Q: 光トポグラフィーで双極性障害とうつ病が鑑別できるのでしょうか?

 

 新聞やテレビで、光トポグラフィー(NIRS)で双極性障害とうつ病が鑑別できると報道されています。先進医療にも認められていると聞きました。これからは、光トポグラフィー検査で診断するようになるのでしょうか?

 

A: 光トポグラフィーは、近赤外スペクトロスコピー(NIRS)とも呼ばれています。

目に見える光より波長が短くて目に見えない光を紫外線、波長が長いために目に見えない光のことを、近赤外光と言います。近赤外光は、皮膚や骨を通過しやすく、安全なので、さまざまな形で医学の中で応用されています。

 1977年、ヨブシス博士は、この近赤外光を脳に当てて、跳ね返ってきた光を調べることによって、脳内の酸素化ヘモグロビンを測定することができると報告しました(Jöbsis FF. Science 198: 1264-7, 1977)。この原理を用いて、脳の中の血液量を測定することができると考えられ、この原理に基づいて脳の血液量を測定する装置が日本の会社を中心にいくつかの会社により商品化され、研究や臨床に使われるようになりました。

 先進医療で認められているのは、うつ状態の患者さんに、光トポグラフィー装置のプローブを装着し、例えば「た」で始まる言葉を出来る限り多く言ってもらう、といった課題(「言語流暢性課題」)を60秒間行ない、その間の前頭葉や側頭葉における脳血液量変化を測定するものです。そして、この先進医療に、うつ症状の鑑別診断「補助」と書いてある通り、診断法という訳ではありません。

 双極性障害やうつ病の原因が明確でない現在、その病態を直接調べる検査は、未だ実現していません。今でも、面接による診断こそが最終的な診断法です。

私たち精神科医は、面接の際、お話の内容だけでなく、話の速度、声の調子、話す時の表情など、全体を把握して、診断に役立てていますが、この検査では、「た」で始まる言葉を言ってください、とお願いした時に、患者さんがどのように応答するかを、「たんぼ、たぬき…」といった言葉の内容でなく、答えている時の脳の活動の変化に着目して調べることになりますので、脳内の血液量の変化を見るというのは、同様の意味があるのかも知れません。

しかし、多くの場合、患者さんはすでに服薬をしており、精神科の薬の多くが脳の血流反応性に影響する可能性があるので、この方法で得られたデータは、症状を反映している可能性もありますが、薬による影響を受ける可能性があります。

この方法で診断ができる、というものではないとお考えいただいた方が良いと思います。