治療薬について

 

 双極性障害の治療は、薬物療法と心理社会的治療の二本柱で行われます。

 薬物療法としては、急性期の治療(躁状態、うつ状態)および、維持療法があります。

 躁状態の急性期には、リチウム、バルプロ酸、カルバマゼピンなどの気分安定薬と、抗精神病薬が有効です。

 うつ状態の急性期には、気分安定薬であるリチウムおよびラモトリギン、非定型精神病薬であるオランザピンおよびクエチアピン(保険適用外)などが用いられます。抗うつ薬のうち、特に三環系抗うつ薬は、躁転や急速交代型を惹起するため、用いるべきではないとされています。他の抗うつ薬についても、同様に注意を要するとされています1)。しかし、双極U型障害においては、必要に応じて、気分安定薬との併用で用いても良いとの考えも根強くあります。

 維持療法においては、躁状態、うつ状態の予防効果に加え、自殺予防効果も示されているリチウムが第一選択薬とされますが、特にうつ状態の再発予防にはラモトリギンが有効で、双極性障害の維持療法に唯一の保険適用を持っています。そのほか、うつ状態と躁状態の両方に対する再発予防効果を持つ薬剤として、オランザピン、クエチアピンがあります。また、アリピプラゾールについても、やや弱いエビデンスながら、躁状態の再発予防効果が示されています。

 心理社会的治療としては、心理教育が基本で、個人で、夫婦で、あるいは集団で行われる。一般的な疾患の理解と受容、ライフチャートを書くなどして本人の疾患の経過とその増悪因子、改善に有効であった因子を理解すること、薬剤の知識の獲得とアドヒアランスの向上、初期徴候の把握などが主なテーマとなります。また、対人関係社会リズム療法も有効です。これは、対人関係に焦点を当て、種々の心理学的・行動学的技法を用いて、対人ストレスへの対処能力を身につけると共に、生活リズムを一定に保ち、再発を予防することを主眼としています。

1) 全ての抗うつ薬の添付文書の、「慎重投与」の欄に、「衝動性が高い併存障害を有する患者」や「躁うつ病患者」記載されています。

 

新薬の承認について

 

 以前、このホームページの中で、「日本は世界で最も新薬が使えない国となっています」と書きましたが、現在、この状態はほぼ解消されています。

これは、厚生労働省と文部科学省が新薬承認を早めるため、2003年の全国治験活性化3カ年計画、2004年のPMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)設立、その後の臨床研究・治験活性化5カ年計画と、さまざまな施策を次々と打ち出し、対策を講じてきたからです。

現在、海外で用いられている薬の中で、日本で使えないものがある主な理由は、承認の遅れではなく、日本の臨床試験で有効性が認められなかったからです。海外で認可された薬をすぐ認可するため、欧米で発売された薬がすぐ使えるアジア各国と異なり、日本では、独自の臨床試験(国際共同試験でも良い)を必要とする方針としています。保険診療で、現在の薬より薬価の高い薬を承認する以上、最低限プラセボよりも有効で、現在の薬に勝る効果があったり、現在の薬よりも副作用が少ない、といった特徴がなければ承認しないという姿勢は、当然のことと言えるでしょう。