最近の論文
最近の論文については、以下のホームページをご覧下さい。http://www.brain.riken.go.jp/labs/mdmd/
Hayashi A, Kasahara T, Iwamoto K, Ishiwata M, Kametani M, Kakiuchi C, Furuichi T, Kato T (2007) The role of BDNF-induced Xbp1 splicing during brain development. Journal of Biological Chemistry. Sep 21 (epub) NEW
これまで小胞体ストレス反応は、血流が不足するなど、病的な状態で生じると考えられてきました。私たちは以前、躁うつ病に小胞体ストレス反応の障害が関係するという説を提唱しましたが、脳内で小胞体ストレスがどのような生理的役割を持っているのかは謎でした。林朗子博士は、さまざまな神経科学の実験技術を用いて、小胞体ストレス反応における重要な分子であるXBP1が、神経栄養因子(BDNF)刺激により活性化すること、BDNFによる神経細胞の突起伸展にXBP1が必要がであることを明らかにしました。BDNF刺激により、神経細胞の突起で活性化したXBP1は細胞核に移行し、神経突起の伸展に必要な遺伝子を増やす働きを持つと考えられ、XBP1が神経細胞の突起から細胞体へのシグナルとして働いていることがわかりました。今回の成果は、小胞体ストレス反応が、病的な状態のみに見られる反応ではなく、正常な神経の発達と機能に重要な働きを持つことを示しています。この成果により、今後、脳における小胞体ストレス反応の生理的意義とその病態の研究が更に加速すると期待されます。
Kuratomi G, Iwamoto K, Bundo M, Kusumi I, Kato N, Iwata N, Ozaki N, Kato T: Aberrant DNA methylation associated with bipolar disorder identified from discordant monozygotic twins. Mol Psychiatry 2007 (5月1日オンライン掲載)
以前、双極性障害に関して不一致な一卵性双生児の間で遺伝子発現に差のある遺伝子を探索した結果、XBP1とHSPA5などの小胞体ストレス関連遺伝子がでてきたという報告をいたしました(Kakiuchiら2003)。XBP1の配列やメチル化、コピー数などには差がありませんでした。それでは、一卵性双生児の間の違いの原因は一体何なのか?
この論文は、その続報になります。双極性障害に関して不一致な一卵性双生児の間で、DNAメチル化に差がある部分を全ゲノムレベルで探索した結果、PPIELと命名した遺伝子(シクロフィリンEのホモログをコードしていると推測されます)のメチル化が、患者さん側で低下していました。症例対照研究により、PPIELの低下が双極II型の患者さんのみで見られました。
これがバイオマーカーとなるのか? 原因に関係しているのか? これらは今後の研究にかかっています。
詳しくは下のサイトをご覧下さい。
http://www.brain.riken.go.jp/labs/mdmd/epigenetic/index.html
Kubota M, Kasahara T, Nakamura T, Ishiwata M, Miyauchi T, Kato T (2006) Abnormal Ca2+ dynamics in transgenic mice with neuron-specific mitochondrial DNA defects. The Journal of Neuroscience 26: 12314-24.
下にある躁うつ病モデルマウスを使って、その病態メカニズムを探求した研究です。
このマウスの脳内ではカルシウム取り込みが亢進しており、その原因はシクロフィリンDの低下と考えられました。
シクロフィリンDが、躁うつ病の創薬の標的分子になりうると考えています。
Kazuno AA, Munakata K, Nagai T, Shimozono S, Tanaka M, Yoneda M, Kato N, Miyawaki A, Kato T. (2006) Identification of mitochondrial DNA polymorphisms that alter mitochondrial matrix pH and intracellular calcium dynamics. PLoS Genetics 2: 1167-1176.
ミトコンドリアDNAには多くの個人差があり、病気との関連も色々言われていましたが、機能の変化を起こす多型は、技術的な困難があり、知られていませんでした。今回、ミトコンドリア内のカルシウム濃度に影響するmtDNA多型を、最新の技術を駆使して探索したところ、10398多型/8701多型がミトコンドリア内カルシウム濃度と関連していることがわかりました。
10398多型はもともと双極性障害との関連を私たちが報告した多型ですので、大変興味深いと思っていましたが、双極性障害と10398多型の関連については、その後十分確認されておりません。そのため、少し残念ではありましたが、プレスリリースでは長寿との関連の方に焦点をあてて発表することになりました。
http://www.riken.jp/r-world/info/release/press/2006/060811/
Kakiuchi C, Ishiwata M, Hayashi A, Kato T (2006) XBP1 induces WFS1 through an endoplasmic reticulum stress response element-like motif in SH-SY5Y cells. Journal of Neurochemistry 97:2:545-555
以前、双極性障害に関して不一致な双生児で、XBP1の発現量に違いがあることを示しました。XBP1は転写因子であるため、神経細胞での標的遺伝子を探索するため、神経芽細胞腫細胞にXBP1を発現させ、マイクロアレイ解析を行いました。その結果、もっとも増えた遺伝子が、WFS1でした。これは、元々ウォルフラム病の原因遺伝子として知られていた遺伝子で、この遺伝病がしばしば気分障害を伴うことから、気分障害との関連も示されていました。この結果は、XBP1-WFS1系と気分障害の関連を示すものと考えられます。
Kasahara T, Kubota M, Miyauchi T, Noda Y, Mouri A, Nabeshima T, Kato T (2006) Mice with neuron-specific accumulation of mitochondrial DNA mutations show mood disorder-like phenotypes. Molecular Psychiatry 11:577-593
これまでの研究で、双極性障害患者の脳内にミトコンドリアDNA異常が見られる場合があることや、ミトコンドリア遺伝子異常が蓄積するミトコンドリア病で気分障害を伴うことがあることが知られていました。その因果関係を証明するため、脳内にミトコンドリア遺伝子の異常が蓄積するマウスを作製しました。その行動を詳細に解析した結果、このマウスはいくつかの異常行動を示すことが明らかになりました。例えば、マウスは夜行性の動物ですが、このモデルマウスは、明るくなってもしばらく動き続け、暗くなる前に動き始めるという行動異常を示しました。また、普通のマウスでは見られない、性周期に伴った顕著な行動量の変化も見られました。これらの行動異常は、リチウムの投与により改善し、また双極性障害患者に投薬すると症状が悪化する三環系抗うつ薬によってより顕著になりました。これらの結果から、ミトコンドリア機能障害と双極性障害の関連が示唆されます。今後、この躁うつ病モデルマウスを用いた新薬開発が行えればと思っています。
http://www.riken.go.jp/r-world/info/release/press/2006/060418/index.html