Society for Neuroscience 2011 (Washington DC) 2011111214日 

 

 6年ぶりにこの学会に参加した。情報収集がメインの目的であるが、Neuro2013を控えて、SfNの状況も気になるところである。

 参加者は32000人以上。とにかく巨大な大会である。前回は、全ポスターを見ようなどと行ったり来たりして足の筋肉が張った状態の上、食事にありつこうとすると売店も大行列…ということで疲れてしまったので、今回は、ポスターは無理せず、ある程度絞り、食事は外または弁当(パン)持参。それでも疲れたことは疲れたが、参加の仕方に注意すれば、前回のような激しい疲弊は避けられるようだ。

 Mood disorderと名のつくセッションは13個程度で、2005年(11個)とあまり変わらない。Schizophrenia3つしかないが、実は”psychotic diagnoses” “psychotic disorders”というのが12個あり、名前が変えられたようだ。GWASで統合失調症と双極性障害の共通の因子が多数見つかるなど、両者の共通性が強調されるようになったためかもしれない。(最近、総説投稿時、mood disorder (depressionbipolar disorder)schizophreniaに分けて論じたら、editorに、bipolar disorderschizophreniaを合わせるべきだ、と言われ困惑したが、DSM-5ドラフトにもmood disorderがなくなっているし、そういう流れなのだろうか。それを言ったら統合失調症と自閉症にも共通のCNVがあるという話にもなってしまうし、現時点で分類を変える意義があるとは全く思えない。)

いずれにしても、精神疾患の研究者は皆、精神疾患の発表が昨年より減っている、と指摘していた。タイトルにSchizophreniaとある発表は201演題あるが、確かにParkinson (s)395演題と比べると目立たない感じである。統合失調症を研究していた人の一部が、自閉症(Autism or Autistic135演題)に流れているのかもしれない。

 一方、今回は、脳科学と社会に関するセッションや、キャリアパスに関するセッションなどが多く感じた。後者は、神経科学の研究者人口が大きくなりすぎて、就職口がないことが問題になるということでなければ良いが。 

メインのプログラムは12日午後から16日に集中していて、気分障害のポスターは16日が多かったが、いろいろあって、15日朝には帰国しなければならない。しかし、自分の専門領域の発表は他の学会でも見聞しているので、周辺領域を勉強することに集中すればよいと割り切った。

 

11日午前は、Meet-the-expertというセッションに参加。その道のプロであるPIに、個人史を含めて研究の流れを話してもらい、参加者は途中でもどんどん質問してよく、特に、なぜその時そちらの方に進んだのか、といったことを質問してもらう、という企画であった。円卓3つの小さな会場である。1時間15分ずつ2枠あり、各々5人ずつ。神経化学会の若手育成セミナーに似ている。

まずはアルツハイマー病研究のDavid Holtzman教授のセッションに参加。

apoEとの強い関連に興味を持ち追求してきた。apoEがグリア、Aβがニューロン、ということ違いから、細胞間の関係を調べる必要があると思い、in vivo dialysisAβを測る方法を確立。apoE4で合成は変わらない(これは13C標識アミノ酸を用いて測定)が、クリアランスが遅いことを発見した。

Aβの蓄積部位がデフォールトモードネットワークと重なることに着目し、神経活動とAβの関係に注目。海馬の電気刺激でAβが上昇し、神経活動抑制(TTX)で減ることを見いだした。また、Aβは覚醒中に多く、睡眠中に減る。さらにひげの切断と刺激でbarrel cortexを調べてもやはりAβの低下、上昇が見られる。その考えで行くと、頭を使うと認知症になりやすいことになるが、疫学データは逆では?と質問したところ、脳活動は基礎活動が大部分で、更に思考したところで、活動性に大きな差はないのでは、という返答であった。

次は、脳内自己刺激(ICSS)Eliot Gardner教授のセッション。立ち見の盛況であった。

1954年、James OldPeter Milnerが、網様体賦活系に電極をいれるつもりが失敗して、別のところに刺さってしまった。その結果、刺激を受けた場所に戻りたがるという、conditioned place preferenceのような現象が観察され、この時刺さっていた中隔野が報酬系の一部であることがわかった。この電気刺激は、1分間100回レバーを押すという、最大限の行動を引き起こし、刺激実験をやめようとすると動物が抵抗する。レバーを押すためには、食べない、飲まない、性行動もしない。電気ショックが来ても押す。依存のDSM基準の通りである。場所は中脳腹側被蓋(VTA)に至る内側前脳束、VTA→嗅結節(これは命名が間違っていて、嗅覚とは関係なくむしろ側坐核に近縁の場所)、VTA→側坐核の経路の3つ。人体実験(倫理的に問題あり)を行った研究者もいた(Robert G. Heath (1963) Electrical self-stimulation of the brain in man. American Journal of Psychiatry 120: 571-577)。

また、未発表だが、Dr. Arthur Wardがパーキンソン病患者100名で深部電気刺激治療を行う際、6名で内側前脳束に電極が入ってしまい、ICSSとなったという。Gardner教授は手術中のテープを聴かせてもらったが、刺激中にエクスタシーを感じたなどとの自己報告であったとのこと。その後、ドーパミン阻害薬の影響や、その中止後の過感受性(23週後)、THCの影響(少量でhedonic、高容量ではdysphoric)など、サルを用いた実験。D3阻害薬が依存の薬になる可能性。最後はオプトジェネティクスによるICSSの話で終わった。

前者は質問が多すぎて、最後が尻切れトンボで、少々まとまらない印象であった。後者は、倫理的に問題のある実験の話が含まれ、秘密会になってしまったような印象に終わってしまった。もちろんそんな意図ではないと思うが。

 その後はRobert Shiller氏の特別講演。ベストセラーになったAnimal Spiritという本(邦訳あり)の著者で、行動経済学者。話はやや大ざっぱで、社会と脳のアナロジーに基づいて語る部分が多く、株価の動きなどの原因は不明で、実験はできない、と強調していた(同じ行動経済学なら、以前にお話を伺った、西條辰義先生の実験の話の方が面白かった)。

 景気の動きは説明がつかない場合も多い。双極性障害のエピソードと景気変動は似ており、双極性障害のキンドリング仮説が景気の動きを説明するのでは、などという話もあった。(Morgan, J. J. B. Manic-depressive psychoses of business. Psychological Review, Vol 42(1), Jan 1935, 91-107.) 奥様が心理学者で、この話を入れろと言われた、と話していた。最後のスライドでも、双極性障害などの精神疾患とのアナロジーから、こうした疾患の解明が、景気の変動に対するリスクマネージメントに役立つかも、などと話した。

 午後はThe Brain on Trialという、Kavli Foundationのサポートによる公開シンポジウム。偽記憶の話や犯罪者の脳イメージングの話などから、脳科学の技術が法廷で使えるようになるかを議論するという大変興味深いセッション。…だったはずだが、誠に残念ながら時差ぼけで沈没。残念…。

 ポスターでは、ヒドロキシメチルシトシン抗体とメチルシトシン抗体を用いて、カロリー制限を加えた高齢ラットをIHCで調べた実験。ヒドロキシメチルシトシンは加齢に伴って増加する。メチルシトシンは核小体に多く、ヒドロキシメチルシトシンはそれ以外の核内に多いことから、ヒドロキシメチルシトシンはユークロマチン(転写が盛んになっている状態)、メチルシトシンはヘテロクロマチン(凝縮された染色体)と関係しているのではないかという。海馬の染色を見ると、錐体細胞がよく染まっているが、介在ニューロンらしき物もぽつぽつと染まっている。抗体の特異性は、ノックアウト等で確認することができないので、合成ヒドロキシメチルシトシンを加えて中和されることで確認したとのこと。

 視床下部外側野のオレキシン系が依存に関係しているのではないかという話もあった。

 夜は、ムーミン・プー博士のプレジデンシャルレクチャー。BDNFが神経細胞の極性や可塑性に果たす役割についての話。前半は培養の実験で、レフェリーにin vivoではどうなのかと言われたというような話をしていて、彼ほどの人でも苦労しているのか、と驚いた。レクチャーの最後では、逆行性にBDNFが作用するというin vivoの話もしていた。

 

2日目。

CanEuCreというプロジェクトの話。Floxed KOマウスのライブラリーが整ってきた一方で、Creマウスのライブラリーは不十分。ヒトBACクローンを用いた、Maxiプロモーター、およびminimum promoterの両方で、Creマウスのライブラリーを作成している。多くのグループがbioinformaticsgeneticsanatomyなどを分担して協力している。実はこのCreプロジェクトは、ウイルスベクターによる治療法開発のプロジェクトのスピンオフプロジェクト。ウイルスベクター治療のためには、適切なプロモーターが必要だから。

iCre/ERT2iCreCreenhancedバージョン)で作成。作ったマウスは順次Jacksonより公開している。詳しくは(http://www.caneucre.org)。

Systems Biologyのセッション。Dr. Geschwindが、共発現ネットワーク解析(WGCNA)に関するOldham論文の紹介の後、最近のnature論文について紹介。106名のAutism患者の死後脳(Autism Tissue Resource, Harvard Brain Bank)を用い、WGCNAで解析。M12(シナプス)というigengeneが低下し、M16(ミクログリア)が増加しているという、それらしい結果(Voineagu I, et al, Nature. 2011 May 25;474(7351):380-4)。WGCNAは今後死後脳の遺伝子発現解析で標準になるかもしれないと感じさせた。

ラルソンのグループは、ポリメラーゼγのノックインマウスに緑茶とブルーベリーの配合サプリメントを与える実験で、運動量が回復しただけでなく、毛の色まで治っており、目を見張るような改善。酸化ストレスのせいではないし、どうやって効いているかはわからないとのこと。ポスターでも天然物の効果を調べたものが目についた。

ポスターでは、プロピオン酸(腸内細菌の代謝産物)が自閉症の原因かもしれないという、初めて聞いた仮説の研究がいくつかあった。プロピオン酸血症、胎生期バルプロ酸暴露、ビオチン代謝異常などでプロピオン酸が関係していて、自閉症が多いためらしい。

ミトコンドリアターゲットシグナルをつけた制限酵素のTgマウスがパーキンソン病モデルとして報告された。ドーパミンニューロンでミトコンドリアDNAの欠乏が起きる。表現型はパーキンソン病によく似ている。

 

午後は、精神疾患とマイクロRNAのセッション

 統合失調症の強い危険因子である22q11.21欠失の領域にDGCR8というマイクロRNAの合成に関わる遺伝子があることから、統合失調症とマイクロRNAの関連が注目されていたところ、最近のGWASMir137がでてきたことから、統合失調症との関連がますます注目されるに至った。

 カライエルゴ教授の発表。1995年に統合失調症と22q11との関連を報告して以来、動物モデルを作成し、幅広い観点から解析すると同時に、de novo CNV, de novo point mutation (exome)の解析など、夫のゴゴス教授との共著でNature Genetics等に論文を連発している。元々学会にあまり参加しない上、当日突然キャンセルとなったこともあり、初めて聴くことができたが、やや神経質な印象で、発表が終わると他の人の発表も聴かずにいきなり帰ってしまった。こうでないと、あれだけの業績は出せないのか!?

22q欠失のモデルマウスで遺伝子発現解析をすると、減少していたのは欠失領域の遺伝子で、増えていた転写物のほとんどがマイクロRNAを含む領域であった(Starkら、Nature Genetics 2008)という。あれ、普通の抽出法ではマイクロRNAはとれないし、普通のマイクロアレイでmiRNAが出てくるはずはないではないか?と思って、(恥ずかしながら上記論文を読んでいなかったので)、どんなアレイを使ったのだろう?とホテルの部屋に戻ってから確認してみたら、Affymetrixの普通の3’を調べるアレイを使って解析を行っている。しかし、プローブセットの生データをマイクロRNAのデータベースとつき合わせて、重なるプローブをリストアップしたらしい。すなわち、増えていたというのは、miRNAそのものではなく、ポリA を持つPri-miRNAなので、普通の抽出法・解析法で引っかかったのだ。DGCR8の欠失によって、マイクロRNAが作れなくなり、その前駆体であるPri-miRNAが増えていたということのようだ。これだけでもため息が出る。最近は何でもアウトソーシングする傾向があるが、通り一ぺんの解析などをしていたら、こういう結果は出せないだろう。内容は、出版済みの内容が中心だったと思うが、やはり勉強になった。

 Dr.アクバリアンは、あまり関係ないヒストン修飾の話であったが、長くしゃべりすぎて肝心の臨床データを話す前に時間切れ。準備していたのは自閉症のデータが主だったようだ。

 スクリプス研究所の人たちは、スタンレーの脳でマイクロRNAを調べ、統合失調症と双極性障害で共通に低下しているものを抽出し、あるマイクロRNAに着目。この所見はハーバードの脳で確認。標的遺伝子の多くが発現上昇。その後はモデル動物における解析。フロアから、pHの影響について質問が出たが、pHを共変量にしても診断が有意、という返答だった。この仕事はポスター会場でも話題になっていた。

 

ポスター 

 オーストラリアの人が、統合失調症患者死後脳で次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析の結果を報告。その結果、免疫関連遺伝子の顕著な変化を見いだした。組織切片でIHCを行ったところ、HLA陽性細胞(おそらくマイクログリア)の数が増加。

これまでマイクロアレイではそのような変化はなかったけれど、と質問したところ、シーケンスの方がアレイよりはるかにダイナミックレンジが広く、リニアに測れる範囲が広いからだ、と述べていた。

しかし、スタンレーの先生にこの件を話したら、今までの形態解析ではミクログリアが多いなんていう所見はでてないと冷静に仰っていた。厳密に言うと、同様の報告をしているグループもあるのだが、一部のケースのようだ。神経病理研究が盛んだったころ、次々と統合失調症の病理所見が報告されたが、多くは死因に伴うものだった。新しい方法による研究でも、十分に注意が必要だ。(スタンレーとオーストラリアの脳バンクでは集め方が全く違う点も影響しているかもしれない。)

 DISC1家系の融合転写物を発現させると、ミトコンドリア膜電位が落ち、ミトコンドリアが断片化する。DISC1家系の人の血液細胞では融合蛋白は発現していないが、抗体の感度の問題かもしれないし、脳では発現しているのかも、とのこと。

 

企業展示

ゴルジ染色による形態解析を専門に引き受けている会社があった。固定脳ブロックを送ると、樹状突起の分岐数やスパイン数まで数えてくれるとのこと。(結局人手でやっているらしいが)(NeuroStructural Research Labs, http://www.neurostructural.org/)。

その他にも、in vivo two photon imagingによるスパイン形態解析を受託している会社(Neurotar)があって、びっくりした。

Mauna Kea TechnologiesNeuropakというin vivo共焦点顕微鏡はなかなかすごい。オリンパスのスティック型対物レンズは直径1.3mmであったが、こちらは光ファイバーを利用し、直径350mm。頭蓋に0.3gのインプラントを設置し、この直径350 mm のプローブを入れて蛍光撮影する。先端が45°になっていて、斜めに観察する感じ。長期間観察したい時は、毎日プローブを抜き挿しすれば良いとのこと。場所が同定できるかどうかはわからない。波長は488nmまたは660nmに固定。(コストダウンのため)。VTAAccumbensなどの観察のアプリケーションが報告されていて、深部の観察もできるかもしれない。

Pinnacle社のSleep Deprivation Systemは、脳波をモニターしながら、寝そうになったら床に設置した棒を回転させて起こす。このフィードバックつきのシステムが基本だが、脳波なしに一晩中動かしておくタイプもあり。これなら自作で作ったら安くできそう? この方法の良い点は、運動量がさほど多くならないこと。他にも、強制輪回し装置(Lafayette Instrument)も売られていて、断眠に使われるとのことであった。

ProteinSimpleという会社のキャピラリー電気泳動を用いたウェスタンブロットのシステムがあった。バイオアナライザーと同様、ブロットに見せるモードがあり面白かった。

MRコイルのInsightMRI社の話では、ラットは無麻酔でMRIがとれるとのこと。同じ音がする暗い筒に入れて慣れさせるのだそうだ。コイルの性能も良さそう。Bruker社のマグネットに使えるとのこと。BSIの装置はマウスで縦型だし、マウスでは無麻酔とはいかないが…。

Huron TechnologiesTISSUEscopeという装置は、NDPのコンフォーカル版のような感じ。ヒト脳切片のような大きなスライド(8”×6”)も使える。(2500万円くらい)

ハイスループット形態解析を受託している会社(NeuroScienceAssociates)があった。25個のマウス脳を一つのブロックに包埋し、25匹分を1枚のスライドグラスに載せて解析する「multibrain techlonogy」を使っている。「煮こごり」のような包埋後のブロックが強烈なインパクトであった。(http://www.neuroscienceassociates.com/) 脳を送ると染色までやってくれるが、染色を自分でやる場合、未染色で送り返してもらうことも可能。

さまざまな疾患のブレインリソースを供給する団体のブースもあった。

"National brain and tissue resource for parkinson's disease and related disorders"は、ArizonaBanner Sun Health Research Institute (BSHRI)およびMayo Clinic ArizonaNINDSのグラントがあたり、それに伴って脳試料の共有が行われる模様。死後時間平均2.8時間というFreshbrainである。精神疾患の既往もしっかり聞いてあるとのこと。

Maryland School of Medicineが、Autism患者の脳を提供しているとのこと。

http://medschool.umaryland.edu/BTBank/

 

月曜日朝のiPSのセッション。

マチャド・ジョセフ病のiPS細胞由来神経細胞の話。

レット症候群の4細胞の解析と、自閉症例のiPSについて。自閉症由来神経細胞も、レットと同様にシナプスが減っている。自閉症患者の細胞は歯から作っている。

今回の学会で最大の衝撃であったハイライトは、ホプキンスの神経科学のミン教授の報告。ホプキンスのディスク1家系の繊維が細胞をリプログラムして得た神経細胞のデータを報告した。ヒトのDISC1はスプライスバリアントが多く、同時に断裂しているDISC2は霊長類特異的であるなどから、ヒトで調べないといけない。こんなところに詳しく書くべきではないだろうが、とにかくすごいデータであった。

聴いている時はデータの美しさに圧倒されたが、よく考えてみると、既にわかっていることを確認したとも言える内容ではあった。これまでの精神疾患のiPS細胞研究は、プルーフ・オブ・コンセプト的なもので、これからが本番というべきかも知れない。すなわち、こうした解析で得られた知見が、一般の統合失調症に共通の細胞レベルのフェノタイプなのか、ということが問題になるだろう。そうした研究のために、クローン間の差の問題がどう克服できるかが問題だ。

 

ポスター

母子分離でMeDIPにより網羅的に海馬のDNAメチル化を調べた研究では、有意な変化が見られる遺伝子はなかった、とのこと。

逆行性トレーサーCTbを使って線維連絡を調べた研究。aPVTにはpPrLからの投射が多く、pPVTにはaPrLILinsularなどからの投射が多いという違いがある。PVTに投射するPrLの細胞体は、深部の第Y層に集中している。縫線核からの投射も見られる。SCNからの投射は少ないが、視床下部外側野からのオレキシンニューロンの投射もあまり見られないので、数が少ないだけかも。

 アレンが、Mouse Connectivityのデータベースを作った。(113日に公開された。なお、Human Brainもかなりパワーアップしている。GeneChipを用いた脳内分布の詳細なデータが見られる。)

 順行性トレーサーを使用。まずBDA(ビオチンデキストランアミン)を使用。次にAdeno-associated Virus (AAV)(tomatoEGFP)。最後に細胞種特異的にCreを発現したマウスに、逆位のEGFPloxと変異型loxで囲んだAAVをインジェクションする方法で、細胞種特異的に線維連絡を調べる方法も併用するなどの大プロジェクト。

 同じようなマウスコネクト−ムプロジェクトが他にもあり、こちらは順行性(PHA-L or BDA)と逆行性(Fluoro-Gold or Cholera toxin b)とを同時に注入している。(http://www.mouseconnectome.org/

 

まとめ

 会期の半分くらいのつまみ食いである上、この巨大学会である。「木を見て森を見ず」になってしまっただろうが、それはどの参加者も同じことだろう。

参加前は、ニューロサイエンス全体の動向を見てこようなどと思っていたが、とうてい無理だった。もはや、ニューロサイエンス全体について、浅く広く把握した上で、なおかつ自分の専門領域を深く知る、ということを両立させることは至難の業だと感じた。

それでもこの学会に存在意義があるのかどうか、筆者にはわからないが、これだけ多くの人が来ているのは、やはり魅力があるということだろう。何が魅力かというと、大教授よりも新教授のシンポジウム発表、教授よりも若手のポスター発表、という風に、若手の瑞々しさが印象的である。ナノシンポジウムなど、なるべく若い人たちにしゃべる機会も与えようとしているようであったが、若手の若手による若手のための会を目指すことが、学会成功の鍵かもしれない。