第20回World Congress of Psychiatric Genetics(WCPG、ハンブルク)(2012年10月14日〜18日)
今回のWCPGは、Society for Neuroscience, 日本神経薬理学会、そしてECNPなど、多くの他の学会と重なっていた。しかし、今年は双極性障害のエクソーム研究の成果が多く発表されるはずであり、Polgに次ぐ新たな動物モデルのネタとなるような知見があるのではないかと期待して、本学会に参加することにした。行ってみると、座長、プログラム委員会、恩師のLifetime Achievement Award授賞、Consortiumの会議等、国内学会かと思うようなせわしなさであった。しかし、最初の1時間と最後の2時間を除き全て出席することができ、久々の効率的で充実した学会出席となった。
1日目は教育セッション。
双極性障害のセッションは、最後のところしか出られなかったが、最後まとめによると、de novo CNVは関係あるとしても統合失調症より影響は小さいだろう、これまで見出されたSNPは影響が小さい、サンプル数を増やしたらより関連SNPが出てくるだろう、というような感じであった。
統合失調症については、PGC1で7つのloci(5つの新lociを含む)が出てきたが、PGC2で更に新しいデータを発表しますよ、という予告がなされた。
統計の話では、まれな変異の解析に使われる、
C(α) http://www.plosgenetics.org/article/info:doi/10.1371/journal.pgen.1001322
Skat http://www.hsph.harvard.edu/research/skat/
といった方法が紹介された。
双極性障害研究ネットワークを始めるきっかけとなった、英国BDRNを主宰するニック・クラドック先生に、双極性障害研究ネットワークで研究の協力依頼を始めたことをご報告したところ、最初のうちは反応がゆっくりかも知れないが、続けているうちに患者さん同志で研究に参加した話が口コミで広がって、だんだん参加者も増えるだろうから、頑張って、と励まして下さった。
2日目は神経解剖学のカール・ジレス教授のプレナリーレクチャー。形態、受容体のオートラジオグラフィー、そして線維連絡を統合して、ブロードマンの脳領野の妥当性を検証して、脳領域の再定義を試みるという壮大なプロジェクトを行っておられる。細胞構築に基づいて作られたブロードマンの脳領野については、個体差が考慮されていないことなど、議論もあったが、定量的に調べて検証すれば良いと考えている。一次運動野や一次感覚野などでは、確かにブロードマンの言うとおりだが、他の場所では必ずしも妥当でないというのが結論。例えば、視覚野の位置には大きな個体差がある(PMID 10686118)。
ヒト脳全体の切片を作成、一人の脳を70000セクションに分けて、細胞体の染色を行い、3次元再構築した。固定により縮むため、固定前に撮像したMRIに併せて補正(PMID: 2332886)。皮質の層構造を数量化して、領野を分類。JuBrainというデータベースを作成した(http://www.fz-juelich.de/inm/inm-1/EN/Forschung/JuBrain/_node.html)。受容体のイメージングは脳全体から20μmの凍結切片を作成。前部帯状回の分類はかなり問題がある。また、ブローカ野も再考が必要(PMID: 20046193)。
偏光顕微鏡(polarized light microscopy、古くからある技術)は分解能1μmで、単一神経線維が描出できる。(PMID: 22232597)。これで調べると、最近MRIのDTIで言われた、全ての線維は直交しているなどというのは間違いだ。
ブロードマンの脳領野の再検証という壮大な試みが行われていることに驚いた。
双極性障害のセッションでは、加藤がジョン・ケルソー教授と共に座長を務めた。
WTCCCのGWASのリプリケーション(双極性障害1218名)では、有意に同一方向の関連が多いことが確認され、新たなゲノムワイドの関連遺伝子も見出された。カルシウム関連の遺伝子であった。
双極性障害家系におけるデノボCNV解析では、英国の116トリオとブルガリアの186トリオを調べ、統合失調症のトリオ家系と比較した。デノボCNVは統合失調症より双極性障害で少なく、サイズも小さい。双極性障害で見出されたデノボCNVは多くが遺伝子を含まないものであった。いくつか興味深い候補遺伝子のデノボCNVも見出された。
しかし、精神疾患との関わりが既に証明されている領域のデノボ CNVが、親子発症例のうち、子のみに見られたり、兄弟発症例の一方だけに見られたりした例もあった。このように、家族歴のある人でデノボ変異があるケースもあり、解釈が難しいことがわかった。
双極性障害患者死後脳の次世代シーケンサーを用いたトランスクリプトーム解析では、20個の候補に絞られ、トップはノンコーディング遺伝子であった。得られた結果は、GWASで見出されたシグナルと有意に関係していた。神経発達やイオン結合に関わる遺伝子が多く変動していた。
双極性障害のGWASのメタ解析では、1万人以上の解析で、既知のCACNA1C、ODZ4の他、5つほどのピークが現れた。
統合失調症では、六百トリオにおけるエクソーム解析の結果が発表された。見出されたデノボ変異が、ミスセンス、ノンセンス、サイレント、スプライスサイトなど、どのような変異であるかを調べたところ、統合失調症ではミスセンス変異が多かった。デノボCNVは、シナプス関連、ポストシナプティックデンシティー関連、NMDA受容体シグナリングなどに多かった。デノボ点変異も、ポストシナプティックデンシティー、NMDA受容体シグナリングなどが多かった。
また、兄弟三人とも同じ遺伝子のデノボ変異を持つケースがあり、親がモザイクだと考えられた。
UK10Kプロジェクトでは、健常者四千名で全ゲノム解析、統合失調症二千名、自閉症千名などでエクソーム解析が行われている。
パーセルは、スウェーデンの統合失調症患者2500名、対照群2500名の全エクソームのデータについて報告した。変異は、Pfamドメインに多くみられ、変異はNMDA受容体やポストシナプティックデンシティー関連に多く、Pfamドメイン変異では特にこれらが多かった。IBD(identity-by-decent)解析により、最近に生じた変異を同定するという方法が今後有用であろうと示唆された。最後に、まだまだ結果は検定力不足であることが強調された。
2013年のボストン大会のプログラム委員会は、38人のプログラム委員中、非欧米人は1人だけだったが、プレナリー講師の人選など、何とかアジアの立場で口を出すよう試みた。
3日目のプレナリーは、リンドブラッド・トー教授の犬の遺伝学の話。犬は三万年前に家畜化され、過去二百年で選択交配が進み、少ない遺伝子変異で多様性が多くあることから、表現型と遺伝子を結びつける研究に非常に有利で、少ない数ではっきりした結果がでる(短足の遺伝子など)。そこで精神疾患がらみの遺伝子も期待され、強迫性障害(canine compulsive disorder、CCD)とCDH2(neural cadherin)の関連が示唆された。 (人ではobsessive compulsive disorderだが、obsessionは精神症状で、犬では評価できないため、CCDと呼ぶのであろう。) CCDは、SSRIに反応し、発症が早く、オスに多い。臨床的にはかなり悲惨な症状を示す(自らをかみ続けるなど)。ドーベルマンのCCDでは、7番染色体のCDH2に強いピークが見られた。その他12個の遺伝子でCCDの遺伝要因の半分を説明でき、これらはグルタミン酸シナプス、線条体〜視床との関連が示唆される。双極性障害の犬はいないのか、と質問したが、精神症状なので定義が難しい、とのことで、明らかに双極性障害らしい犬の家系があるというような話はやはりなさそうだった。
もう一人のプレナリーはブライアン・ロス教授。NIMHの創薬プログラムのディレクターも務めている。幻覚を起こし、メキシコで宗教的儀式に使われるという、サルビア・ディヴィノルムという植物から、サルビノリンAという、オピオイドカッパー受容体作動薬を同定した話などの前振りの後、創薬の話になった。中枢の薬剤開発の成功率は、他の薬剤(15%)に比べ、非常に低い(8.2%)。抗うつ薬、抗精神病薬などで、既存薬の持つ作用の一つに純化させた薬はことごとく失敗した。結局、多数のターゲットを持つ薬剤だけが有効である。また、新規のターゲット(mGluR2/3、CB1、NK-3、NT-1など)を持つ薬もことごく失敗している。新規のターゲットだから、と、一部のモデルでしか試されていないことが多いが、結局のところ、多くの動物モデルに有効性を示す薬が、人でも効いている。
アンジェルマン症候群では、Ube3a-YFPマウスを使って、その発現を増やす薬剤を承認薬から探し、抗がん剤でトポイソメラーゼ阻害作用を持つirinotecanが有効であることがわかった(Nature, 2011)。
単一のターゲットを持つ薬はスクリーニングできるが、多くのターゲットを持つ薬はスクリーニングできない。
D2作動薬では、G蛋白を介したシグナリングが副作用に、βアレスチンを介したシグナリングが作用に関係していると考えている。既存薬の中ではアリピプラゾールは比較的βアレスチンを介した作用が強い。βアレスチンのみ阻害する薬を開発した(PMID: 22845053)。
PGC2の統合失調症と双極性障害を合わせたGWAS、および両者の比較の結果では、どちらにも関連しているCACNA1Cがトップとなった。統合失調症と双極性障害の比較では、ゲノムワイドで有意なピークはなかった。症状の分析では、統合失調症のうち、躁症状のある人は、双極性障害のポリジェニックスコアと関連していた。
iPS細胞に見られるCNVについての発表では、数名のiPS細胞から20のサブクローンを作成した結果、セルライン特異的なCNVが74個見られた。これらはオリジナルの線維芽細胞に由来するものであった。線維芽細胞では0.8〜20%しかない体細胞変異がiPSではクローナルに増えている。3割の線維芽細胞はCNVを持っている。(→とすると、iPSで見られるCNVは多すぎないか? CNVのあるものが選択されてiPSになる傾向があるのだろうか?) iPS培養の間には、CNVは安定的に存在しており、カルチャーすることによるアーチファクトではない。
双極性障害患者24名、大うつ病患者20名からiPS細胞を作成した報告もあった。分化させた神経細胞でカルシウム反応を見たり、遺伝子発現解析を行ったりしている。明確にはわからない面もあるが、彼はあえてシングルセルクローニングのプロセスを経ないことにより、クローン間差異の存在を無視するというアプローチを取っているようであった。
気分障害における次世代シーケンサーのセッション。ポルテウス教授が、DISC1リシーケンスの話をされた。1542名でシーケンスした。双極性障害、統合失調症とリンクした変異はなし。一つだけうつ病家系で3家系とも完全にうつ病とリンクしている変異があった。しかし、一般人口におけるうつ病のケースコントロールでは関連は確認できず。入院患者と外来患者では患者層が違うからだろうと述べていた。
うつ病と連鎖する変異は、ミトコンドリアの動きを低下させたり、PDE4Bとの結合を低下させるなどの機能変化がある。
ジョンスホプキンス大学のグループは、双極性障害322名(ほとんどI型)と、対照群435名で、エクソーム解析を行った。まだ解析途中で、変わるかも知れないから、と、出てきた変異は一瞬見せただけ。アルツハイマー病関連の変異などがあった。遺伝子オントロジーでは、特徴的なものはなく、Q-Qプロットもフラットであった。
スウェーデンの双極性障害1110名と対照群2438名でエクソーム解析を行った研究では、補正をしなければ有意なものもあるが、遺伝子ワイド(ゲノムワイドに比べると有意水準が甘くなる)でも有意なものはなかった。Q-Q plotでも予想以上に多くの有意な変異は見られない。マンハッタンプロットでも何も立っていない。GWASのシグナル領域にも特に所見はない。今後はIBDのフィルタリングで最近の変異を絞り込みたいとのことであった。今回の結果から、存在率が1〜5%で、オッズ比が5以上の変異はなさそうだと結論できるとのことであった。しかし、まだサンプルが足りない、ということを強調していた。
失われた遺伝力〜再考、という講演では、遺伝力は、実際にはわからないが、それを色々な方法で推測している、ということが強調された。統合失調症で現在見つかっているのは、5%以上でエフェクトサイズが非常に小さいもの(ZNF804Aなど)と、0.5%未満でエフェクトサイズの大きいもの(22q11欠失など)だけである。見つかった有意なSNPだけでは3〜4%しか説明できないし、全SNPでも30%しか説明しない。0.5〜5%の頻度で、エフェクトサイズが中くらいのものについては空白状態である。ここに何もないはずはなく、まだ見つかっていないだけだという。その他、一卵性双生児ではデノボ変異が一致することから、これが「失われた遺伝力」の一要因と思われる。
結局のところ、疾患へのかかりやすさは、
遺伝するバリアント+デノボ変異(CNV、SNV)+環境
と表現される。
アイオワ滞在中にご指導いただいた、レイモンド・クロウ先生が、生涯功績賞を受賞された。彼が育てた四人の研究者というスライドに筆者も加えていただき、光栄であった。受賞講演では、養子研究から連鎖解析という流れをお話して下さり、精神科遺伝学の歴史のような方だと思った。
モデル動物のセッション
マウスにはGlo1のCNVがあり、多くのストレインではGlo1重複がある。アレイでCNVを調べたところ、興味深い遺伝子の欠失が色々見られた。マウスCNVのデータベースはノックアウトリソースと同じくらい意味がある。
ヒトiPS細胞由来ニューロンで候補遺伝子のノックダウンをして、関連する遺伝子をスクリーニングする研究があった。ノックダウンで介在ニューロンの分化に関係する遺伝子の変動が見られた。こういうiPS細胞の使い方もあるのか。
統合失調症のPGCの結果をステファン・リプケ氏が発表した。これまでの身長やクローン病のGWASでは、サンプル数増加と共に指数関数的に関連するSNPが増えてきたが、統合失調症も同様だと予測する人もいたものの、実際どうなるかわからなかった。
今回、PGC1に加え、CLOZUKの六千名、スェーデンの五千名、およびその他の千名以下のサンプル(製薬会社のサンプルも含まれる)を合算して、統合失調症患者二万五千名、対照群二万五千名の解析が行われた。その結果、62個と、予測通りに、有意なピークが現れた。独立サンプルで、トップ71のうち57が同じ方向に有意だった。このように、トップヒットが同じ方向かどうかを確認するサインテスト(符号検定)が、関連SNPが正しいかand/or同質のサンプルか、ということを確認するために、他の発表でもしばしば示されていた。
質疑応答では、これからサンプルを増やしていくとどんどん増えるのでしょうが、それでどうなるんですか、というような質問があり、演者が「上限はある。遺伝子の数」と言い、笑いを誘っていた。
双極性障害の次世代シーケンサーのセッションでは、ケルソー教授が、髄質嚢胞腎と双極性障害が完全に連鎖する家系で、連鎖解析とエクソーム解析を行った結果を報告した。2か所に連鎖が得られ、連鎖領域の傷害変異に絞った結果、5つに絞られたという。
アイオワのジミー・ポタシュ教授は、双極性障害の大家系9家系でエクソーム解析を行った。連鎖する変異のうち、MAFが5%未満の傷害変異が各家系10〜46個、合計240個あった。質問したところ、これらに特徴的なGOは何も出なかったとのことであった。
マーギット・バーマイスター教授は、双極性障害のシーケンスコンソーシアム、「BRIDGES (Bipolar Research in Deep Genome and Epigenome Sequencing)」のデータを発表した。ゴールは、1600名の双極性障害患者と1600名の対照群で、8-10xの低いカバレージで全ゲノムシーケンスすること。今回は半分くらい終了した時点での中間報告であった。コンタミ検出アルゴリズムを含むQCを行った。今のところマンハッタンプロットでは何も立っておらず、GWASで見出された関連遺伝子の変異も関係はなさそうであった。Q-Q plotでは、予測より変異が少ない。遺伝子ワイドに有意なものはない。結論として、今のところ顕著に関連するものはないようである。
セス・アメント氏は、23家系の142名でエクソーム解析を行い、そのうち8家系について報告した。9遺伝子で8家系に変異があり、有望と思われたが、ほとんどはサイレントで、機能傷害変異はどれも1家系だけであった。しかし、サイレントでも、近傍の機能変化を来す変異と連鎖している可能性があるから意味があると考えたと話していた。遺伝子オントロジーでは、ナーヴ・インパルス関連が多かった。1家系では、2つの候補遺伝子の既報の機能変化を伴う変異と1つの候補遺伝子の新規変異の3つと連鎖していた。まさにオリゴジェニックモデルを体現するような家系といえるかも知れない。
最終日のプレナリーは、トレヴァー・ロビンス教授が、衝動性と強迫性について、動物モデルとヒトのデータを交えて話された。薬物乱用患者の脳画像研究では、側坐核のドーパミンD2受容体低下が見られ、これが衝動性と関係しているが、原因か結果かは不明であった。動物実験の結果からは、衝動性の高いラットはコカインの強迫的使用に陥りやすいという結果が得られ、薬物乱用者の同胞で衝動性が高いというデータなども合わせ、素因的な衝動性が原因で薬物乱用に陥るという仮説が支持された。その他、逆転学習に眼窩前頭前野が関係しているという動物モデルおよびヒトの研究も示された。
精神科医は幻覚妄想といった症状に基づく臨床診断を使ってきたが、神経心理学的な評価に取って代わられるのか?との質問に対し、ロビンス教授は、予測エラー依存性因果関係連合学習中のfMRI反応とケタミンでの妄想の出やすさが相関するという研究もあり(PMID: 16754834)、妄想の神経基盤を議論できるようになってきていると述べた。
まとめ
シーケンスによる研究の進展は著しく、双極性障害は患者1100名、対照群2400名の全エクソームが終了し、1600名ずつの全ゲノムシーケンスが半分終了している。統合失調症も患者2500名、対照群2500名のエクソームシーケンスが終了している。また、家系におけるシーケンス研究も行われている。
これらの研究の結果、遺伝する変異の中に、双極性障害の多くを説明し、強い影響を持つ変異はなさそうである。見出された変異の家系の中での連鎖も、確実ではない。また、同一の家系の中で複数の有力な遺伝子が関係しているケースもある。全体として、単一主要遺伝子で説明できる家系は少なく、複数のまれな変異、デノボの変異が複数集まって発症脆弱性を規定するということがわかりつつあると言えよう。どのような変異が関係しているかということについては、何一つ確実なことは言えない。
一方、統合失調症においては、見出された変異はNMDA受容体、ポストシナプティックデンシティーなど、シナプス機能に関係があり、統合失調症との関わりが指摘されてきた遺伝子が多いようである。
GWASは、統合失調症が25000名、双極性障害は14000人を超えた(PMID: 22182935)。
統合失調症では、ゲノムワイドの関連を示すSNPが62個に増え、どうやらその中には、かなり有力な遺伝子も含まれるらしい。このように多くの関連遺伝子が見出されたことで、皆喜んでいるようであったが、次の戦略は見えない。サンプルを更に増やしたら、数百個、数千個の関連遺伝子が見つかるのか? それで何がわかるのか? という感じもした。しかし、統合失調症では、シナプス可塑性に関わるような遺伝子群が関係していそうである。抗精神病薬の薬理学的ターゲットであるドーパミン系の遺伝子はまだあまり出てきていないが、今後、より対象数が増えれば、現れてくる可能性もあろう。統合失調症では、こうした遺伝子群の、遺伝する弱い影響を持つ多型、強い影響を持つまれな遺伝子変異、そしてデノボ変異(CNV、一塩基変異とも)が渾然一体となって疾患に寄与している可能性がある。そして、関連する遺伝子は、おそらく数百以上に及ぶのではないだろうか。
一方、双極性障害では、GWASの結果でも、なかなかはっきりしたことが見えてきているとは言い難い。トップヒットの一つにCACNA1Cが入っており、他のCa2+チャネルも弱いながらも関連しているようではあるが、全体としてどのようなパスウェイが関連しているのかについても未だに見えてこない。統合失調症に比べると、まだまだ遺伝学研究は遅れている。
今後、0.5-5%の変異については更なる研究が必要である。また、数十〜数百塩基の短い挿入欠失については、シーケンスでもアレイでも見落とされている可能性はある。統合失調症におけるこれらの研究は、やや落ち穂拾い的にも思えてしまうが、動物モデル作成という観点からは、まだまだ追求すべきであろう。
多様な遺伝子が関係している中で、今後の方向性としては、まれであっても疾患を引き起こす遺伝子変異により生じる特異的な病態を深く追求するか、フェノタイプに特徴的な共通最終経路となる脳の病変を明らかにするか、などが考えられるのではないだろうか。
2013年の本学会は、10月17〜21日に、ボストンで行われる。
2014年は、10月12〜16日にコペンハーゲンで行われる。