「私はこのまま弱って死んじゃって一人寂しく白骨化しちゃうんだ。」と泣きたかがプリンターが壊れたくらいで「機械までバカにするのか!」と情けなくなって落ち込んだり、本当にウツウツしていたんですけれど、それでも病気じゃないなんて一体どこからが病気なのでしょう??(笑)。

 一人でウツウツしながら、HPをじっくり何度も読み返していくうちに、私よりずっと大変な人達がいるとことがわかりました。私の場合夫の意思で受診・入院しましたので、それだけでも救いかもしれません(義妹は強制になり、とても悲しい思いをしましたが)。

今の苦しみは自分ひとりのものではないような気がしてきました。

少しずつ現状を受け入れはじめ夫の前だけでも明るく振舞えるようになったり、色々積極的になれたと思います。

 もちろん、事態の大変さは変わりません。夫が外泊してくるようになると、ますます大変です。狭い我が家で、暴言を吐き、逃げ場もないところで暴力の恐怖を感じたこともありますし、あれこれしたがる夫に付き合うのは並大抵のことではありません。薬や睡眠時間などの生活の管理もしなければなりません。家事も義妹のことも仕事もあるのですから。

しかもウツな私が躁の夫を支えるのですから尚更です。

本人に病識があったので、「また持ち上がってきてるんじゃない?」とたしなめるのは意外と効果がありましたが、それが果たしてよいのかどうか――。

思い切って先生に相談すると、

 「それでいいですよ!!そうやって横から水をピシャッとかけて下さい。」と絶賛されていましたが、実は面倒なあまりに発した言葉なのでした。

 また、何でも安易に考え、医師の指導を全く守りません。困ってしまいました。しかし、不謹慎な言い方になりますが、「躁の状態」は程度によっては本人にとって決して悪いものではないのではないか、と思うこともたくさんあるのです。夫は英語ができない事が極度のコンプレックスになっていたようで、今までわかるフリをしては密かに辞書を引くタイプでした。海外へ行っても、コーヒー1杯頼むのに、まるで命乞いでもしてるかのようにビクビクし、何度も聞き返されては落ち込んでいたのです。それが全然ヘコたれず、私に

一生懸命英語で話し掛けてきます。勿論会話など成り立っていないですし、病気や薬のせいか教えてもなかなか思うように上達しません。語彙も少なく発音もBVか、FWHか、MNか、RLか判別不能なのでこちらは大変ですが、通じなくても何とか伝えようと絶対に諦めません。ある意味とても愛嬌があり、オープンで付き合いやすい人になった気もしますし、デキはともかく悔しがりながらも諦めずトライする姿は実にスバラシイと感心します。またアイディアも豊富で、思いつくと行動は本当に素早いのです。こういうときは筆跡まで変わるものなのか、いつもより字も大きく筆圧も強く、「いつもより随分と読みやすいではないか!」等と、妙な感心もしてしまいます。

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一人で抱え込むのは止め、医師や看護婦さんとなるべく多くコミュニケーションするようにしたのはよかった気がしました。つい、お忙しいだろうと遠慮して会釈ぐらいで済ませてしまいがちですが、声をかけていくと夫の容態は変わらないのに、何故かいろいろな事の流れや自分の気分が変わっていきました。自分の薬の量まで減りました。不思議ですね。

医師や看護婦さんからも積極的にお声をかけて下さり「今日はちょっとゴキゲンよくないから、手短にしておいた方が楽ですよ」とか、夫の病院での状態をちらっと聞けたりするのでこちらの安心感も違います。そんな会話の中から、そうやって捉えてあげれば夫も私も楽なんだと、ヒントも見つかっていきました。逆に、外泊中の自宅での様子や、病前の性格、職場環境など医師には見えない部分の情報を伝えることもできます。(何が情報になるかは医師でないとわからないものではありますが....)また、他の患者さんやご家族の方からもどんどん声をかけて下さり、思わぬ情報やヒントをもらえたり、逆に何故か喜ばれたりすることもあり、驚きます。自分が変わること――私は、これを忘れていたのです。傲慢で無知で弱いのに一人で頑張っていたんだと思ったら、思わずふきだしてしまいました。

治療は医師にお任せ、となりますが、家族が安心感を得れば、家族から患者さんにも安心感を与えられるようになってくるような気がしました。一人で頑張れる事と、どうしても頑張れない事があります。こういうとウツから立ち直り、立派に対応したみたいですが、実際のところは、情けないほど不器用でお粗末なものだったと思います。反省と後悔と不安の連続です。忙しい先生にすがりつき、指示を求め、なだめすかしてもらいながらでした。何とか気分を持ち上げて夫の退院までの8ヶ月間、持ちこたえただけなのです。

私は無理に抱え込んだ時期が持ってしまったばかりに、今でも闘わなくてはならないようなすっきりしないしこりを残すことになってしまったのですからどうか、「絶対に一人で抱え込まないで欲しい」と思います。そして葛藤したり、腹も立てたりすることもありますが、家族だって人間ですからそういう感情を持つ事自体はおかしいことでも、いけないことでも何でもないと思うのです。また助けを求めることは恥ずかしいことでも何でもないと思います。「一緒に頑張っていきましょう」と受け止めてくれる人達が必ずいるものです。皆さんが少しでも気持ちが楽になることを、願わずにはいられません。

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まだまだ色々な事がありますが、お陰様で主人も薬もかなり減り少し仕事も始められるようになったようです。(残念な事に現在別居しているのですが、お互い体調はマメに確認しています)私も落ち着き、こうして御礼のメールができる日が来たことを大変嬉しく思っています。ありがとうございました。

こちらのHPに出会えて本当によかったです。

 

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