第8回国際双極性障害会議参加記(ピッツバーグ、2009年6月25-27日)
ピッツバーグで開かれた、8th International Conference on Bipolar Disorder(ICBD)に参加した。
1999年のICBDでInternational Society for Bipolar Disorder(ISBD)が設立され、同年その機関誌Bipolar Disorderが発刊された。2004年のシドニー以来、ISBDの会議が隔年(Biennial)に世界各地で開かれているが、ICBDも引き続き開かれている。両者は密接な関係がありつつ別の会議である。ICBDはアメリカの国内学会に近い位置づけなのだろう。
今回は、会期中、日本うつ病学会がISBDに加盟することを認めてもらう会議が開かれるが、日本うつ病学会双極性障害委員会の神庭先生が同時期にパリで行われているWFSBPに参加されるため、代理で出席するのが主たる目的であった。その他、Bipolar Disorderの編集会議、来年のISBDシンポジウムの打ち合わせ、自分のポスター発表、そして双極性障害に関する情報収集などの目的で参加した。
シカゴでピッツバーグ行きに乗り換えたが、マイアミからの到着便が天候不順で遅れ、飛行機のシカゴ出発が2時間遅れた上、ピッツバーグ空港からのエアポートシャトルが、たった1人の地元客を降ろすため、町とは全く逆方向に山越えをして遠回りした挙げ句、本来30分もかからないところを1時間15分かかるというアクシデントがあり、参った。(後で同乗者と学会で出会い、文句を言い合った) 深夜でなければ、山中のくねくね道のドライブも楽しめたかも知れないが…。まあ、学会場のホテルに行く人が4人いたので、山中に連れて行かれて最悪の目に遭うのでは、という恐怖が緩和されただけでも良しとしよう。
ちなみに、帰りもシカゴ空港で飛行機が5時間半遅れて帰宅が深夜になってしまい、散々な旅ではあった。
本会議は、44カ国以上から850名以上が参加しており、参加国は過去最大とのこと。3日間のうち最初の2日は主として研究者、医師向けで、最後の1日は主として医師、心理士、当事者などを対象としたものである。
1日目の最初のセッションは、Genes and Circadian Rhythmであった。
最初のColleen McClungは、双極性障害のリズム仮説に基づき、Clock変異マウスを双極性障害モデルマウスとして解析しているという話であった。多動、睡眠減少が見られ、薬物自己投与などの報酬に感受性が高い。不安傾向(オープンフィールド、高架式十字迷路)および強制水泳での無動時間短縮などもみられ、これらはリチウムで改善した。また、ドーパミンニューロンの発火亢進が見られ、リチウム投与で改善した。ここまでは既報(Roybal K, et al, PNAS 2007)の内容であったが、その後はunpublished dataとなり、ClockのshRNAをAAV(アデノ随伴ウイルス)に組み込み、VTA(腹側被蓋野)に打ち込むという実験の話であった。このマウスでも、Clock変異マウスと同様の不安傾向と多動が見られたが、強制水泳では逆に無動時間が延長した。彼女は、一つの遺伝子の操作で躁とうつの両方の行動が誘発されることは興味深い云々と説明していたが…。また、サーカディアンリズムの周期が短縮し、amplitudeが変化(増加?)するなどの変化も見られた。その他、Clock変異マウスのVTAのマイクロアレイのデータも出しており、THの増加、CCK、K+チャネル、GABA受容体の減少などが見られたという。会場から、性行動は測らないのか、との質問があり、ラットはsexualにactiveなので測りやすいが、マウスは研究しにくいと言っていた。また、躁、うつを反復する訳ではないのでは、という質問があり、ストレスをかけたりして、そのような表現型がでないか試しているが、今のところ見られないとのことであった。
次のAllison Harveyは睡眠の話で、双極性障害ではエピソード間にも睡眠障害があり、REM densityや1st REMの長さの異常が見られることなどを総説し、Social Zeitgeber Theoryを紹介した。ライフイベントは、生活リズムの破綻を招き、サーカディアンリズムが崩れ、躁・うつにつながるという、まあ常識的な説。質疑応答の中では、深夜にPCに向かったりするのも、PCの光がサーカディアンリズムに影響したりするのでは、という話も出た。
Dr. Francesco Benedettiの話はリズム関連遺伝子多型とさまざまな臨床パラメータの関連の話で、CINPで聴いた内容であったが、断眠による感作の動物実験の話も紹介した。この論文は興味深いと思っていたが、この人の論文とは気づかなかった(Benedetti F, et al: Behav Brain Res. 187(2):221-7, 2008)。
さて、本学会最大のニュースは、フランス、INSERMのMarion Leboyerの発表である。
Marion Leboyerは初めて見た人であったが、その後のBipolar Disorder誌の編集会議、ISBDバイオマーカーコンソーシアムなどに全て参加していて、Lakshmiの話では、ワインを飲まずワーカホリックという、フランス人とは思えぬ人で、フランスで双極性障害学会を立ち上げるとしたら彼女だろうとのこと。双極性障害の他、自閉症、統合失調症など何でもやっており、NLGN3/4など、自閉症の遺伝学でかなりの実績を上げてきた人である。現在、NLGN変異を持つ自閉症モデルマウスを解析中らしい。(NLGN論文の1st authorのJamain氏も参加していた。彼の発表なら見たことがある)
彼女は、「Hormone of Darkness」であるメラトニンに着目し、生体リズムと双極性障害の関連が指摘されており、双極性障害におけるメラトニン分泌低下の報告もあるのに、これまでこの系がほとんど調べられていないことに着目し、遺伝子解析を行った。
合成系 ASMT、AANAT
分解系 INDO (indoleamine 2,3-dioxygenase)、
INDOL1 (indoleamine 2,3-dioxygenase-like 1)
受容体 MTNR1A、MTNR1B
について調べた。今回は予備的な報告として、双極性障害患者350名、対照群255名全員でASMTをリシーケンスした結果を報告した(なお、AutismとASMTの関連を最初に報告したのも、彼女を含むフランスのグループである。) 見いだした変異は機能解析を行った。
その結果、患者の2.6%(10名)に機能変化を来す変異を見いだした。一方、対照群では3名であった。患者で見られた変異のうち、8種類は、対照群には1人も見られなかった。変異の見られた患者は、70%が男性で、BPIが多く、FHを伴う者、発症年齢の若い者が多かった。また、SNP解析も行い、ハプロタイプと相関が見られ、このハプロタイプを持つ者ではリンパ芽球でASMTのmRNAが低下し、活性も低下していた。
その他、若年発症双極性障害でGWASを行い、AANATは関係がなく、変異探索でも変異はみつからなかったという。
次のセッション半は、Neuroscience -Cognition and Psychosisであった。
最初の2題は認知機能障害の話で、双極性障害では認知機能障害がOutcomeとよく関係すること、精神病症状だけでは説明できず、状態依存性だけではなく、素因依存性の面があることなどが紹介された。具体的には、CPTを改良したRapid Visual Information Processing Testなどが注意障害のマーカーになるのではないかという話であった。フロアから、双極性障害では不眠があるので、不眠による注意障害と区別ができるのか、という質問があり、不眠は他の病気でもあるから云々と答えてはいたものの、説得力はなかった。確かに、特に注意の問題となると、こうした問題は無視できないだろう。
次は、Francine Benesの話を初めて聴くことができた。内容はもちろん、統合失調症と双極性障害におけるGABAニューロン減少の話で、PNASのダイセクションの論文(Benes F et al, PNAS 105: 20935-40, 2008)のデータを中心に話した。セルサイクル関連遺伝子は双極性障害では低下、統合失調症では上昇となっていたが、セルサイクル遺伝子はDNA修復にも関係するので、双極性障害ではDNA修復の異常がGABAニューロンの異常に関係しているのでは、と述べていた。
Manjiは、BAG-1とBcl-2の話を中心にした。双極性障害のリスク、およびうつ病に治療反応関連遺伝子として同定されたBcl-2のリスクSNPは、micro RNAの結合に影響し、Bcl-2蛋白量の変化を介して、ThapsigarginによるCa2+反応に影響を与えるとのことだった。一方、BAG-1がBcl-2に加え、グルココルチコイド受容体とも相互作用することから、両者の系に着目し、McEwenとの共同研究により、コルチゾールは低濃度だとミトコンドリアCa2+濃度を上昇させ、ミトコンドリア機能を改善させ、高濃度だとCa2+を低下させてミトコンドリア機能を障害する、というようなことを報告した。(何で測ったのか見損ねた)。また、BAG-1のKOマウスは、LHになっても早く回復するという変化があった。Bcl-2のヘテロマウスは、LHになりやすかった。
午前中のシンポジストは8人中6人が女性。とにかく女性の活躍が目立つ学会である。
Dr. Inselは、NIHを代表して講演し、双極性障害の社会負担の大きさ(DALYのデータ)などを強調し、研究の重要性を語った。その中で、遺伝学としては、Low frequency variants with incomplete penetranceの遺伝子がこれからは重要というだという話をしていた。また、NIMHでは、2011年までに双極性障害患者のDNAを20000人集める計画だという。彼の話で印象的だったのは、「第15回ICBDにはこんなに人は来ないだろう。今、ポリオや結核の学会にこんなに人は集まらない。克服できれば、皆の関心も薄れる」という言葉だった。その通りだと思う。ここに双極性障害という、未だ克服できていない病気があるのです、ということから主張していかなければならないのが日本の現状である。
次の時間はワークショップということで、7つの会場に分かれたセッションが行われた。
T1. Pediatric Bipolar Disorder
T2. Novel Therapies
T3. Bipolar Depression-Status: Use of Antidepressants
T4. Psychosocial Updates/Integrated Treatment
T5. Lithium : The Comeback Drug
T6. Advancement of Peer Support Services
T7. Recovery Oriented Services
どれも興味深いが、一つしか出られないので、Dr. Michael Berkによる、「Novel Therapies」に参加。
病態生理に応じた治療
心理社会的介入
ライフスタイル介入
の3項目について述べられた。最初の項目では、ミトコンドリア機能障害仮説(筆者の総説のスライドを出してくれていた)および酸化ストレス仮説に基づいた、抗酸化剤N-アセチルシステイン(NAC)治療を中心に述べた。NACは、最初統合失調症の試験が行われたが、臨床評価の改善項目が、意欲、気分、誇大性などであったため、むしろ双極性障害に有効なのではないかと発想したとのこと。その結果、双極性うつ病に対する二重盲検比較試験で、有意な改善が認められた(Berk M, et al, Biol Psychiatry. 64: 468-75, 2008)。
その他、Celecoxib、Omega-3、タモキシフェン、カルシトニンについてごく簡単にふれていた。
ライフスタイル介入については、うつ病の運動療法のことにふれていた。また、子供の頃に活動性が低かったことが双極性障害のリスクにつながるというデータも紹介された。(これは因果関係が逆の可能性もあるだろう)
また、双極性障害患者ではたばこを吸う人が多く、喫煙者はうつ病になりやすいというデータがあることも紹介された。
また、食事としては、魚や、葉酸摂取の話があった。食事を、西洋食、通常食、野菜中心食の3群に分けると、通常食が最もうつになりにくいのでは、という予備的なデータが示された。
以前、Dr. Berkが筆者の研究室を訪問された際、NACのように、既にサプリメントとして発売されている物質だと、製薬会社が開発に乗り出さないので、医薬品としての承認は難しいのでは、と尋ねたところ、確かにその通りだが、インターネットで買えるのだから、買って飲めば良いじゃないか、と仰っていて、眼から鱗が落ちる思いであった。確かに、保険適応になって3割負担になるまで使えない、と決めてかかることはないのかも知れない。薬事法もあるし、慎重にしなければならないが。
1日目に行われた、ISBDの支部会議(Chapter meeting)では、特に議論もなく、Japanese Society of Mood Disorder(日本うつ病学会)の加盟が認められた。今回の会議での加盟国は、日本の他、ポルトガル、アルゼンチン、コロンビアであった。日本には、むしろ早く入って欲しかったという印象であった。韓国のDr. Kyoooseob Haが、Asian Network of Bipolar Disorder のことを説明し、ISBDが偶数年なので、ANBDは奇数年に開催する、と説明した。筆者は、Japanese Society for Mood Disorderと双極性障害委員会の活動について説明し、ISBD加盟学会と明記することで、双極性障害に関心を持つ人が日本うつ病学会に入ってくれるようになると期待している、と述べた。
会長のDr. Michael Berkより、ISBD会議への参加や会費を負担してくれるスポンサー探しに協力してほしいとの話があったが、企業との関係は難しい問題であり、国によっても事情が違うという意見がコロンビアの人から出て、トーンダウンした。会長と次期大会長のDr. Flavio Kapczinskiから、サンパウロにぜひ来てくれ、と要請があった。
1日目、会場で久々にHusseini Manjiと話すことができた。1日目の午前中のみで帰らねばならないとのこと。Johnson & Johnsonでは、CNS全体の統括をしているので、アルツハイマーなどの仕事もあり、双極性障害だけに肩入れする訳にはいかないそうだ。現在は、ラボからは遠いが、各地のラボを管理しているとのこと。創薬研究で、理研とも連携しましょうと言っていた。彼のNIMHのラボは、今はとりあえずWayne Drevetsが管理者となっており、皆ふつうに実験してはいるが、移り先を探しているようだ。
2日目は、「Development and Imaging」「Suicide」の2つのセッションがあった。前者では、Hilary Blumbergが、双極性障害は、扁桃体と腹側前頭前野の発達のバランスの問題であるということを、volume、fMRIのデータなどを元に述べた。患者では、扁桃体の体積は減少しているが、感情を伴う表情刺激に対する扁桃体の反応は亢進している。気分安定薬により、両方が改善する。双極性障害では、GABA系の低下によりグルタミン酸が優勢となっているために、神経毒性が…というような考察をしていたが、まあ、言い過ぎだろう。
Wayne Drevetsは、コリン仮説に基づいて行われたTZTP-PET(ムスカリン2受容体のイメージング)のデータを提示し、M2受容体のSNPと診断の交互作用を認め、リスクのTT型の患者のみでM2受容体がACCで顕著に低下している、というデータを示した。しかし、少ないNで様々なサブ解析をしていて、まあ、どうだろうか。
Mary Phillipsは、happyな表情の刺激に対するfMRIのデータで、うつ病ではDMPFCと扁桃体が負の相関であるのに対し、双極性障害では相関がないなど、双極性障害ではDMPFCと扁桃体の間にディスコネクションがある、と述べた。
Carrie Beardenは、双極性障害不一致一卵性双生児で、患者、非罹患者で共通に、BA8,9,10,47が小さいと報告した。BA47(右前頭葉眼窩回)は、behavioural inhibitionにかかわる部位として注目されるという。
(ちなみに、Behavioral inhibitionというのは、以前からよくわからず、未だに十分理解できていないのだが、「Perspectives on Behavioral Inhibition」という単行本によれば、「子供では恥ずかしがり(shyness)、動物では回避(avoidance)としてしばしば示され、幼年期の初期に観察される。最近の研究によれば、極端な例では、よくわからない出来事に対する接近するか避けるかの傾向は、小児期後期まで続き、遺伝の関与が示唆される、特定の生物学的メカニズムにより維持される」とのことで、やはりよくわからない。日本の普通の子供はアメリカでは「行動抑制」だと異常扱いされてしまうのだろうか。)
自殺のセッションでは、David Brentが、Course and Outcome of Bipolar Youth (COBY) studyというプロジェクトの結果を紹介した。結果は、自殺企図歴や虐待歴、自殺の家族歴などが自殺の危険因子だとか、自殺者の7割は治療中だとか、よく知られている内容である。
Jan Fawcettの話も、自殺に関して、衝動性や不安が自殺のリスクになるなど、常識的な内容であったが、1990年に行われた、数少ないプロスペクティヴ研究の結果 (Fawcett J, et al, Am J Psychiatry. 1990 Sep;147(9):1189-94.)では、954名の気分障害患者の前向き研究の結果、自殺と関連する9つの因子が同定された。うち6つ(パニック発作、重度の精神不安(severe psychic anxiety)、集中減退、全不眠(global insomnia)、中等度のアルコール乱用、重度の興味・喜びの喪失(アンヘドニア)は1年以内の自殺と関連し、3つ(重度のhopelessness、希死念慮、以前の自殺企図歴)は、1年後の自殺と関連していたという。
また、入院患者の自殺を調べた研究(Busch KA, Fawcett J, Jacobs DG. Clinical correlates of inpatient suicide. J Clin Psychiatry. 2003 Jan;64(1):14-9.)では、78%が希死念慮を否定していたという。
本人も双極性障害を患っており、大著Manic Depressive Illnessの著者の一人としても知られるKay R. Jamisonは、「The phenomenology of mixed suicidal states」として、Byron等、著名人の書き残した文章から、混合状態における自殺の問題を論じた。筆者のような英文学の素養のない者にとっては少々ハードルの高いレクチャーであったが、会場はかなり湧いていた。
Maria Oquendoは、リチウムとバルプロ酸の自殺予防効果のRCTを報告した。うつ状態、あるいは混合状態の双極性障害患者104名がエントリーし、ランダム化した。倫理的配慮から、プラセボは使わないこと、なるべくエンドポイントを早くすること(計画性のある希死念慮、薬の変更や入院)など工夫したという。対象患者は、HAM-Dにして平均30以上という、通常の臨床試験よりはるかに重症の患者である。その結果、35%で1年以内に企図が見られ、リチウム群(15名)、バルプロ酸群(18名)で差はなかった。また、両者の抗うつ効果には差がなかった。ただし、若年者では両群に差がないが、40歳以上の者では、リチウムに抗自殺効果が見られ、これまでの同様の研究が比較的高齢患者を対象としていることから、結果は一致しているのではないかと述べた(Baldessarini RJ, et al, Bipolar Disord. 2006 Oct;8(5 Pt 2):625-39)。
2日目の昼は、Bipolar Disorderジャーナルの編集会議があった。2008年のインパクトファクトが、3.959と、前年(4.442)よりやや減少したということで(誤差範囲だと思われるが)、あまり威勢のよい会議ではなかったが、雑誌の評価の問題など、興味深い議論が行われた。この雑誌は特定の疾患を対象としていることから、最初からトップクラスをねらう必要はなく、ベスト10入り(現在psychiatryで13位)を目指そうという話になった。
編集側から、投稿者がInformation for authorsをちゃんと読んでいないし、引用法も前に投稿したジャーナルのままだったりするし、見ればすぐわかるような間違いだらけ。私たちが懸命にチェックしていますが、自分たちで何とかしてください、と悲鳴が上がった。
また、利害の抵触(COI, conflict of interest)についても話合われ、全て書け、という意見と、娘の友達が××で…とか書き出したらきりがないだろうし、全て書くといってもどこまでが全てかわからない、という意見とがあった。あるCOIを書かないのはまずいとしても、ないCOIを書いたら問題なのか、問題ないなら全ての会社を書いてやろうか、などとブラックジョークを言う(自らのCOIはかなり多そうな)人もいた。
また、フリーアクセスについても議論され、現在はフリーアクセスがトレンドだが、google検索の結果はジャンクばかりで、無料の情報はそれなりの情報でしかない、という意見もあった。
最新のISIのJournal Citation Reportで、インパクトファクターに加え、5-year impact factor、Eigenfactor、Article Influence Scoreという3つの新指標が導入されたという話題も取り上げられた。5Y-IFは、引用期間がこれまでの2年では短すぎるということで導入された指標であるが、これに変えても、順位にはそれほど大きな変動はないようだ。一方、Eigenfactorは、たくさん引用文献を連ねている文献に引用されることはあまり重視しない、自己引用は数えない、重要な雑誌に引用されることを重視する、などの哲学により数えられているが、計算法は数学者でない限り理解できないだろう、という話であった。総引用数が多い雑誌が有利となり、レビューはあまり貢献しない。分野間の差異を調整している。このように、全体にIFの問題点をほとんどクリアするようにデザインされている。JCRのEigenfactorは、合計が100になるようになっていて、トップのNatureが1.8である。
このEigenfactorで算定すると、雑誌の格付けはIFとは劇的に変化するが、IFに比べて、かなり我々の感覚に近い。
例えば全分野のトップは、IFだと「CA-CANCER J CLIN」だが、EigenfactorだとNATUREである。
Neuroscieceの領域では、IFだとトップはANNU REV NEUROSCIだが、Eigenfactorだとトップは何と、Journal of Neuroscienceである。IFだとJournal of Neuroscienceの評価が異常に低いのが以前から気になっていたので、なるほどという感じではあるが、NeuronやNature Neuroscienceより上とは、少々行き過ぎの感もある。
両方とも併用することで、それなりの評価になるのではなかろうか。
ちなみに、筆者のかかわっている日本の雑誌、Psychiatry and Clin Neurosci (Psychiatryで 74位 -> 62位)、Neurosci Res (Neuroscienceで84位 -> 68位)は、いずれもEigenfactorの方が高く、めでたいことだ。
逆にBipolar DisorderはEigenfactorだと下がってしまう(22 -> 27)ので、出版社の作成した資料では、「自分の雑誌のランクが上がる人は、大喜びでこれらの指標を歓迎するだろう」という皮肉な書き方になっていた。
午後は、
F1. Mixed States
F2. Adolescents and Young Adults
F3. Cognitive Behavioral Therapy
F4. Family-Focused Treatment
F5. Interpersonal and Social Rhythms Therapy
F6. Psychoeducation
F7. Life Goals Collaborative Care
F8. Cognition
F9. Cultural Competence: Underrepresented Populations
F10. The Clinical Appointment: Better Preparation Equals Better Outcomes
の10のセッションに分かれたが、筆者はInterpersonal and Social Rhythm Therapyのワークショップに参加した。
前述のSocial Zeitgeber Theoryと、双極性障害ではSocial Zeitgeberの変化に対する脆弱性があること(断眠による躁転など)から、双極性障害患者では、「Supra Normal Rhythm」を保つ、すなわち、超規則的な生活をすることが必要と説く。印象的だったのは、これは糖尿病の食事療法と同じだという説明であった。インシュリン分泌系、インシュリン感受性に問題のない人は好きなように食べても構わないが、これらの系に脆弱性を持つ人は、Supra Normalな食生活が必要、という訳だ。具体的な方法については、10年前に聴いた時と大差はなく、毎日の5つのイベント(起床、初めて人と会う、仕事を始める、夕食、就寝)の時間などを記録したのち、現実的な目標時間を決めて、これに従った生活を送るようにして、目標時間との差をモニターしながら修正していく、というものであった。
IPT部分はうつ病と大差ないが、Griefの中に、「Grief for the Lost Healthy Self」が入っているところがBipolarらしい部分であった。なお、ペンシルバニア州では、年間20回までの心理療法セッションが保険(民間)でまかなわれることが多いが、双極性障害は重症ということで、さらに20回が認められる、という話であった。
その後は、Rapid Communicationのセッションであった。
Colm McDonaldは、11施設から患者321名と対照群442名のデータを集めて、MRIの体積測定のメタ分析を行い、左側頭葉の増加、右尾状核の増加、左側脳室の拡大が見られたと報告した。扁桃体と海馬は、リチウム服用者で体積が大きく、研究間の不一致は、リチウム服用者の率でよく説明できるとした。
Nick Craddockは、CACNA1Cがうつ病と統合失調症とも関連していることを報告した。逆に、統合失調症で報告されたZNF804Aは双極性障害とも関連していた。CACNA1Cと関連する臨床パラメーターをBipolar Affective Disorder Dimension Scale (BADDS)を用いてロジスティック解析した結果も併せて、CACNA1Cは疾患というよりも、うつの側面に関係しているのでは、と結論していた。
何人か、不在の演者がいて、司会のDr. Samuel Gershonが、美しいピッツバーグの自然に魅せられた人がいるようで、などと切り抜けていた。
Chistopher Bowieは、神経認知障害について報告し、認知機能障害が再発と関係しているという話をした。
その後のポスターでも、認知機能障害を調べた報告は多かった。認知リハビリテーションにより改善する、という報告もあった。これがstateかtraitか、残遺症状なのか、睡眠の影響は、薬の影響は、など、何一つはっきりしていなくて、とりあえず、認知機能のテストをすると成績が低い、という以上のことは何もわかっていないという印象であった。全体に、双極性障害でNeurocognitive Functionの研究をしている人たちは、こうした検査をすることで何を調べたいのか、病態との関係をどう考えているかなどの哲学が希薄な印象を受けた。
ポスターでは、リンパ球でBDNFのメチル化を調べたPetronisグループのポスター、嗅粘膜の神経上皮でアポトーシス感受性が亢進していることを示した報告(P78)があった。以前にプレス発表された、ウリジンが双極性うつ病に有効、という試験結果も報告されていた(P167)。また、双極性障害患者10名のリンパ芽球をリチウム存在下で培養した結果、GPCRシグナリング関連遺伝子などが変わっていたという報告(P133)もあった。また、アリピプラゾールの臨床試験は、双極性うつ病に有効ではないという結果に終わってしまったが、その二次解析で、低用量(5-10mg)では有効という結果だった、という発表もあった(P141)。
その他、双極性うつ病患者のリンパ球でマイクロアレイを行い、最も変化していたカテゴリーはミトコンドリア関連であった(P16)、双極性障害患者では感情を伴う表情を見た時の瞳孔拡大が長く続く(P81)、若年発症双極性障害患者468名のWGASで12p12と5p13のイノシトール系関連遺伝子が出てきた(P98、前述のLeboyerグループ)などの報告があったが、下調べの不足で気づかず、発表者とのdiscussionはできなかった。
最終日の朝7時半には、Flavio Kapczinski、L. Trevor Youngの主催による、ISBDのバイオマーカーコンソーシアムの会議があり、多くの国から10数名が集まり、議論した。バイオマーカーについては、NIHの公式な定義が存在する("a characteristic that is objectively measured and evaluated as an indicator of normal biologic processes, pathogenic processes, or pharmacologic responses to a therapeutic intervention.")。現在、双極性障害では、炎症関連マーカー(IL-6、IL-10)、酸化ストレスマーカー(TBARS
など)、BDNFなどが報告されている(とYoungグループのAna Cristina Andreazzaが述べた)が、いずれもstate dependentなマーカーである。まずは、双極性障害におけるバイオマーカーの現状と展望についての総説をまとめることになり、Marion Leboyerから、1. At risk, 2. Diagnosis, 3. Follow up, 4. Treatment responseの各領域のマーカーを総説しよう、という提案があった。
午前中のセッションは、
S1. Schizoaffective States
S2. European Network of Bipolar Research Expert Centers (ENBREC)
S3. Bipolar Spectrum and Bipolar II Disorders
S4. Sleep
S5. Health Literacy and Peer Mentoring: Improving Life Expectancy
S7A: Interpersonal and Social Rhythms Therapy
S7B: Cognitive Therapy
S7C: Family-Focused Therapy in Adolescents
であったが、S3のBipolar Spectrumのセッションに参加した。
MayoのMark A. Fryeは、現状では双極II型障害の治療をどうすべきか我々は基本的な疑問に何も答えられない、と問題提起した。
双極II型に限定した臨床試験は、AmsterdamによるFluoxetineおよびVenlafaxineの単剤治療に関する一連の論文がある。これらの論文によれば、抗うつ薬単剤で大うつ病と同様に有効であるという。一方、躁転が多いというデータもあるものの、これは臨床的に意味のあるものではないとされている。しかし、症例数が少なかったり、同じ試験が別の論文として様々な形で報告されていたりするので、解釈には注意が必要である。
また、抗うつ薬による躁/軽躁へのスイッチ率は、Bipolar IIでは:I型より少ないという報告もある(Altshuler LL, et al. Am J Psychiatry. 2006 Feb;163(2):313-5)。
また、最近のクエチアピンの臨床試験の成績をI型、II型に分けると、II型でも有効であった。
双極スペクトラムの定義に関しては、盛んに議論が行われており、閾値下の軽躁状態をどうとらえるか、期間は4日より短くても良いのではないか、うつ状態と伴わないpure hypomaniaはどうするかなどの議論がある。期間を短くしたら、現在より多くの人が双極II型と診断されるだろうと述べた。また、うつと双極の間には連続性があり、焦燥うつ病、energized depressionなどもある。
うつ病に対する抗うつ薬治療で躁転した人は、うつ状態時にわずかな(YMRSにして平均4点)躁の徴候があった(Frye M et al., Am J Psychiatry 2009)。具体的には、精神運動亢進、言語促迫、観念奔逸など。
Trisha Suppesは、Mixed Hypomaniaという概念(Arch Gen Psy 2005)を紹介した。単純にYMRSでもHAM-Dでも高い人、という基準である。
その後、議論になり、筆者は、現在でも双極II型の評価者間一致度は低いのに、これ以上閾値を下げたら臨床が混乱するのではないか、と質問した。Fryeは、確かにreliabilityのことは考えないといけない、これから議論する必要がある、と述べつつ、双極II型障害の診断は信頼性があるとする論文 (Simpson SG, et al, Arch Gen Psychiatry. 2002 Aug;59(8):736-40) もある、と述べた。その論文は、同時に面接に入った二人の診断が一致したという話で、かかる医師によって診断が一致するかどうかとは違うのでは、とでも言えば良かった。
終了後、Dr. Postに声をかけられ、君の言う通りだ、Bipolar IIを広くするなんてナンセンスだ。Bipolar NOSで十分だろう。信頼性の問題だけでなく、統計も無茶くちゃなことになる、と仰っていた。同じ考えの人もいると知ってほっとした。しかし、DSM-Vでは、もっと双極II型が広がる方向に行く可能性が高いだろう。
次は、Clinical Trialsのシンポジウムであった。
まずはGuy Goodwinがイントロの話をした。
昨今の臨床試験では、CRO(Contract Research Organization、医薬品開発業務受託機関)患者(治験プロ患者)の増加、出版バイアスなど、さまざまな問題が指摘されている。
臨床試験には、Efficacyを調べる試験(プラセボ対照、二重盲検)と、Effectivenessを調べる試験(real world patientsを対象とする)があるが、前述のような問題があることから、後者への関心が高まっているという話をされた。
そして、次に、John Geddes(UK)が、まさにそのようなreal worldの臨床試験である、BALANCEについて報告した。459名のうち、330名(平均43歳)がランダム化まで進み、リチウム(0.4〜1.0mM)、バルプロ酸(〜1250mg)、両者併用の3群(各群110名)にランダム化し、2年間の期間で、Time to first intervention to mood episodeをエンドポイントとした試験。ランダム化はするが、盲検ではない。90%は英国だが、米国、フランス、イタリアも参加。シンプルで現実的なプロトコールにする代わり、サンプル数を多くする、というコンセプト。Li+VPA>VPA単剤(HR=0.59, p=0.002)、Li>VPA(HR=0.71, p=0.05)、Li+VPAとLiの間は有意差なし(HR=0.82, p=0.27)、という結果であった。最後のスライドで、資金提供にSanofi-Aventisの名があった。演者は、結論で、「併用療法が最も良いことがわかった」と何度も述べたが、フロアから、「素直に結果を見ればリチウムが良いということではないか。なぜ併用療法を勧めるのか」という鋭い質問がとんだ。
Eduard Vietaは、躁状態に対する臨床試験のメタ解析の結果を総説した。定型(第一世代)抗精神病薬と非定型(第二世代)抗精神病薬(SGA)との比較では、効果に差はないが、risperidoneを除くとSGAの方が良い(p=0.03)。うつ転は定型の方が多い(p=0.003)。
躁病の臨床試験に参加している患者は、軽症、ちゃんと治療を継続している、協力的、自然に改善する、などの特徴がある。そもそも、「外来では派手な服を着ている」ということでYMRSで高い点がついても、入院しただけで寝間着になったら評点が下がる、これがプラセボ反応の理由だ、などと述べて笑いを誘っていた。
Lakshmi Yathamは、EMBOLDEN研究について紹介し、双極性うつ病に対し、クエチアピンは有効だが、リチウムはプラセボと差がなかったことを紹介した。また、バルプロ酸については、小さな試験二つ(Davis, Gheami)で有効あったが、他に未発表のデータ(Muzina DJ、Sachs)もあり、無効なものもあると述べた。
アリピプラゾールの双極性うつ病への試験は二つ行われ、両方とも同じ傾向(微妙に効いていそう)だが、有意な効果は認めなかったことを紹介した。
また、Lamotrigine、Ziprasidoneは双極性うつ病に有効ではなかった。
クエチアピンは、これまで300mg 811名、600mg 816名、プラセボ580名のデータが蓄積されたが、5つの試験で全て有効であり、双極性うつ病に対する臨床試験で確実な効果が見られる唯一の薬であると述べた。
EMBOLDEN IIでは、パロキセチン単剤も比較しているが、やはり効果はなかった。
その他、大きな試験における方法論の問題を提起し、HAM-D 20点以上、という組み込み基準の臨床試験の症例を分析すると、HAM-Dは当然、片正規分布的な分布を示すが、同じ患者群でMARDSスコアはなぜか正規分布している(!?)、という例を示し、軽すぎる患者が含まれていることがプラセボ反応を高め、臨床試験で有効性がでにくい結果を招いていると述べた。
最後に、Diagnosis Roundtableという、DSM-Vに向けての診断の議論が行われ、各発表者の短い発表の後、活発な議論が行われた。
DSM-Vの気分障害ワーキンググループの委員長であるJan Fawcettは、うつ病と双極性障害のサブグループに分かれて、電話会議などで議論を進めていることを紹介し、臨床的に有用な、うつと双極性障害の境界線を議論していると述べた。
現在、大うつ病に、閾値下の双極性障害的な特徴を持つというspecifier(特定用語)をつける方向が議論されている。また、混合性の特徴というspeciferを作ることも検討している。
また、自殺リスクという新たなディメンジョンを作ることも検討している。
BDサブ委員会のメンバーであるTrisha Suppesは、BPI、BPII、BPNOS、MDDというスペクトラムの中で、NOSの部分をどうするかを検討していると述べた。軽躁状態の期間が短い場合、重症度の基準を満たさない場合、pure hypomaniaなどの位置づけを議論中で、現在のBPNOSは” kitchen sink”(何でもあり)なので、これを何とかしたいと述べた。
また、Cyclothymiaは、治療法もはっきりしないし、personalityとの境界もあいまいで、そもそもこの診断が何かの役に立つのか、という議論がなされているとのことであった。
また、Boris Birmaherは、小児Bipolarについてのべ、現在、多くの子供がBPNOSと診断されているが、発達に応じた症状の定義が必要、エピソードなのか慢性の症状なのかの明確化、他の関連疾患との症状の重なり(ADHD)、期間の定義などを特定しないといけないと述べた。
COBY研究(Axelson D, Arch Gen Psychiatry 2006 Oct;63(10):1139-48)では、独自のBP-NOS基準を設けている。NOSとなった理由は、74%が、エピソードの期間が足りない、ということであった。DSM-Vでは、どういう理由でBPの基準を満たさないのかを明記することなどを検討しているという。
COBY研究の結果では、家族歴がある場合、ない場合よりも、conversion(BPの基準を満たすようになる)の率が高いとのことであった。
最近、BIOS (Bipolar Offspring Study)で、双極性障害の子供で双極スペクトラムが多い、と報告された(Birmaher B, et al. Arch Gen Psychiatry. 2009 Mar;66(3):287-96.)。
次はDBSA (Depression and Bipolar Disorder Support Alliance)の副代表であるJim McNalty氏が発表した。彼は、自身が双極性障害を持ち、DSM-V Task Forceのメンバーでもあり、当事者およびピアサポーターとしての立場から発表した。彼は、NOS(他に特定できない)というのははっきりしなくて、もっと正確な診断をしてほしい、とか、サブタイプというのは、それぞれ違う病気なのかどうか、よくわからない、いったん基準ができてしまうと、診断の限界を理解せずに使われてしまう傾向があることなどを述べた。そして、診断法の限界を示してほしい、BPと診断されたらその後どうなるのか、この「わからなさ」にどうやって取り組めば良いのかを助けてほしい、recovery(回復)の概念を取り入れてほしい、わかる言葉を使ってほしい、などと注文をつけ、どれもなるほどなあと思った。特に、「回復」の基準を作るというのは、名案かも知れない。治るのですか、とか、どうなったら治ったといえるのですか、とよく質問されるが、「双極性障害、回復」などときちんと定義するという訳である。
次に、Darrel Regierは、これまでのDSMの変遷について
DSM-I 原因による分類
DSM-II 用語集
DSM-III 操作的基準というパラダイムシフト。妥当性より信頼性、というコンセプト。
DSM-IIIR ECA研究の成果を取り込んで基準を拡大。ヒエラルキーの存在を前提としたComorbidityの考え方の導入
DSM-IV 臨床的に重要な苦痛、という基準を導入
DSM-V パラダイムシフト?(Dimensional、spectrum、developmentalなど)
とまとめた。
DSM-Vでは、統合失調症の基準に認知機能障害もはいるだろう。
そして、DSM-Vでは、カテゴリー診断とdimension診断の併用の方向である。
Dimensionとしては、うつ、不安、物質乱用、睡眠/覚醒機能、自殺傾向などが含まれる。
これらの議論は、APAのHPにも載せられている。
(http://www.psychiatry.org/MainMenu/Research/DSMIV/DSMV/DSMRevisionActivities/DSM-V-Work-Group-Reports/Mood-Disorders-Work-Group-Report.aspx)。
その後の議論では、子どもの臨床家が、自分の病院にBipolarとして送られてくる子供の多くが過剰診断だ、あいまいな基準のために、怒り、衝動性を示す子がみなbipolarとされており、false positiveが多すぎる、と注文を付けていた。
全体を通して、
体育館の様な会場が満員になるほどの人数が集まった上、10もの会場に分かれて、全てのセッションが双極性障害の話であるという、竜宮城にでも来たような不思議な感覚であった。日本うつ病学会では、たった一つの双極性障害シンポジウムを開催するだけで四苦八苦しているというのに…。
とにかく、双極性障害に関する膨大な情報が日本には十分伝わっていないと痛感した。お前にも責任に一端があるだろう、と怒られてしまうかも知れないが、脳科学・ゲノム科学・エピジェネティクスの最先端の情報を元に双極性障害の研究を進めつつ、臨床試験に診断に心理療法まで把握できるだろうか…と思うと気が遠くなった。今回、社会リズム療法のセッションに出た、と言ったら、知り合いから、「あなたの専門と全然違うじゃありませんか」と言われたが、じゃあ、だれか社会リズム療法について教えてくれるのか?というと、あたりを見回しても日本人は筆者以外に見あたらず(44カ国というけど、ひょっとして日本からは筆者1人?)。今回はパリでのWFSBPと重なってしまったという不運もあるとはいえ、日本の双極性障害研究者が増えないと、どうにもならない、と思った次第である。
本学会は、研究者、医師、コメディカル、当事者が一体となっているという独特の学会であり、質問に立つ人には、当事者の方もおり、認知テストの結果を機能障害と決めつける演者に対して、サポートグループの人から、それは症状が残っているだけではないか、と突っ込みが入ったり、眠いせいじゃないか、など根本的な疑問が出されるなど、当事者の質問は研究者にとっても有意義だったと思う。会場で配られていた冊子「bp magazine」(http://www.bphope.com/)も、当事者・家族向けの雑誌で、Newslineとして最新研究が取り上げられている他、新薬情報、当事者の自己紹介、体験談(今回はhypersexyalityについて多くの人が登場して語っている)が載っていたり、実にびっくりするような内容であった。
次の本学会は2年後であるが、その前に、4th International Society for Bipolar Disorders Conferenceが、ブラジルのサンパウロで、2010年3月17〜20日に行われる。シンポジウムに呼ばれているという説もあり(聞いていないのだが…?)、ついに生まれて初めての南米行きとなるかも知れない。もし行くとすると24時間以上の長旅である。