治療薬について
双極T型障害に対するバルプロ酸の予防効果に黄信号? (2010/1/15)
The BALANCE investigators
and collaborators: Lithium plus valproate combination therapy
versus monotherapy for relapse prevention in bipolar I disorder (BALANCE): a
randomised open-label trial. The Lancet, Early Online Publication, 23 December
2009
英国の医学雑誌Lancetに、双極T型障害において、リチウム、バルプロ酸、およびリチウム+バルプロ酸の併用療法の3群で予防効果を比較した、英・仏・米・伊の4カ国の共同研究による臨床試験の結果が発表されました。
対象は16歳以上の双極T型障害患者330名で、4〜8週間のリチウム+バルプロ酸併用療法の後に、リチウム単剤(0.4〜1.0mM、110名)、バルプロ酸単剤(750—1250 mg、110名)、およびリチウム+バルプロ酸の併用療法(110名)の3群に無作為化され、2年間の治療を受けました。治療内容を知らされていない治験管理チームが治療効果を評価しました。
その結果、各群110名中、併用療法群では59名 (54%)、リチウム群は65名 (59%)、そしてバルプロ酸群は76名
(69%)で、治療が必要な再発が見られました。再発リスクは、バルプロ酸群に比して、リチウム群および併用群で、有意に低くなっていました。併用群ではリチウム群よりやや再発は少なかったものの、統計学的に意味ある差は見られませんでした。
この結果は、双極T型障害の予防療法において、リチウムとバルプロ酸の併用、あるいはリチウム単剤の方が、バルプロ酸単剤よりも再発予防に有効なことを示しています。
今回の結果は、予防療法の第一選択としてリチウムを選択すべきであることを改めて示したと言えます。

(専門家向けのより詳しい解説は「双極性障害研究室」にあります。)
双極性障害における抗うつ薬の使用について
厚生労働省は、2009年6月24日のSSRI(セロトニン選択的取り込み阻害薬)に続いて、8月26日に、三環系、四環系抗うつ薬について、安全性情報を出しました。
「因果関係を精査した副作用報告の多くが,躁うつ病患者や統合失調症患者のうつ症状等の併存障害を有する状況において,抗うつ薬を処方されたことにより,興奮,攻撃性,易刺激性等の症状を呈し,他害行為に至ったか,あるいはその併存障害の進展により他害行為が発生したことが疑われ,SSRI及びSNRIと同様の傾向が認められた。」として、全ての抗うつ薬の添付文書の、「慎重投与」の欄に、「衝動性が高い併存障害を有する患者」や「躁うつ病患者」が追加されました。(なお、「躁うつ病」については、以前から躁転の可能性があるとして、多くの抗うつ薬の「慎重投与」の欄に記載されていました。)
新薬の承認について
ホームページの中で、日本での最善の治療法について色々紹介してきましたが、米国では、双極性障害うつ状態の標準的な治療法はどうなっているでしょうか?
例えば、以下のような治療法が、現在の標準的な治療法です。
http://www.dshs.state.tx.us/mhprograms/timabd2algo.pdf
第1段階 気分安定薬
第2段階 ブプロピオン(抗うつ薬)またはSSRI(セロトニン選択的取り込み阻害薬)
またはラモトリジン
第3段階 リチウム付加または他の抗うつ薬(ベンラファキシン、ナファゾドンなど)
第4段階 2つの抗うつ薬の組み合わせ
第5段階 抗うつ薬をMAOI(モノアミン酸化酵素阻害薬)に変更
非定型抗精神病薬の付加
第6段階 第5段階までに用いられていなかった他の治療法
ECT(電気けいれん療法)、その他の(不確定な)治療法
これを見れば、誰もががっくり来ることでしょう。
何しろ、ブプロピオン、ラモトリジン、ベンラファキシン、ナファゾドン、MAOI(モノアミン酸化酵素阻害薬)など、日本では使えない薬のオンパレードなのですから。
どうしてこのようなことになってしまったのでしょうか?
実は、日本は現在、世界で最も新薬が使えない国となっています。厚生労働省の新薬認可に大変な時間と手間がかかり、なかなか新薬が承認されないためです。
双極性障害の治療に限らず、他の精神科領域でも、海外の標準的な薬物療法(アルゴリズム)に登場する多くの薬(フルオキセチン、クロザピン等)が、現在日本では使えません。海外で治療を受けてから帰国した患者さん治療をそのまま継続することすらできず、全て一世代前の薬に変更しなければならないのです。これではいつ再発するのかと不安をかかえながらの治療になってしまいます。
アジア各国では、海外で認可された薬はすぐ認可する方針としており、欧米で発売された薬がすぐ使えるため、欧米、アジア、各国で普通に使える新薬が、日本だけで使えない状況となっています。
日本は、海外の判断には依存せず、独自にきちんとした審査をするのだ、という方針を掲げるのであれば、それはそれで高邁な理想と言えましょう。しかしながら、それならやはり迅速な審査を伴うことが期待されるでしょう。現在の方針は、海外の承認をそのまま受け入れるでもなく、国内で迅速な審査を行うでもなく、というどっちつかずの状態になってしまい、結局新薬が使えないという中途半端な状態になってしまっているように感じられます。
他のアジア各国と同様、海外で認可された新薬をすぐに認可するのか、日本独自の基準で迅速に審査するか、どちらでも構いませんから、もっと迅速に新薬が使えるようにならないものかと思います。
新薬が使えなくて一番困っているのは、誰よりもユーザーである患者の皆様です。
何とか世界標準の治療が受けられるよう、声をあげていきましょう!